史上最大のショートスクイーズ大作戦【4】$GME $AMCホルダー(APE)の基本戦略
ゴールはもう少し先かなと思っていたが、風雲急を告げる展開になってきたかもしれないので、駆け足で全体像を描こう。
斜陽産業? 経営失敗? それともショート?
過去も未来も順風満帆が保証された業界などそうそうあるものではない。アメリカ文化の一角を担い、20世紀を通じてアメリカ文化を世界に広めてきた映画界も例外ではない。家庭にテレビが普及し、ビデオが広がり、スマホでもストリーミングで気軽に映像作品を閲覧し、YouTubeなどで無料の動画が楽しめる環境が整うと、しだいに映画館の需要が落ちていくのは必然とも言えるだろう。
「映画館でしか味わえない鑑賞体験がある」。それは事実だが、「有料で映画館を使わなくとも代替できる鑑賞体験がある」のもまた事実。可処分時間は数多くの選択肢に分散する。
アメリカの映画館株として、$AMCと$CNK(Cinemark Holdings Inc.)を比較してみた。
2014年を基準とした伸び率の比較。同じ業界だけに、上がり下がりのタイミングは大枠では同期していること、2017年の6月頃まではずっとAMCの方が伸び率が良いことがわかるだろう。
それが2017年6月を境に逆転した。2020年3月のコロナ暴落以後もしばらくは$CNKの方が$AMCの上を行っている。
浮動株ショート率(Short Interest % of Free Float)
ショート率を測る指標として、米国の投資機関を監視する非営利団体FINRAが公開しているショートインタレスト報告がある。市場で取引可能な浮動株のうち何パーセントがショートに使われ、蓄積しているかというデータだ。
FINRA報告にある同データの最も古い日付である2019年2月11日の段階で$CNKの浮動株ショート率は11.2%、$AMCは19.42%だ。ちなみにこの値の現在までの最高はいずれも2020年12月14日で、$CNKが35.27%に対し、$AMCは66.91%だ。あきらかに$AMCへのショート率のほうが高い。
ちなみに$GMEは同じ2019年2月11日の浮動株ショート率は32.97%。最高値は2020年12月28日の170.24%だ。株価の伸び率ではない。市場で取引可能な株数に対するショート率が170.24%
ちなみに$GMEは同じ2019年2月11日の浮動株ショート率は32.97%。最高値は2020年12月28日の170.24%だ。
浮動株ショート率が170.24%
数字の読み間違えではない。
前回述べたように、ショートは貸株を借りて安値で買い戻そうとするものだ。つまり、ショートがどんなに多くても、市場で取引可能な浮動株の数を超えることはあり得ない。浮動株ショート率は最大100%までであるはずなのだが、$GMEの浮動株ショート率は、170.24%だった。市場の取引を監視する機関が報告した公の数字であるにもかかわらず。
読んでいる我々がおかしいのではない。この取引を行っている当人と、それを許している市場がおかしいのだ。
参考までに他の有名銘柄も見てみよう。
$AAPLの場合、2019年2月11日の浮動株ショート率は0.21%、最高値は2020年7月13日の0.82%。1%にすら届いていない。
$AMZNの場合、2019年2月11日の浮動株ショート率は1.19%、最高値は2021年4月12日の1.27%。2%にも届かない。
$TSLAの場合、2019年2月11日の浮動株ショート率は18.92%。最高値は2019年5月27日の32.17%で、2022年1月10日には2.77%にまで急激に下がっている。価格が上がり続ける状況に対して、ショートをかけるリスクが大きくなっているのだろう。
これらと比べると、2019年に11%のショートが積み重なっていた$CNKも執拗なショートにさらされていると言えるだろうし、今は大型銘柄となっている$TSLAもかつてはショートにさらされていた。それと同等に、またそれ以上に$AMCと$GMEがショートにさらされていることは、これらの数字からも明らかだ。
このようにショート率の高い銘柄は、斜陽産業とされる業界、特にインターネットの普及によってかつてほどの需要が見込みにくくなった業界や、バイオテクノロジー新興企業などに比較的多く見られる。
一匹の猫が始めたショートスクイーズ大作戦
マイケル・ルイス著「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」やその映画版「THE BIG SHORT」(邦題「マネー・ショート 華麗なる大逆転)で知られる投資家のマイケル・バリーが過剰にショートされている$GMEを一時期買っていた。
そして、同じことに気づき、redditとyoutubeで自分の投資を投稿し続けたのがredditアカウント名DeepFuckingValue、YouTube名Roaring Kittyを名乗るKeith Gillだ。
redditに残る彼の一番古い投稿によると、彼の最初の$GME購入日は2019年6月7日。この日の$GMEは終値5.02ドル。「$GMEが2021年1月15日に8ドルになる」ことに掛けるcallオプションを購入している。9月3日までに合計1000契約分。
信念を持って投稿を続ける彼に感化されて、彼と同じように$GMEをロングで、あるいはcallオプションで買う人が増えていき、ショート側にとっては想定外に浮動株が減っていった。
浮動株が少なくなると、貸株の供給が減り手数料は上がる。そして買い戻す際に株価は上がり安くなる。ショートをカバーして、ポジションを精算するためのコストが、ショートヘッジの想定外に急上昇した。
「2021年1月15日までに$GMEが8ドルまで上がる」ことにかけていた彼の投資は大当たりし、株価の高騰前、Utilization(浮動株の利用率。オレンジ)は100%に達し、貸株手数料(Cost to Borrow。紫)は23%を超えた。それを抑えようとショート側はさらに浮動株ショート率を高めて値下げを試みたが、価格は400ドルを超えた。個人投資家の買い向かいと、常軌を逸脱したショートの買い戻しとの相乗効果によるスクイーズだ。
1月28日、ショート側の陣営に立つブローカーのロビンフッドは、自社アプリの購入ボタンを使えないようにし、個人投資家側の追加購入を禁じて売ることしかできないように市場操作を行った。白昼堂々の犯罪的行為はのちに議会でも取り上げられ問題となるが、こうした介入が無ければショートスクイーズはさらに高く上昇したとされる。
APEのショートスクイーズ大作戦
SECがまとめた報告書によると、1月28日に$GME同様にロビンフッドによって「購入ボタン禁止措置」が取られた銘柄は$AMC, $BB, $BBBY, $EXPR, $KOSS, $NAKD(現$CENN), $NOK。全部で8銘柄あった。これらはいずれも、DeepFuckingValue/Roaring Kittyに影響を受けたWallStreetBetsやその派生グループが情報を掘り起こし、過剰なショート率で意図的に株価を下げられていることを発見した銘柄だ。
WSBのコミュニティの面々は$GME以外のこれらの銘柄も買い進め、ショートを覆してスクイーズまで追い込んだ。
この当時、最もショートスクイーズに近いと目されていたのが作戦の発端となった$GME。そして2番手と目されていたのが$AMCだった。
いずれの銘柄も1月のショートスクイーズ「挫折」以降、一旦は株価を下げ、離れたホルダーも一定数いたと思われるが、各銘柄に残ったホルダーはその後も株を買い続け、ショート側と一進一退の攻防を続けた。
そんな中、2番手にいた$AMCが価格の買いやすさもあってか次第に支持層を広げ、現在では$GMEと同等か、あるいはそれ以上にショートスクイーズのポテンシャルを持つ銘柄と認識されるように至る。
スタンドアローンのBuy the Dip
多量のショートで恣意的に値段が下げられた銘柄を見つけ、大量購入したまま売らないことで貸株の買い戻しを難しくし、価格が上がることを狙うのがショートスクイーズの基本戦略だ。
しかし、機関でもない投資家がそこまで影響を与えるだけの株数を手中に収めるのは個人では不可能だ。大人数の相互理解と協力がなくては成り立たない。充分な株数を手にするまでは、あるいは手にしたあとも、ショート側は逃げるために必死で攻撃してくるだろう。持ち株が半値やそれ以下に下がることもあるかもしれない。
しかしそれでも手離さずに、安値になったらByu the dipを合言葉にさらに株を購入する。
将来性ある企業を見つけ、価値評価から株価を想定する正統的な投資から見たら狂気の投資法だ。真っ当な人間の投資方法ではない。握力だけを頼りに、迷いなく目的を目指す猿の投資法から、いつしか$GMEや$AMCを買い進める個人投資家は、自分たちのことをAPE(エイプ)と呼ぶようになった。
APE側の投資と研究が進むと、それに対抗するようにショート側からは
非合法か合法かわからないような奥の手もさまざまに登場し、いかに市場が機関側の操作によって支配されていたかも次第に明らかになってきた。
しかし、世はSNS時代。APEの中にもその都度状況を理解し説明する猿が現れ、不当に株価を下げられつつも前に突き進んできた。
ショートスクイーズは近い
後日書こうと思うが、ショート側にも限界がある。私には、特に2021年の11月23日以降はショート側が毎日悲鳴を上げながら必死で状況から逃れてきたように見える。わかりやすい指標をひとつ上げれば「日中の取引の50%以上がショート」という状況が続いている。半分以上がショートなのだから、単純に言えば「ショートを買い戻せていない」。日々のショート率も、昨年1月や6月の比ではない。そこまでのショートを繰り出さないと一気に価格が噴き上げかねない状況なのだろう。
これも後述するが、FINRAの浮動株ショート率と実際の貸株料に大きな乖離が生じてきていると思われる。
「ショートは買い戻さなくてはならない」というビジネス上の原則が有効である限り一時的に価格が下がっても心配は要らない。過去のショートスクイーズ例を見ると、上昇の直前に価格が下がるのは、少しでも安値から買い戻しを始めたいのか、定型の流れのようなものだ。
2022年2月1日と3日の市場の様子を見ていると、いよいよ終焉を思わせる兆候が現れてきた。
MOASSが到来するのは今晩かもしれないし、来週かもしれない。来月再来月まで延命されるかもしれない。1年待っていた身としては、「その時」を楽しみに待つばかりだ。