Chageニューアルバム『YOU'RE THE ONE』レビュー
『YOU'RE THE ONE』は、セルフカバー4曲+オリジナル2曲のミニアルバムだ。
タイトルの『YOU'RE THE ONE』は、世界中でよく使われている英文だ。
ポール・サイモンのアルバム『You're the One』も有名だし、日本でも[TK presents こねっと]の企画シングル「YOU ARE THE ONE」がミリオンセラーとなった。
この英文にはいろんな翻訳があって、どう翻訳するのが一番なんだろうと考えてしまう。
「君は運命の人」
「君はかけがえのない人」
「君は特別な人」
よく見かけるのはこの3つだろう。
いずれも、大切な人を意味しているけど、それぞれに少しずつ印象が異なる。
「運命の人」と言えば、最愛の恋人を思い浮かべるし、「かけがえのない人」と言えば、恩人や家族を思い浮かべたりするし、「特別な人」と言えば大親友を思い浮かべたりする。人それぞれ、思い浮かべる人も多種多彩だろう。
英語にすると、いろんな意味を内包するから面白い。
Chageは、自らのファンクラブ会員を「特別」「家族」と表現するから、このアルバムの「THE ONE」はきっとファンという意味も内包しているように思う。
このアルバムタイトルは、収録曲「僕が見つけた気持ちのいい場所」のラストで出てくる歌詞だ。
「僕が見つけた気持ちのいい場所」は、私が発売当初から気に入っている曲で、自分のnoteマガジン『僕が見つけた気持ちのいい音楽』は、この楽曲へのオマージュで付けている。
この楽曲は、人間が感情の機微によって生み出す旋律を表現していて、音楽と人間との調和を超えた同化を感じられる。
歌詞の内容は、最愛の人へのラブソングとなっていて、「Forever」と8回繰り返して、「You're The One」へつなげるラストは、それだけで主人公が女性に対して抱く想いの深さが情熱的に迫ってくる。
今回のセルフカバー4曲は、10年ほど前に収録した音源に、現在のChageの歌声を入れたそうである。
「僕が見つけた気持ちのいい場所」は、ウッドベース奏者である渡辺等の洗練されたアレンジによって、現在のChageの活動にぴったり合致した楽曲に仕上がっている。
このアルバムの「遠い街から」「SOME DAY」「waltz」「僕が見つけた気持ちのいい場所」「そういうひと」と続く5曲は、いわゆる静のChageを存分に楽しめるアレンジだ。
静のChageを楽しむアコースティックライブとして始まった『Chageの細道』は、2022年に久しぶりに復活し、『Chageのずっと細道』としてChageのライフワークとなっていくらしい。
『Chageのずっと細道』YouTubeチャンネルも、ファンの勧める津々浦々をChageが訪れる企画がどんどん面白くなってきている。
現在は田舎で畑仕事をしながら音楽を奏でるフォークの神様岡林信康を彷彿とさせる活動だ。
「遠い街から」は、MULTI MAXのシングルとして発売になったとき、随分とヒット性からかけ離れた静かな曲を出すんだな、と違和感があって驚いたものだが、今となってはChageの実年齢にぴったりの曲として何の違和感もない。
必要最小限の演奏に絞って歌声の魅力を引き出し、フェイクを多用して随分とすっかり壮年のラブソングに生まれ変わった「遠い街から」「SOME DAY」。ソロになってからのChageは、声に太さが増して、響きが丸みを帯びてきて心地いい。
「waltz」では後半に「遠い街から」を交互に挟む遊び心が見事な2曲の融合を生んでいる。
そして、カバー4曲からの新曲「そういうひと」への流れも、全く違和感がない。
「そういうひと」が配信発売となったとき、私は、「waltz」といくつもの共通点を感じた。温かく優しいサウンド、日常に寄り添ってくれる人への愛情、そして「この道を」という歌詞など……。
きっと、「そういうひと」を制作した時点でChageの脳裏にはこのニューアルバムの景色が広がっていたのだろう。
そして、ラストを飾る「POP」は、程よくポップな中に、憂いを含み持っている。現在の時代を反映した楽曲だ。
アーティストが生み出す楽曲は、そのときの世界情勢からの影響を避けて通れない。
現在のコロナ禍、ウクライナ情勢、そしてスマホを筆頭とするSNS隆盛の影響が「POP」からは感じ取れる。
そして、この楽曲のテーマは、「Piece of Peace」平和のかけら。小さなものであっても、平和のかけらを見つけ出し、触れ合って生きていきたい。
このアルバムに収録となった楽曲群は、Chageのライフワーク『Chageのずっと細道』のテーマにふさわしいものばかりだ。
きっと、Chageは、これからも、運命の人、かけがえのない人、特別な人へ向けて多くの歌を届けてくれるだろう。
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