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【オリジナル小説】夢の跡

【オリジナル小説】夢の跡

犬山 翔太

「いやあ、懐かしいなあ。20代の頃はよくこの辺で遊んだよな」
 友人のミツヤが感嘆の声を上げた。ミツヤがここに来るのは20年ぶりだという。

「それがわずか20年でこんなに寂れるとは思ってなかっただろ」
「うん。時代の流れは残酷だな。久しぶりに郷愁に浸れると思っていたのに、あの当時の景色は見る影もないんだから」
 俺は、20年ぶりに東京から地元に帰ってきたミツヤとドライブをしている。車は太陽電池で動き、タイヤもない。少し宙に浮いて進むタイプだから極めて静かだ。

 だが、もっと静かなのは、車外の街並みである。
 このあたりは、かつて繁華街と呼ばれた大通り。俺が20代の頃は、いろんな店が立ち並び、特に居酒屋が多いところは夜遅くまで賑わっていた。

 しかし、現在では、見事なまでにシャッター街だ。

「まあ、地方都市は、どこも似たようなものだよ。東京は、さすがに賑わってるんだろ?」
「いや、そうでもないよ。東京でも実店舗は、どんどん閉店になって、ネットショップ運営のみになっていってる。実店舗がまだ栄えているのは、風俗店くらいのもんだよ」
「ははは。人肌に触れる店だけは、ネットよりも勝ってるんだね。まあ、実体験以上のものをネットで体験するのは無理だからな」
 ミツヤも、少し笑顔を見せる。
「この辺の風俗店は、もうやってないの?」
「まあ、そうだね。そもそも過疎化が進んでいるから、そんな元気のある客が少ないんだ。細々とやっているところはあるけど、昔のような賑わいはないよ」

 俺たちが乗る車は、元繁華街を抜けて郊外に出ていた。
「あそこが大型ショッピングモールだよね」
 ミツヤが指差した先は、巨大な建物が並んでいる。
「そう。お前が上京する1年前にできたんだったよな」
「ああ。あのショッピングモールのせいで、商店街が大打撃を受けて、シャッターを下ろす店が増えたって聞いたよ」
 20年ほど前、地方都市には、郊外の大型ショッピングモール建設ブームが訪れた。

 商店街の個人商店がどんどん消えていき、大型ショッピングモールが大勢の人々で賑わったが、それも長くは続かなかった。
 大型ネットショップが台頭してくると、人々は、わざわざ郊外まで足を運ばず、ネットですべての買い物を済ませるようになったからだ。

 この街でも、華々しくオープンした大型ショッピングモールは、わずか10年で廃墟と化した。
「いろんな人たちの夢の跡だな」
 生い茂る雑草の中にそびえ立つ大型ショッピングモールの廃墟を見上げながら、ミツヤがため息をついた。
 俺は、この20年間を思い起こしながら、深くうなずく。
「政府の少子化対策がすべて失敗したように、俺が必死になって町おこしをやろうと思ってもすべてうまくいかなかった。時代には抗えないってことを知ったよ」

 ミツヤは、窓ガラスが割れて壁が落書きだらけのショッピングモールを眺めながらつぶやく。
「俺は、地元があまりに寂れているって聞いて、町おこしを夢見て戻ってきたんだけど、もはや無理だって分かったよ」
「だろ。こんな地方都市でも、何もかもが自動化されて、労働人口がごく少数で済むようになったからな。俺が勤めていた会社は、40歳で定年だから、俺は、もう年金生活5年目さ」
 自嘲気味に笑った俺に、ミツヤは軽くうなずく。

「そうなんだね。東京の会社で45歳の定年まで勤めた俺は、かなり長く働いた方なんだな」
「うん。この辺で45歳まで仕事している奴は聞いたことがない。とはいえ、今は平均寿命が150歳近いから、年金生活があと100年くらいはあるよ」
「そうだな。子供の頃は、この歳でこんな生活が待っているとは想像すらしなかったよね」
 ミツヤの回想とともに、俺たちが乗った車は、プログラミングされた自動運転でのドライブが終了時間となり、これから100年くらい静かに暮らす老人ホームの駐車場に停まった。

あとがき

最近、国は、電子化や自動化を推し進め、共通化や標準化を図って、これからの人手不足を補おうとしています。

少子化対策をやると言いながらも、もはや時代の流れで、どうやっても食い止められないことを悟っているのでしょう。

そうやって労働人口がごく少数で済むようになっていけば、ゴーストタウンの中で、若くして老後を楽しむ時代が訪れるかも、という未来を想像してみました。

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