史上最大のショートスクイーズ大作戦【7】流動性の枯渇&大爆発
「自然な」出来高
一般に、出来高はその銘柄への市場の関心の度合いを示す。強気にせよ弱気にせよ、関心が高まって取引が増えれば出来高が増えるサイクルだ。
具体的に言えば、ある銘柄を買いたい人が増えて株価が上がり、株価が上がったのを見てその株を手放す以前からの所有者が増え、ホルダーの入れ替わりと共に株価が上昇していく。つまり需要が増加するケース。
あるいは逆に、ある銘柄を売りたい人が増えて株価が下がり、株価が下がったのを見て、安値になった株を新たに買った所有者が増え、ホルダーの入れ替わりと共に株価が下落していく。つまり需要が減少するケース。ということになる。
前者の例として、コロナショック前後の$ZMの価格と出来高の推移を見てみよう。
ZOOM会議の需要増に伴って銘柄の出来高も増加傾向にあることが見て取れる。
後者の例として、同じコロナショック前後の$AALの価格と出来高の
推移を見てみよう。
2月にはまだ不確実性を伴っていたCovid-19への懸念から同銘柄が売られはじめ、WHOによるパンデミック認定、アメリカ各州のロックダウンが順次始まった3月中旬になると売られ方が一層激しくなったことが見て取れる。$AALの関係者には気の毒なことだが、市場としては健全な反応だと言えるだろう。
決算を機に-26.39%の衝撃的な下落となった$FBの場合も、市場の機能としては健全だと言えそうだ。
大幅下落を記録した日に「Meta」という単語が社名変更以来の検索数を記録したのはなんとも皮肉だが、「一斉に売られたことで価格が大きく下がる」という構造は保たれている。
ただし、分足データを見ると、価格下落の大部分は2月2日の市場クローズ後、決算が発表された直後に起こっていることがわかる。参加者が限られ投資機関が主体となるアフターアワーズで、323ドルから244ドルまで24%強の価格引き下げとなった30分間の出来高が約880万。翌日の寄り付きの15分間で244ドルから240ドルまで1.6%の価格引き下げとなった15分間の出来高が約2600万。後者の出来高が3倍近いのに、値動きへの影響力は15分の1ということになる。これが市場の機能として健全かどうか、自然と呼べるかどうかはさておき、機関の思惑が市場に大きな影響を与えている一例とは言えるだろう。
「不自然な」出来高
特定の機関による度を越したショートを受けている銘柄の場合、出来高が不自然に推移することがある。
ショートによる値下がりで銘柄に先行き不安を覚えたホルダーが持ち株を売れば、出来高が増え、一層値が下がることになり、ショート側としては利益が増える。しかし、ショートで値が下がっているにもかかわらず、なんらかの理由でホルダーが持ち株を手放さなかったら?
当然ながら、出来高は売り手だけでは増やせない。買い手と売り手が存在し、需要と供給が一致しないと取引は成立しないのだから。
ショートは「貸株」
以前触れたように、ショートは貸し出された株なので、市場に出てくる現物株を買い戻す必要がある。高値でも現物株が出回ればそれを買ってポジションをクローズできるが、現物株が十分に出回っていない場合は、そもそも買い戻しができない。ショートに使われた貸株が多ければ多いほど、買い戻しは困難になる。そしてもしも、発行株数以上のショートがかけられていたとしたら?
ポルシェによって現物株が固く握られた状況で、自分のポジションをクローズできるかどうかすらわからなくなったショート側は、週明けの狭い出口に向かって殺到することになった。
APEが$GMEや$AMCで展開しているのもこの作戦だ。個人投資家のスタンドアローンなクラスター的集団だから、ポルシェ1社のように意思を完全に統一することは不可能だ。しかし、大多数が状況を理解して、BUY & HODLを貫き、また、両銘柄に発行株数以上のショートがかけられていたとしたら?
ショート側は買い戻しに必要な現物株を取り揃えることが困難になる。
流動性
ある銘柄を買いたいときに買え、売りたいときに売れる状態にあることを「流動性(Liquidity)」と呼ぶ。
シタデル社の誇るダークプールCitadel Connectがいみじくも「流動性の高さ」を売り文句にしているが、それだけ流動性=十分な出来高は取引において重要な要素だ。
ロング(買い)ポジションなら、流動性が無く欲しい銘柄が買えないなら、単に「買えなくて残念」で済む。しかし買い戻さない限りはポジションをクローズできないショート・ポジションにとっては、「流動性が無い」状態は死活問題だ。
2021年1月のスクイーズ前後の$AMCを例に、実際の流動性を見てみよう。
既に激しいショートを浴びせられた状態をAPEが発見し、BUY & HODL作戦が始まっていた状態。
ショート側としては予想外のAPEの登場で、想定外に出来高が枯渇した状態だろう。APEが現れなければ、倒産するまで株価を下げて勝ち逃げしたかったに違いない。
重ショート銘柄の6つのフェーズ
大きく分けると、以下のようなフェーズに分けられると思う。
①出来高が増えたときにショートをかけて価格を下げる
②現物ホルダーの売りが出ないため買い戻しもできず、次第に出来高が細っていくフェーズ。ショートによって価格は下がるが、その売りをAPEがすぐさま買ってHODLするので、一層流動性が少なくなる。値幅は狭く、ボラティリティも次第に減少。このフェーズは2週間やそれ以上続くことも珍しくない。
このチャートでは、フェーズ②の最後は1月14日。ショート側が最後に思い切りショートをかけられた12月14日からちょうど一ヶ月後。
③出来高が極限まで少なくなり、いよいよ流動性が限界まで少なくなると、ショート側がショートカバーを始める。つまり買い戻しが始まり、買い手が急増することで出来高が急増する。
④急増した出来高を利用して、再度ショートがかけられる。この段階のショートカバーやショートが不十分だと、全体の買い圧力に押されてショートスクイーズ続行となる。
⑤値が上がると、群がってくるイナゴのいわゆるFOMO買いも加わりさらに価格が上昇する。
⑥ショート側に体力が残っている限りは、高値から再びショートがかけられて値が下がる。2021年1月28日には、ブローカーのRobinhoodが特定銘柄を購入できないように設定し、これらの銘柄を売ることしかできないようなあからさまな不正を行った。「不正をしなくては対処できないショートスクイーズの可能性だった」ことの裏付けと言えるだろう。
ショート側もただ手をこまねいてスクイーズを眺めるはずはないから、ショートスクイーズが起こる前にホルダーの心理を揺さぶって現物を手放させようとする。不自然な値下げ、企業に不利なニュースやアナリスト予想、SNSの揺動/不安誘発、など。
ある段階からは「値下げ」が目的ではなくなる点にも注意が必要だ。もちろんショート側にとっては価格は下がったほうが嬉しいものだが、ホルダーが手放した株を買い戻しに使うことの方がより切実な目的となる場合がある。値下げが目的ではなく手段になるということは、値上げも手段になるということだ。ずっと値下げで不安を感じていたホルダーは、「北風と太陽」のようなもので、さらなる値下げよりも、一瞬値が上がった瞬間の方が株を手放す心理になりやすいかもしれない。そうやって「フェイク・スクイーズ」が起きるのではないかとAPEの間では、ずっと言われているが、まだそれらしき兆候は出ていない。
さ〜て、今週の$AMCは?
これを書いている4月12日現在、直近の11日までの$AMCのデータは以下のとおり。
3月28日に44%の価格上昇を記録したのをピークに、出来高が減り、流動性が枯渇し、価格は下がり、また値動きのボラティリティもどんどん減じてきた。
もう一段の絞り込みがあるのか、もう絞り込みの最終段階に達したのかは不明だが、遠からず次の「流動性爆発」が来るだろうと思う。それがどのような規模やタイミング、期間になるかはわからない。
しかし、相当量のショート買い戻しが残っていることはたしかだろう。