曽水に生きて 成瀬正成編 上
1 出会い
正一は珍しくぼうとして、空を見上げていた。少し前に会った大久保忠世から聞いた話を、思い出しながら。
正一は今回、殿である家康公から直々の呼び出しを受け、いつも務めている甲州から急遽浜松に戻ってきた。しかしその呼び出しの理由が正一には全く分からない。忠世の息子の忠隣は、今小姓組を束ねていて、そのため大久保家は情報通であった。彼が言うには多分「殿の小姓」の件ではないかという。先ごろ小姓の1人が病気のため、辞めたらしい。そのためか、家康公みずから色々な家に声をかけ、小姓を探しているらしいとのことだった。忠世はなにげに「そなたの息子はいくつになった?」と聞いた。それを聞いて正一は「数え7歳になる」と答えると、忠世は「それは少し小さいな」とささやいた。それはいままでの家康公の小姓達の平均年齢が、意外にも高く、14歳前後のものが多いからだ。しかし、残念ながらおめがねに叶ったものは、今のところいないとのことだった。
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