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史上最大のショートスクイーズ大作戦【10】チェックメイト?

前回の記事から2ヶ月強。日毎のショート率に基づく私の分類によると第4期のヘビーショート期が終わり、5月9日からはじまった第5期の様相がそろそろ見えてきた。

前回の記事に掲載した5期の区分図

5月10日以降のAMCショート率推移

FINRAが毎日公表している各銘柄のショート率データを整理してみると、以下のようになる。

FINRAの日次データによる$AMCの日毎のショート率。

相変わらず出来高の50%以上がショートというひどい日が多いが、11月26日以降は数日の例外を除いて毎日50%以上のショートだったことを考えると、ショートが50%を切る日が増えてきているのがわかるだろう。

ショート率50%で区切った場合の日付

ショート率50%以上で連続する日が次第に少なくなっているのがわかる。3月21日以降は30営業日にわたってショート率50%を超えていたのに、5月10日からは9日間にわたってショート率が50%以下。5月23日からは再びショート率が50%以上になるものの、6日だけ持続して再びショート率は50%以下に下がった。7月15日以降は日替わりで50%以上の日、以下の日まで登場してくる有り様だ。まるでショートが息切れをし始めているようではないだろうか?
この頃にはショートの源である貸株の在庫が0になる場面も生じ始めていた。

IBKRのデータより。朱色が$AMCの貸株在庫数。青色が貸株手数料。

また、7月6日には$GMEの株主投票で同社株の「分割配当」が承認され、$GME株の入手を目指す動きが始まった。このためにショート側機関には焦りが生じていたことも少なからず関係しているだろう。

ショート率の推移から振り返れば合点がいくのだが、$AMCの株価は、第1四半期決算が発表された3日後、ショート率が40%を切った5月12日を底値として、その後は波打ちながらも上昇トレンドを続けている。

$AMCの価格と出来高の推移。日次ショート率が40%を切った5月12日の出来高が突出している。

$APE株配当

そんな中、AMCの8月4日の第2四半期決算報告とともに、$AMCの株式保有者には優先株式$APE(AMC Preferred Equity Unit)が配当されると発表された。8月15日の市場終了時点での$AMCの保有者に対して、$AMC1株あたり1株の$APEが配当されるというものだ。そして、この$APEは8月22日からNYSEに上場し、取引も行われる。$APEの発行数は、もちろん$AMCの発行数と同じ516,820,595株(5億1682万595株)。

従来の$AMCがもつ資産価値を今後は「$AMC+$APE」を合わせて担うのだから、この分割配当は本質的には株式分割のようなものになる。分割配当の実施例は多くなさそうだが、$GOOGLが2014年に1対2の分割配当を行っている。このときは旧$GOOGLの1株が「新$GOOGL(議決権あり)1株+新$GOOG(議決権なし)1株」の合計2株に置き換えられた。従来は1株に備わっていた資産価値を2株で担うのだから、新株それぞれの資産価値は半分になる。しかし、従前の保有者にとっては合計資産価値は変わらない。そして、新規参入者にとっては買いやすい価格になる。
議決権の有無はあれその他の権利は等しい$GOOGLと$GOOGの価格は、結果として1:1の関係を保ったまま、ほとんど同じ動きを続けている。

$GOOGLと$GOOGの株価推移。細かな違いはあるののの、ほとんど同じ動き方をしている。

$AMCと$APEの場合は、$AMC1株に対して$APE1株が配られ、$APEにも議決権が与えられる。だから、将来的に両者の内容に差が生じない限りはほぼ等しい株価でほぼ等しい動きをしていくと推測される。

なぜ「分割配当」という珍しい方法を選んだか?

今回の分割配当が本質的に株式分割のような性質だというなら、あえて珍しい分割配当にせずとも、より一般的な株式分割でも良かったのではないか?と考える人も当然いるだろう。
しかし、AMCが発行したわけでもない合成株を大量に生み出され、ヘビーショートに苦しめられ続けているAMCにとっては、株式分割では反撃材料にならない。$AMCの正規発行株数を増やしたところで、合成株が減らせるわけではないのだから。

しかし、まだこの世に存在していない$APEという株を新しく作れば、それに対する合成株は存在しない。通常の方法だと、すぐに合成$APEが生まれてしまうのだろうが、AMCガ新株$APEを正規$AMC保有者に配る業者をComputershareに指定したことで、1株1株を固有の株として識別できるようになり、合成株を創り出すハードルはグッと高くなった。

しばらく前からredditのapeたちの間では、apeたちで買い集めた株をcomputershareに登録していくことで、正規株数に対する保有率を高め、合成株の氾濫を証明しようとする動きがあった。この動きは特に$GMEに強く見られる動きで、よりホルダー層が幅広い$AMCにおいては$GMEほどの盛り上がりを見せていなかった。

ところが、AMCは、新株$APEの配布業者をcomputershareにすることで、$GMEが目指していた全株のcomputershare登録を、$APE株全体に対して一気に行ってしまおうというのだ。

$APEは正規$AMCと同数の516,820,595株発行される。ということは、市場に不正がないならば$AMCの正規の保有者のもとには必ず同数の$APEが届くのだ。
しかし市場に不正があり、正規ではない合成株が存在していたら?
$AMCを保有しているにもかかわらず、$APEが届かない投資家が発生する。$APEは、合成株の存在証明なのだ。

チェックメイト!

AMCのCEOアダム・アーロンは$APE配当について説明した一連のツイート#TodayWePounceで、「とても難しいけれど立体チェスをするのにとても満足している」と表現した。

「立体チェス」とは何か?
いつもの彼同様に、具体的には語らないが、私は $GME の分割配当との合わせ技による反撃のことだろうと思っている。

$GMEの分割配当も、通常ならば「1対4」の分割を行えば済むものを、あえて「$GME保有1株に対して、3株を配当する」という特殊な手続きで行っているのだ。この場合に配当される3株も、もちろん正規株の保有者にしか届かない。合成株の炙り出しを狙ったものと思われる。

いま何が起こっているか

8月4日の決算以降、$AMCの取引量が増大し、株価は大きく上がっている。

$AMCの株価(30分足)

決算の発表から数秒も待たずに株価が下落しているのは$AMCホルダーにはもはやおなじみとなった風物死。決算内容と無関係に上げ下げする様は、機関やマーケットメーカーが自分たちの意図でマーケットを動かしていることの証左としか思えないが、注目すべきはそのあとの上昇だ。

たしかにショート機関が清算に追い込まれれば上昇する、それを待って1年半以上もapeを続けているのだが、それにしてもこの動きはショートが力尽きたのとは違う。

ショート以外の機関も正規の$AMCを必要としている

市場の構造 @cringlekitten氏のツイートより

個人投資家は多くの場合、ブローカー/証券会社で株を購入する。昔のように紙の株券があるわけではないので、自分の買った株が正規のものなのか合成株なのかは、普通わからない。最悪の場合、ブローカーの手元には合成株すらも存在しないのに、株を「買ったことにされて」自分のアカウントに購入証明だけが存在している場合だって考えられるのだ。それでも、自分が持ち株を売ったときに、「市場で売ったことにされて」売却代金が正しく届けられれば、そのカネがブローカー自身の財布から出てきたものであっても気付くことはない。

個人投資家側は、「たぶんそういうヒドイことはないだろう」とブローカーを信用しているからこそ、大切な資金を預け、ブローカーを通じて株を買っているのだ。ブローカーに対しても、市場に対しても、そのような信用を積み重ね、全体が性善説で成り立っているからこそ、今の市場が成り立っている。
SECのような監督機関というのは、管理する各社に対して「性善説を裏切らずに正しく仕事を果たしているか?」とチェックするのが本来の仕事であるはずだ。

いま、$APEの登場によって、$AMCホルダーは「自分の持っている$AMCが本物か偽物か」を知る術を与えられた。
市場価格を支払い、ブローカーへの手数料を支払って保有している株なのだから、持っているのは当然正規株でなければならない。$APEが届かなかったら、ブローカーの不正がわかるのだから。

ブローカーの側はどうだろう。
もしも顧客にあてがっていた$AMCが合成株だったり、実は存在していない株だったら?
自腹を切ってでも、なんとか顧客分の$AMCを買いそろえて「ウチはもちろん正しく仕事をしております」と証明したいだろう。彼らは信用で成り立っているブラックボックスなのだから、$AMCでの不正が判明したら、他の銘柄でも同様の不正をはたらいているだろうと思われる。信用がなければ業務ができなくなる。

ではブローカーはどこから株を調達しているか?
ブローカーにとってのブローカーである「プライム・ブローカー」だ。不正をしていなかったブローカーがあったなら、$AMCを取引・調達したプライム・ブローカーに問い合わせるだろう。「今までにウチで購入した$AMCの分の$APE、ちゃんと期日までにもらえますよね?」

不正をしていなかったプライム・ブローカーがあったなら、彼らに$AMCを提供した投資銀行に同じことを訊ねるはずだ。

不正をしていなかった投資銀行があったなら、彼らはマーケットメーカーや清算機関にやはり訊ねるだろう。

身に覚えのあるブローカーも、やはり顧客を手放すわけにはいかない。どうしても$APEが手に入らない場合はどうするだろうか?

「株式配当はウチでは取り扱っていません。現金の配当のみです。$APEの当初額面価格が$0.01と設定されているので、1株あたり1セントをお客様の口座に入金します」
「まだAMCから弊社に$APEが到着していません。いつごろ到着するか時期も現時点ではわかりかねます」

あたりだろうか。顧客が諦めれば、これでコトが済む。

MOASSの底上げ

これまではショート機関をやっつけろ!HODLでショートを跳ね返してスクイーズを起こせばMOASSだ!
だったのが、$APEという明確な合成株炙りが登場したことで、市場全体の不正を暴くような流れまでが生まれてきた。

今現在の$AMCの上昇は、顧客や取引相手に対してなんとか$APEを届けて、不正は働いていなかったことにしたいブローカー等の業者の買いが多く入っているものと思う。
いわゆるイナゴ、個人のFOMO買いも加わっていると思うが、時間外取引の出来高増大や、取引時間内の出来高の偏りの少なさを見ると、個人よりは機関の購買が多いように思える。

一方で、$AMCを少しでも安く手に入れるために、あるいはスクイーズをできるだけ抑えるために、ショートも激しく行われている。

$AMCと$APEが一直線に月まで飛ぶということは、おそらくないだろう。しかし、上下動を繰り返しながら月まで飛ぶだろうし、$APEの登場で発射台はより高い位置に設定されたのだと思う。

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いんべス
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