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霊験 2 娘の恋33
女房は頭の中で丹念に計画を立てる。そこには申し訳ないが、どうしても年増女の手を借りなくてはならなくて、女は心配しつつも快く協力をかって出てくれた。
子どもを産み育てた隣の年増女からはまず、子どもが生まれる前に起こりそうなことをよく聞いた。そして、いよいよの時は、具合が悪くて看病してもらうという名目で隣の家に寝かせてもらうこと、その間申し訳ないが隣の亭主は仲間の家で過ごしてもらうことを女二人は決めた。女の亭主も隣の女房を憐れんで、どうぞ気兼ねなく使っておくれ、と、優しい声をかけてくれて、若い女房は思わず涙出る。
そして、そのまま隣の家で出産させてもらうことにした。産婆は呼ばない。呼べば大事になる。気がついて、亭主に教える者がが出るのは困る。おばさん、頼む、お願いだ。仕方ないね。なんとか、あたしが取り上げてみせるよ。でもあんた、こんな薄い壁だ、あんたは頑張りで声をあげないって言ってるけど、まあ、なんとかそれができたとしてだよ、赤ん坊は無理だよ。赤ん坊は生まれりゃ泣くもんだ。隣に亭主がいれば嫌でも聞こえる。どうやって誤魔化すつもりだい?
おばさん、任せて。あたし、考えに考えたから。
だ、と、足に生暖かい水が身体から流れて、いよいよ間も無くだ、と、娘は破水に気がついた。昼間のことで、亭主はどこに行ったやら。また、目と鼻の先で養ってもらってるかもしれない。
娘はお守りから取っておいたお金を抜くと、部屋の目につくところに置いた。そして、隣を訪ねるといよいよなので、お願いします、と頭を下げた。
隣の女は手筈通り、長屋の顔見知りに娘の亭主を知らないか、と声をかける。そしてこっそり、あの部屋に潜んでいるはずだから、伝わるようにしとくれよ、と頼み込む。娘の具合が悪くなって、今隣の自分の家に引き取って、寝かせて看病してること、そして、寝込むようになる前に、娘が知り合いの娘さんから、薬を買うために金子を貸してもらったこと、その金子で亭主が薬を買って来てくれると助かるのだが。もし、うちの隣のご亭主が見つかったら、家に帰ったら、頼みたい薬の名前を教えるから、必ず隣に顔を出すように言っとくれ。