帝都設定集

設定集:彼方の帝都

主に用語・登場人物の設定集です。それなりに量が多くなること、用語集も兼ねることから別の記事になりました。

*用語:組織編*


「真理統制局」:帝都の中心部に聳え立つ銀のタワーを中心として各地にネットワークを持つ、帝都における行政機関。主な政策の実行を担う。各種輪廻技術の開発なども担当しており、最もエリートキャリアと呼ぶにふさわしい場所。自治・警察機構も兼ねており、“白刃”も彼らの管轄。それもあってか浄罪騎士団とは明らかに違うことをひけらかす者も多い。


「法典聖堂」:帝都の中では東の一帯にテリトリーをおき、銀の花の紋章を用いることで知られる立法機関。法律の制定に関してはまず皇帝を通し、それから統制局、最後にこの法典聖堂に持ち込まれる形で決定する。便宜上、法典聖堂のリーダーは法王と呼ばれることが多い。
 あくまでも形式上のものであり、権力を表しての「王」という呼称ではないことに留意されたし──最もそれさえ、皇帝そのひとが持つ絶大な権力から来る寛容さであるのかもしれない。


「浄罪騎士団」:帝都が持つ軍事勢力にして、司法を担う一大勢力。兵舎の数々はそもそもが砦として機能する上、“黒刃”のほとんども彼らが所有するものである。所属する者のほとんどが軍人だが、更にその大半は貴族ではない叩き上げが多く、他の二陣営からは軽んじられることも多い。これが何を意味するか──彼らは司法機関でありながら、貴族を裁くことは根本的に難しいように出来ているのだ。帝都の貴族社会が生んだ闇の一面、その一つであるとさえ言える。
 処刑人や獄吏の類など、しょせんはその程度の扱い。誰もが花を愛でるように、地の根は見向きもされないものだ。


「イザールの火」:整然かつ広大な帝都に蠢く不穏分子の吹き溜まり、それが自ら名乗りを上げたもの。上層部からすれば粛清対象でしかない。侵略によって併合された土地の過激派や平等な政治を求めるもの、あるいはそうして制裁を受けたことのある者たちの無軌道な集合体である。
 だから彼らは声を上げ続けるのだ。不平等を街角に書きなぐり、理不尽を歌に変え、せめて傷を残そうとするように。彼らの中には元々帝都上層で働いていた者もいると言い、輪廻兵器のいくつかが横流しされているという噂も絶えない。そうでなければ、たとえ火の粉ひとつぶだろうとあの恐ろしい“黒刃”の手から逃れられるはずがない。

 イザールとは、この地に古くから伝わる御伽噺の魔女の名だ。彼女は恐ろしく、けれど自らに教えを請うた子らには優しく、その魔術の秘奥を惜しげもなく与え──そして、彼女とその子らの炎は大地を焼き尽くし、ただ銀の花が咲く池だけが残る。それは畢竟、子供たちに言って聞かせるための作り話にすぎず、微に入り細を穿つ表現が成された文学とは違うものだ。だからこそ、その解釈のほとんどは聞き手に、あるいは読み手に依存する。


*用語:単語編*


「輪廻技術」:命が尽きるとき、あるいは尽きたのちに生まれる邪悪な瘴気、それを科学転用するための技術。そもそもがブラックボックスである瘴気をある程度とはいえ自在に操ることができる彼らの技術力は極めて高度であると言わざるを得ない。
 また、故にこそ帝都において異術は禁忌の技とされている。魂を対価に行われる光の術は瘴気と相性が悪く、互いに食い合って甚大な被害を及ぼすこともある。これが何を意味するのかを知る者はいない──オズの存在のすべてはルシスが秘匿しているからだ。

 輪廻技術は主に抽出・指向・命令の三つで成り立つ。抽出がどのように行われるかは想像していただくとして、取り出された純粋な死のエネルギーに指向性を与える──これは主に異術のような思念を介したプロセスと、チューニングされた機械によって行われ、剣であるなら剣に、盾なら盾に、形を決めるもの。最後に、指向性を持ったそれに命令を与える。“黒刃”のような単一目的の存在ならば一言で済むうえ長期的に実行可能だが、そうでない場合はその都度命令を与える必要がある。と言っても難しいプロセスはなく、要は剣を抜く時に刃をイメージするようなものだ。既に指向性を与えられた輪廻兵器は剣になろうとし、その時その想いに応じた形になるだろう。

 かねてから研究段階だったこの技術が突如として花開き、帝都の浄罪騎士団は周辺の諸国をあっという間に侵略・制圧してしまった。それはきっと、どこかで、彼が目覚めた日だったのだろう。いま現在帝都に満ちている輪廻の力は、その際に“回収”されたものだ。


「黒刃・白刃」:輪廻技術によって生み出された、命無き殺人兵器のこと。
 黒は完全に自律しており、与えられた命令を遂行するためにいくつかの形態を使い分け、侵蝕ブレードやビームといった高度な武装を駆使して対象を破壊する。反面、現場での判断に戦果が左右されることも多く、複雑な命令を理解できない黒刃の改良は続けられている。

 白は搭乗式であり、パワードスーツのように纏うものから上級警吏に与えられた完全密閉式のものまで存在する。黒刃のもつ欠点を克服した代わりに人的資材が必要となる。兵装は基本的に同じだが、瘴気そのものめいた不吉な姿の黒刃とは裏腹に洗練された白銀のフォルムを持ち、時折赤く澱んだ排気を行うエグゾーストマニホールドが取り付けられている。

 カラーリングは黒・金と銀・赤。


「異術」:ルシスの光が届く地域ではごく一般的な概念として知られる、奇跡の業。知名度はそこそこだが使い手は明らかに限られ、特別な資質あるいは触媒が必要となる。魂そのものをエネルギー源として消費するため、フィードバックとして肉体的・精神的なダメージを同時に受けることになるのが欠点。

 といっても、それはルシス城下街での話。帝都における異術は明らかな禁忌であり、記された文献もごく僅か、かつ法典聖堂の管理下にある。統一された呼称もなく、基本的には存在しない概念である。

──というのも表向きの話。不可解かつ絶大な出力を持つそのプロセスを解析しようという試みは水面下でずっと続けられており、人的被害を前提としないその力については法典聖堂が率先して研究にあたっている。その結実とも言えるのが、先帝の忘れ形見──ヴァルアダンとエルヴェール、そしてローダバルの三人なのだ。


「聖剣機構」:ヴァルアダンが見た滅びの未来を回避するために設計された、人型決戦兵器。白刃をさらに拡大したようなフォルムで、やや女性型。巨大な瘴気侵蝕ブレードの「聖剣」、無数の魂を内包することで阿頼耶識めいた集合意識プロセッサを実現する「エルヴェの聖杯」を組み込み、さらに幾つかの兵器を搭載した超火力・高機動モデルを目指している。


「エルヴェの聖杯」:帝都地下遺跡から発掘された奇妙なアーティファクト。その機能から、エルヴェールの管理下に置かれ監視されている。
 かつてのオズの狂信者が造り上げた瘴気の器であり、瘴気を汲み上げ魂の声を聴くためのもの。理由はただひとつ──無数の犠牲者が上げる苦痛の呻きこそ、彼の力であったからだ。


*キャラクター設定・真理統制局*


統制局長ヴァルアダン

「僕はお姉様に尽くしてきた、そうでしょう?聡明なお姉様なら、なにが正しいのかはもう理解しているはずだ。頷くだけで、貴女の大切なものは護られるのだから」

「構わない。どんな手を使ってでも見つけ出せ。あの女の最後の未練だ。しがみつくものを失えば、僕の足元に這いつくばるだろうさ」

「僕は!必ず!この国を守り抜く!その為の力、その為の犠牲だ!」

 先帝が残した帝位継承者、その一人となる皇太子。冷静沈着、神算鬼謀。幼い頃から帝王学を学び身に着けてきた、生粋の貴族。人の上に立ち導くことを使命と感じ、国益を実行するためにならどんな手段も厭わない。
 優れた研究者としての面も持ち、聖剣機構シトナ・エセクの開発主導者でもある。その完成に至るまでに必要な犠牲者の数など、彼はもう覚えていない──それはあくまで記録上の数字、そのひとつに過ぎないからだ。
 先帝が選んだ二人の妃は、それぞれが“銀の血”を引く古い貴族の家柄であり、それが何を意味するかを知っていたのは先帝だけだった。ヴァルアダンは自らに異術の才があることをおそらく知らないか、知っていても不要と断じているのだろう。
 彼はこの国を永遠に繁栄させるために戦う。聖剣機構が完成すれば彼の都に楯突くものはなくなり、彼が見た破滅の未来からも、きっと彼の国を護ることができるから。

 オズの手がこの地に及んだ日のビジョンを夢に見たことで人生を狂わされた人。あれほどの脅威に対抗し得る力とは……という模索の果てに聖剣機構に行きついた。
 もちろん瘴気を使っている以上何の役にも立たない。全部ルシスが悪い。とはいえこんなんがルシスに攻め込んできたら神代の戦争の続きが始まってしまうので、止めなければならない。

 温めたワインに蜂蜜を溶かしたものが好き。

最後の姫君、シオン

「お兄様っ」

 この都における、最大の特異点。最も幼き皇族であり、唯一誰からの敵意も受けない少女。第一王妃が突然の怪死を遂げる、そのわずか半年前に生まれた姫君。実質的に彼女を育てたのはヴァルアダンたち三人であり、それゆえ無邪気に三人を平等に慕っている。とにもかくにも純粋無垢で、さしものヴァルアダンも彼女を利用することは出来ずにいる──自在に彼ら三人の間を行き来できる存在は、もはやこの少女だけなのに。いかようにも利用できるはずなのに。

 もはや理性を半ば失いかけているローダバルにも遠慮なく近付き、遊んでほしいとせがむこともある。それを黙って受け入れ、されるがままに振り回されるローダバル──あるいはそれこそが、彼を繋ぎ止めている最後のピースなのかもしれない。

 例に漏れず異術の適性を持つが、幼さのゆえにまだ何も知らない。フローライトという家に友達がいたらしく、今は遠くへ行ってしまった彼女に毎日祈りをささげている。

 一応の所在は真理統制局の預かりとなっているが、彼女の自由気ままさは誰もが知るところであり、ボディガードがついていればどこに行く事も認められている。……というか、誰にも拒否できない。
   

聖剣機構シトナ・エセク

「入力コンプリート。シトナ・エセク、起動しました。オーダーをお願いします」

──機密事項です。


*キャラクター設定・法典聖堂*


法王エルヴェール

「祈りなさい。前を向いて、光を信じて。明日の希望を信じられないのなら、私が皆の希望となりましょう」

「そうよ。誰でも、縋りつくものが欲しいだけ。耐え切れなくなったら打ち棄てて、踏みにじって、唾を吐きかけるための偶像がね。……でもいいの。私がそうあることで、救われる人がいるならね。私はそのためなら、一人でも多くの罪なき人が救われるなら、死んでも戦い続けてやるわ」

「……いつかね。いつか、あの日みたいに、三人でお茶を飲めたらなって、思うのよ」

 帝位継承者、その一人。ヴァルアダンの異母姉にあたり、年齢で言えば継承権の一位は彼女。その差がほんの数か月であることと性別、そして功績の数々……それらが事情を複雑にしている。

 ヴァルアダンが策略の人なら、彼女は根性の人と言える。とにかく異様なガッツを持ち、かつそれを表に出さず、ミステリアスな女法王を完全に演じ切っている。──というより、どちらも彼女であるといえばそうなのだろうけれど。もちろん、だからといってヴァルアダンとの駆け引きに遅れを取らない程度の心得はある。彼女とて皇帝の娘、帝位を求める資格は十分にあるのだから。

 とはいえやはりヴァルアダンの方が一枚上手であり、今現在彼女が置かれている苦境はまさに彼の策によるもの。輪廻兵器の使用に反対するセレモニーの最中、彼らの一人が“突然”統制局警吏官を攻撃。たちまち乱闘騒ぎが起こり、“運よく”居合わせた上級警吏長官補佐がそれを鎮圧、“偶然にも”市民に怪我人はなく、警吏官一名が重傷を負っただけに留まったのである──普段であれば容易に鎮火できたはずの騒ぎだったが、“何故か”その話題は何度も繰り返し伝えられ、尽きぬ種火のひとつとなってしまった。

 彼女の母は来歴不肖の放浪貴族であり、その血脈を先帝に見込まれ、帝都に囚われたものだという。エルヴェールを生んですぐに彼女は死に、ローダバルともども三人は第一王妃の手で育てられた。
 第一王妃の人徳は今なお偲ばれるほどであり、たとえ腹の違うきょうだいであっても等しく愛情を注がれた日のことを三人は決して忘れないだろう。
 その愛情に応えるために選んだ道は違ってしまったけれど、いつかと夢見ずにはいられないほどに。

 血脈から受け継いだ異術を修め、ある程度の光を操ることができる──後光を演出したり、暗い部屋で火を使わずに本を読んだりするためのもの。まだ先がある力だと分かってはいるが、この地で異術を学ぶことは極めて難しい──ルシスの光は淡く薄く、ほとんど届くことはないからだ。

 紅茶にたっぷり蜂蜜を溶いたものが好き。


聖堂騎士ミュゼット

「マジか。まあ給料分は頑張りますよ、見ててくださいね。おやつも増やしてくださ……冗談ですってぇ」

 法王エルヴェール直属の武力担当、聖堂騎士。チューニングされた白刃三体それぞれが率いる中隊からなる三個中隊規模の兵力だが、行使されることはほとんどない。主な仕事は掃除と礼拝、イベント時のスタッフ、とかそんなところ。つまりはシスターさんと変わりない。
 ミュゼットはその中でも抜きんでた実力を持つ白刃の操縦者であり、シオンの護衛に当たることも多い。何より、立場や地位をあまり気にかけない砕けた態度で人当たりが良い。いい加減と言えばいい加減だが貴重な人材であろう。かなり鍛えている。

*キャラクター設定・浄罪騎士団*


浄罪騎士長ローダバル

「俺の。邪魔を。するな」

「全ての罪が焼け落ちて、この街の腐った骨が露わになる。俺は奴らの屍の上で、ようやく母さんと巡り合えるんだ。もう一度、もう一度だけでいい。叱ってほしい。赦してほしい。そうして…………俺は、ようやく、そこで、終われる。そうでなきゃ、永遠に終われないんだ。俺は、俺は、そう誓ったんだ」

「ああ。これが、痛み。これが、後悔。兄さん。姉さん。俺は、あんたたちを、殺すよ」

 皇帝の血を継ぎ、けれど妾の腹から生まれた不義の子。その女が狂死してからも、第一王妃は彼を我が子のように愛し育てたという。そうでなければきっと、彼はこの場所にいなかっただろう。

 ローダバルは第一王妃を母と慕い、ヴァルアダンを兄と、エルヴェールを姉と敬って育った。己の身が卑しいものであることを知りながら、それを赦してくれる世界に感謝していた。全身全霊でその恩を返そうと必死で努力していた。

 だからこそ、その幻想が破られた彼の絶望はあまりにも巨大なものだっただろう。第一王妃が死に、まだ子供と呼べる歳の彼ら三人はそれでも寄り添って互いを助け、前を向いていた。少しずつ、ローダバルの周りからは人がいなくなっていった。皆、王妃への敬意からそうしていただけだと知った。
 それでも彼は平気だった。きょうだいがいた。あまり顔を見せることはなかったが、父がいた。剣に励み、苦手な勉強も頑張った。

 父が死んだ。何故なのかは分からなかったが、何もかもがひっくり返るほどの騒ぎだった。「ねえ……」ローダバルの不安を受け止め、ヴァルアダンは頼もしい兄の顔をしていた。「大丈夫だ。僕たちは何があっても一緒だから」

 その言葉を彼は信じた。ほどなくして、三人が会う機会は少しずつ減っていき、やがては──

 ローダバルは絶望し、けれど折れなかった。手のひらを返したように蔑まれ追いやられながら、彼は自ら選んで軍人となり、始まったばかりの侵略戦争の前線へと突っ込んでいった。あるいは、死に場所を求めていたのかもしれない。けれどそうはならなかった。彼は強く、輪廻兵器は圧倒的だった。

 そして──彼はその血ではなく、その戦績によって地位を保証され、認められ、浄罪騎士団の長となった。それが、彼の復讐のはじまり。もはや誰に手向けるわけでもない血の薔薇の、確かな芽吹きだった。ローダバルは母の面影をただひたすらに追いかける少年で、現実を受け止め切れなかった哀れな少年だ。

 導師セリカが「オズ」という架空の脅威にのめり込み、統制局主導の極秘プロジェクトを凍結するようにとヴァルアダンに進言したとき、彼は時が来たことを知った。ヴァルアダンは彼女を許さず、極秘処刑として浄罪騎士団へ送った。百人隊長ストリガは彼女の兄で、ローダバルに対して嘆願した──が、そもそも、ローダバルは導師ひとりが死のうが生きようがどうでもよかったのだ。ローダバルとセリカ、ストリガの間に交わされた言葉はごく少ない。
「聖剣機構シトナ・エセクとは何か」「聖剣の場所はどこか」その二つをセリカから聞き出し、無造作に彼は書類を書き換えた──「処刑執行済」。そして追放者の杖を渡し、セリカを密かに外へ逃がした。
 後の事は誰もが知る通り。浄罪騎士団は帝位継承権を求めるクーデターを起こし、二個中隊による陽動作戦を敢行。単身で真理統制局に乗り込んだローダバルは素手で白刃二機と渡り合って殴り倒し、以て「聖剣」と呼ばれていた最先端兵器を盗み出したのだ。

 元から優れた剣の才と瞬発力を有し、戦闘能力は極めて高い。常に瘴気暴走のバフがかかっているので睡眠もほとんど必要とせず、多少の傷もすぐに塞がってしまう。シトナ・エセクに搭載される予定だった「聖剣」は刃渡り三メートル近い特大剣だが、刀身のほとんどは凝結した瘴気であるため(見た目よりは)軽い。シトナ・エセクが持つ「転生回路」によって殺害対象を即座に瘴気へ還元するための仕組みを肌で理解しており、今の彼は生身でそれを可能にしている。
 つまりハイヴの剣と血の魔術みたいなもので、殺せば殺すほど強くなる。ヴァルアダンはそれを知っているので(開発者なので当然だが)、迂闊に手出しができずにいる。

 よく焼いたパンに蜂蜜をかけたものが好き──だった。今の彼が味を理解できているかは疑わしい。

浄罪騎士ストリガ

「舐めるな。俺たちは浄罪騎士団、罪たる全てを許しはしない!」

 導師セリカの兄であり、浄罪騎士団で百人隊長──中隊規模の部隊を任されている。彼は貴族だが、ひたむきさと分け隔てのなさから部下からの信頼も厚い。帝都の在りようを憂う一人でもあり、浄罪騎士団こそがそれを正すものだと信じて戦っている。だからこそ現状のローダバルに対しては思う事も多く、帰ってきたセリカと主人公たちに密かな根回しを行うことになる。


牢獄の管理人

「……」

 帝都に牢獄が造られてからずっと、その鍵を守っている老人。ローブと帽子で素顔はよく見えないが、シクターンのような灰の民であり、極めて長寿。おそらくは帝都が出来る前からここに住んでいたものだろう。牢は浄罪騎士団の管理下にあるが、鍵守はずっとこの老人が行っている。


哀れな虜囚、「小さな」イザリィ

「坊や、坊や、お祝いをしようねえ。こんなに大きくなってねえ」

 今日も彼女は牢の壁に向かって話しかけ、石のひとつひとつに血で名前を書き、その成長を祝っている。もはや壁面の全てを覆いつくすほどの血文字はただの一言──「ローダバル」。

 彼女こそ、ローダバルが秘する最大の恥辱。狂死したと誰もが信じる、彼の母。狂ったのは本当だ。だが死んではいない──皇帝の命にて、その身は厳重に保管されている。理由はひとつ。彼女もまた、異術の才を持つからだ。異術の可能性を集め続けた先帝が何を考えていたのか知るものはもういないが、こうしてその残り火は呪いとなって帝都を蝕み続けている。

「花よ花よ、教えておくれ、銀のくちびるで歌っておくれ。あの子はどこへいったかの」

 イザールのおとぎ話には続きがある。燃え尽きたイザールは、灰の中から生まれ変わったのだ。二人の小さなイザリィとして。
 かたや、心を失い、呪いを背負って炎を求め続ける哀れなイザリィ・スタラグマイト。そしてもうひとつは──銀の花として生まれ変わり、呪いの全てを置き去りに、光の中へと飛んでいく、イザリィ・フローライト。
 このイザリィはスタラグマイトの血を引く魔女のかたわれの末裔であり、遅かれ早かれ狂うさだめにあったものだろう。つまるところイザールとは、かつて分光の王に仕えた異術師の一人であった。イザールの二人の娘のうち一人はルシスへ辿り着き、そしてもう一人はそれが叶わず狂い果てたものであろう。
 その血を濃く受け継いだローダバルが狂気に堕ちるのもまた無理からぬこと。他の二人とは違う、炎の異術の素養があることも意味している。

 信念と狂気とはごく薄い紙の表裏であり、どちらも等しく力と変わるものだ。それが聖なる光であれ、呪われた炎であれ。

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