曽水に生きて 成瀬正成編 上
7 阿茶の局と鍋助
笑顔の阿茶の局に引かれて歩く弟鍋助に、正直小吉は戸惑ったが、仕方なく城に同行した。
城の入口には、一向に屋敷に来ない小吉を心配したのか、大久保親子が待っていた。
小吉と鍋助の姿を察したのか、忠世は局に「ご苦労様でございました」と一礼し、局の前を遮った。しかし局は無言で鍋助の手を引き、城に入ろうとする。忠世は小吉の方を見たが、小吉は忠世に困ったような顔を見せるだけであった。それを見て忠世は局に「お方様は鍋助を、お城に連れていくおつもりですか?」と尋ねると、局は顔色も変えずに「そうです」とだけ答えられた。これはまずいと思った忠世は、「お待ちください」と言った。「恐れながら鍋助は、家臣の子供です。殿のお許しもなく、お城に連れていくのは、いかがなものかと思います。家臣の子供の面倒を殿のお側室様が見るなど、忠世は今までに一切聞いたことはございません!」と言うと、局は急に語気を荒らげ「では鍋助はどうなるのです。不憫ではありませんか?」と言われて、鍋助の手を離さない。鍋助本人は今の状況がわからず、ただただ目をきょろきょろするだけであった。そうして局は忠世を押し退け、鍋助の手を引き、お城に入っていった。
そして局の後ろを、小吉と大久保親子は追って
行った。
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