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創作 霊験(4)-⑧ 畳

 うまい具合に娘は姿が見えない。
 あんまり酒を飲むな、とか、年寄りだから旅になぞ出るな、とか、ちょいと口喧しい娘に育ってしまった。躾けた娘に躾けられ、だ。もっとも、ちゃんと躾けた覚えなぞない。血の繋がらない娘だ。どう育とうが、興味はない。
 そういえば、あの娘は、母親と違って遊びに出かけたりはしないな。今もきっといつものように女中に混じって働いてるんだろう。あいつが子供の頃、その顔を見てむしゃくしゃしたので、家の娘だからって威張って楽するもんじゃない、御店では家の者が先頭にたって働くものだ、と、きつく叱ったっけな。それからだ。なんだか、よく女中に混じって働くようになった。実の娘ならそんなことはさせなかったさ。蝶よ花よと育てて、綺麗な着物を着て丁稚を連れて毎日買い物に行かせもしよう。箸より重い物は持ったことがない、いや、箸だって重いくらいだといったこれこそ大店のお嬢様だという娘に育てあげたことだろう。
 許嫁が同じ番頭だというのに、母親は遊び歩き、娘は店の手伝いをする。えらい違いだ。まあ、自分が酒が飲めるように、許嫁の番頭にすぐに店を譲ったから、あの口の大きな男がいまは御店の旦那様か。娘もおかみさんと言われて妙に張り切ってる。朝っぱらからご苦労なこった。


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