ASKA「君が愛を語れ」から見える湾岸戦争勃発直前の未来
「はじまりはいつも雨」が発売30周年を迎えて脚光を浴びる中、私は、カップリング曲の「君が愛を語れ」もよく聴くようになった。
2018年のベストアルバム『We are the Fellows』に向けたASKA楽曲人気投票では「はじまりはいつも雨」が3位、「君が愛を語れ」は5位。
今思えば、あのシングルは、奇跡のシングルだったと言っても過言ではない。
「君が愛を語れ」は、ASKAさんが湾岸戦争勃発直前に制作したと明かしている。
湾岸戦争時、私は、まだ中学生だったが、学校中でその戦争が話題になっていた。
「なんかゲームみたいだね」
隣の席の友人は、ニュースの印象をそう語っていた。
戦争を知らない子供だった私たちは、多国籍軍がイラクを空爆する映像をニュースで見ても、遠い国の出来事にすぎなかった。
1990年8月2日、イラクがクウェート侵攻
1990年11月29日、国連が武力行使容認を決議
1991年1月17日、多国籍軍がイラクへ攻撃を開始し、湾岸戦争勃発
1991年3月3日、多国籍軍の勝利により暫定停戦協定締結
湾岸戦争自体は、わずか1か月半で終わった。
「はじまりはいつも雨/君が愛を語れ」のシングル発売が1991年3月6日だから、ASKAさんは、国連が武力行使を決めてから湾岸戦争が勃発するまでの間に「君が愛を語れ」を制作したのだろう。
結果論として湾岸戦争は、世界中に拡大しなかったが、戦争前は「もしかしたら第三次世界大戦に発展するかも」という恐ろしい噂が広まっていた。
時代と共に生きる感受性の強いアーティストたちは、そういった世界情勢からくる不安を作品で残してくれている。
ASKAさんは「君が愛を語れ」。CHAGEさんは「WINDY ROAD」。
当時は、世紀末にさしかかっていたこともあり、1999年で人類滅亡という、いわゆるノストラダムスの大予言を相変わらず信じる者も多かった。
そんな先行き不透明な世界情勢の中、生まれた「君が愛を語れ」は、自らが消え失せてしまうかもしれないという不安と孤独が強く感じられる。
最愛の人をずっと愛し続けたい気持ちを描いたラブソングなのに、不安の方が大きく上回っている。
そして、自らが無力で小さな存在であることを認めざるを得ない孤独に苦悩する。
歌詞に出てくる「聞き取れない愛の歌」「やりきれない愛の歌」は、直接的には海外のラブソングや、悲しい別れ歌を思い浮かべる。
しかし、比喩ととらえれば、海外のニュースや暗いニュースを指しているとも考えられる。
そうなると、「君」は、恋人というよりは、「聴衆」や「ファン」となるだろう。
そして「寒い五線紙の中」は、直接的にとらえれば、音楽を楽しめなくなってしまった自分たちを指すが、比喩ととらえれば、音楽さえ流れない戦時中と想像できる。
もし自らがいなくなっても、自らを知っている人たちが「愛」を語り、それらの人々がいなくなっても、「愛」を後世に語り継いでほしい。
この「愛」の中には、文字どおりの愛とともに、思想や作品、生き様といった様々な要素が詰まっているのだと思う。
ASKAさんが湾岸戦争勃発直前に描いた未来は、現在のコロナ禍から見る未来にも重なる部分が多い。
発売30周年にして、ますます存在感を増してきた「君が愛を語れ」は、やはり名曲中の名曲である。
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