『澤近泰輔65祭 The Chronicle』第2部レビュー
『澤近泰輔65祭』の第2部は、9曲目から。まずキンモクセイの佐々木良さんが登場。
Sasatikaのステージが始まる。
セットリストは以下のとおりだ。
9.昔の約束(Sasatika)
10.サタデナイ(Sasatika)
11.愛は勝つ(Sasatika KANcover)
12.明日の風(八神純子)
13.TERRA~here we will stay(八神純子)
14.Love is alive(ASKA&八神純子)
15.はじまりはいつも雨(ASKA)
16.PRIDE(ASKA)
17.僕たちの大航海(宇海)
澤近さんは、2002年にキンモクセイ「二人のアカボシ」の編曲を担当し、曲も大ヒット。その後、キンモクセイが活動を休止した後の2009年から、佐々木良さんとSasatikaを結成して活動している。
佐々木さんが経営するライブレストラン『まほろ座町田』は、この誕生祭の発端となった澤近泰輔60祭を開催した場所であり、佐々木さんは、澤近泰輔誕生祭には欠かせない人物。
Sasatikaは、「昔の約束」「サタデナイ」を披露。佐々木さんもソフトな歌声なので、洗練されたアレンジと重なって、郷愁を感じる上質なポップスになっていた。
そんなSasatikaが最後に披露したのはKANさんのダブルミリオンセラー「愛は勝つ」。以前、誕生祭に出演してくれたKANさんが現在闘病中ということで、KANさんへの感謝と、「心配ないからね」という気持ちを伝える選曲にしたそうだ。
「愛は勝つ」は、さすがのパワーを持った名曲で、大いに盛り上がり、原曲のアレンジをしっかり生かしたまま、澤近さんの感性を加えた最強アレンジになっていた。
そして、ここからは男女のビッグアーティストが盛り上げる。
まずは、女性シンガーソングライターのはしりともいえる八神純子さん。
「明日の風」は、失う悲しみから前向きな力と癒しを感じられる。澤近さんのアレンジが冴えわたり、八神さんの歌声も若々しく艶がある。
「TERRA~here we will stay」の「TERRA」は、ラテン語で地球を意味し、サブタイトルは「ここにとどまれ」。
2021年に発表された楽曲で、八神さんがアーティストとして、今伝えたいことを世界に向けて叫ぶ、というコンセプトとなっているそうだ。
この作品は、もはやポップスの枠を超えて、まるで組曲のような壮大な仕上がりになっていた。
先進国の過剰な技術開発によって、地球本来の自然の営みを壊してしまった現状を憂い、もはやこれ以上の技術開発は、地球を傷つけ、地球を不幸にするだけではないか。
そんな想いが伝わってくる大迫力の歌唱と演奏に圧倒された。
そのあとは、ASKAさんが登場し、八神さんとまさかのデュエット「Love is alive」。
そういえば、この曲も、澤近さんの編曲だった。八神さんが言うように、澤近さんにバラードやミドルテンポのポップスを編曲させたら右に出る者はいない。
超絶な歌唱力を持つ男女シンガーが揃わないと成立しない「Love is alive」が聴けたのは、この2人が揃ったからこそである。
ここからはクロニクルを強く感じる名曲2曲。
まずは「はじまりはいつも雨」。ミリオンセラーにして、ASKAさんを国民的アーティストに押し上げた平成最大のロングヒット曲は、編曲を担当した澤近さんをも全国区に押し上げた。
私は3年前、この曲の発売30周年を記念した『「はじまりはいつも雨」を語ろう』という企画の中で、僭越ながら澤近さんの編曲について語らせてもらった。
未だに私の中では、この曲こそ、J-POPの編曲史を大きく変えるターニングポイントになったと確信している。澤近さんの編曲は、名作映画にたとえても遜色ないほどの芸術なのだ。
そして、澤近さんと言えば、チャゲアスナンバー1人気曲「PRIDE」。私が世界で最も好きな曲でもある。
澤近さんの作った「PRIDE」のイントロも、もちろん、世界中のすべての楽曲の中でナンバー1のイントロだと思っている。
私も、過去に「PRIDE」の魅力をつらつらと語させてもらった。
誰もが裏側に秘めている熱くみなぎる心情を完璧なまでに表現した神曲だけに、特別な魅力があるのだ。
ASKAさんの天才的なメロディーと詞、歌唱表現力に澤近さんのアレンジが見事に融合して、いつ聴いても感動を覚える。
ラストは、再び宇海さんが登場。澤近さんが上京した頃の気持ちを歌ったという「僕たちの大航海」を歌い上げる。未来へ向かう希望を大航海にたとえた名曲だ。不安を振り払うように自らを鼓舞するアレンジが気分を高揚させてくれる。
ステージ上を縦横無尽に歩き回りながら、力強く芯のあるロングトーンを響かせる宇海さんの歌唱も映える。
加山雄三の「海 その愛」を彷彿させるような壮大さ。
まるでポップスとクラシックとミュージカルが融合したかような世界がそこにあった。これぞ澤近さんの音楽。
まさにクロニクルのテーマ曲にふさわしい。
過去と未来を客観視してとらえる達観にたどり着いたかのような世界観が感じられた。
この『澤近泰輔65祭』を通じて流れていたのは、澤近さんがこれまでの音楽活動でターニングポイントとなった人々や楽曲との出会い、つながりだ。
澤近さんの才能、人柄に魅かれて縁がつながったアーティストたちが一堂に会して開催される奇跡のような誕生祭。それが『澤近泰輔65祭』だった。
きっとこの誕生祭は、これからもずっと続いていくのだろう。
私の脳裏には、もっと大きな会場で、もっと多くのアーティストたちが集まって、夏の風物詩となっていく未来の映像が浮かんできた。
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