史上最大のショートスクイーズ大作戦【5】伝統と格式ある米国株式市場が実は不正市場だなんて、そんなことあるわけが・・・が・・・が???
「株式投資なんて参加者同士のハラの探り合い。百戦錬磨の機関が無知な個人投資家より有利なのは技量の差だし、資金力が違うから規模の大きい機関の意向に向かいやすいのも当然」
という、投資がうまくいかない個人投資家側のボヤキは、市場が公正なルールに則って機能している場合にのみ正当だ。もしも、一部の投資機関だけに有利に働くような裏ルールがあったとしたら、同じボヤキになるだろうか?
最近、SEC(米国証券取引委員会)の議長であるゲイリー・ゲンスラーがインタビューでこんな発言をして話題になった。
NASDAQやNYSEは証券取引所だから、もちろん証券の取り引き機能は持っている(当然の話だ)。日本の証券会社を通じて米国株に投資している人の中にも、自分の注文はNYSE上場株ならNYSEに、NASDAQ上場株ならNASDAQに届いていると思っている人は少なくないだろう。
しかし、そうした注文を監視する委員会であるSECの議長自らが、個人投資家の注文の9割以上が、NYSEやNASDAQではなく別のところに届いていると公に発言しているのだ。
なら、我々の注文はどこへ?
NYSEでの取引は少数派
NYSE上場銘柄の中で、直近の2022年2月4日に出来高の多かった銘柄の取引状況を見てみよう
出来高1位 $SNAP (Snap Inc.)
取引のうち、NYSEで行われた取引は7.47%。過去30日平均は12.03%
出来高2位 $F (Ford Motor Co.)
取引のうち、NYSEで行われた取引は13.81%。過去30日平均は13.83%
出来高3位 $BAC (Bank Of America Corp.)
取引のうち、NYSEで行われた取引は20.81%。過去30日平均は22.79%
ETF代表 $SPY (S&P 500 ETF TRUST)
NYSEの中にはETFの取引に特化したNYSE Arcaという取引所がある。代表的なETFである$SPYでは、NYSE Arcaで行われた取引は19.33%。過去30日平均は18.42%。NYSEでも取引は行われており、こちらは3.57%、過去30日平均は3.15%
下は7%から上は22%強まで、いずれの場合もNYSEは出来高シェア第1位にはほど遠く、$SNAPなど銘柄によってはシェア第2位ですらないことがわかる。しかし、どの銘柄でも出来高シェア第1位を誇るのはOff Exchange。30%から50%のシェアを誇っているOff Exchange(市場外取引)とは、ここで挙がっている各取引所以外の、私設ダークプール等における取引の合計だ。
NYSEのレポートによると、これら市場外取引は2020年2月になってから急増したという。
さらにこの報告によると
とある。
NYSEという由緒正しき証券取引所があるにもかかわらず、ブローカー(証券会社)が自社で受けた注文をNYSEではなくマーケットメーカーに送る理由は?
それは、ブローカーにとって旨味があるからだ。
PFOFの仕組み
NASDAQの記事にもあるように、ブローカーは集まった顧客の注文をマーケットメーカーに送り、マーケットメーカーは自社に注文を送ってきたブローカーに対して手数料を支払う。その収入があるからブローカーは顧客に対して手数無料を謳うことができる。これがPFOFの仕組みだ。Payment For Order Flowとは、つまり注文の横流しに対するマーケットメーカーからブローカーへのキックバックだ。
手数料無料を押し出したアピールで顧客を集め、個人投資家ブームの火付け役となったブローカーのロビンフッドは、マーケットメーカーであるCitadel Securitiesから支払われるPFOFによって2020年前半だけでも2億7100万ドルの収入を得ている。TDアメリトレードの場合は同時期に5億6000万ドル。
もちろんマーケットメーカーには、キックバックを支払ってでもブローカーの注文を自社で受けるメリットがある。
PFOFによる多量の注文を自社で受け、対向する別の注文とマッチングさせ、顧客に不利な僅差の料金で約定させる。それが多量にあることで大きな利益に結びつく。
価格差は僅差なので、個人投資家は自分の注文が不利な価格で約定され、資金を掠め取られていることに気づかない。それどころか、ブローカーの言う「手数料無料」で得をしたとすら考えている場合すらあるだろう。タダより高いものはないのだ。
市場外取引が増えるとPFOFが増え、市場から公正な競争が奪われる。そしてその傾向が2020年以降顕著になっている。
ちなみに、シタデルは自社のダークプールCitadel Connectについて、米国上場株の取引の25%、個人投資家取引に関しては35%を取り扱う業界トップの仲介マーケットメーカーであると自社サイトで誇っている。
「うちのダークプールはシェア25%あって流動性が高いから、注文が約定しやすいですよ」という甘い言葉は、「正規市場から離れて価格を思いのままに扱うために、PFOFを支払ってでも25%のシェアを集めています。もちろんそれ以上の旨味があるからです」と同義だ。
$AMCの取引所シェア
そのことをふまえて、$AMCの取引所シェアを見てみよう。
市場外取引の割合が5割を超えていて、NYSEのシェアが10%に満たない。
$AMCと、上に挙げた他の銘柄と30日平均を比較したのが次の表だ。
$AMCの市場外取引の多さ=PFOF率の高さと、NYSEシェアの低さがわかる。また、$AMCに比べて$GMEの市場外取引が少なく、NYSEシェアが高いこともわかるだろう。
おそらく、これにはLIT注文の多さが関係していると思われる。
LIT注文
冒頭のゲンスラー発言の中にもあったが、LIT注文はLimit if Touched Ordersの略。顧客の指定どおりに注文を扱う市場に注文を通す方式のことだ。つまり、指値どおりに注文を受け付けておき、市場価格が動いて指値と同じ値段になって売買のマッチングが成立したときにのみ注文が約定する方式。
APEの間ではPFOFではなくLITで注文するように呼びかけられ、その知識も浸透している(一部のブローカーでは発注取引所を指定できる)。$AMCホルダーも例外ではないが、APEコミュニティを観察してきた私の印象では、$AMCにはそうした知識をもたないライト層も少なくなさそうだ。
それに対して$GMEのホルダーは、原理主義と言えそうなくらい$GMEを崇拝し、DDを熟読し、真のショートスクイーズでMOASSに到達するのは$GMEだけだと考えるコア層が一定数存在している(彼らは$AMCホルダーではないことが多い)。その反面ライト層は少ないだろう。となると、$GMEホルダーにとってはLIT注文は「常識」であり、多くのホルダーが当然のようにLITで注文を出すから、$GMEは市場外取引が少くなり、NYSE取引率が高くなっていても不自然ではない。他の銘柄よりもLIT取引率が高いくらいだ。
大きな力がはたらくとき
ここで改めて、2月4日にNYSEで出来高1位だった$SNAPの取引所シェアを見てみよう。
既に見たように過去30日平均は他銘柄と同様の穏健な状態だが、2月4日に限っては市場外取引が56.45%、NYSEが7.47%と、$AMC並の極端なシェア率になっている。
実は、同社は前日に好決算を発表した。直後のアフターアワーから株価は急上昇し、2月4日には前日比+58.82%もの上昇を示した。
過去の履歴をたどってみると、この日の取引所シェア率がいかに例外的なものだったかわかる。
好決算? ショートスクイーズ?
ちなみに、浮動株ショート率(水色)はOrtexの推定値で4.98%。
チャートを確認すると、浮動株ショート率が昨年9月から10月にかけて急上昇するのに伴って価格が下落しており、過剰なショートを受けて株価が下がった可能性が高い。
また、今年1月後半から浮動株ショート率は上昇した後に急下降。それを受けて数日後に株価が上向いている。
その後浮動株ショート率が急落する=ひそかに買い戻しが進んだ少しあとに株価が上向き、それを抑えようと再び浮動株ショート率が上がるのは、ショートスクイーズによく見られる動き方だ。
もちろん、決算は株価が大きく動く大きなきっかけだ。しかし、決算だけが株価を作るわけではない。今の米国株市場からは、決算内容よりもむしろショートやオプションその他の市場環境の方が株価を支配しており、一般向けの言い訳づくりのために決算をきっかけとしているような印象すら受ける。
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