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ビビリであれ

勇猛果敢に獲物に立ち向かう逞しい猟師。

小説や漫画の世界であれば、とても格好いいと私は思う。

しかし、現実世界で同じようにしようとする者がいれば、私はただ無謀で無計画な素人だと感じる。

狩猟の世界では毎年怪我人や死人が出る。
それは、慢心による事故がほとんどだ。

いつも入っている山だからといって、崖から落ちない保証はない。
いつも倒しているサイズの雄鹿だから大丈夫。

そんな慢心が生死を分けている。


そんな現状があるが故に、私はいつも意識していることがある。

それが「ビビリであれ」ということだ。

例え、いつも倒しているサイズの獲物であっても、いつ逆襲してくるか分からない。

だからこそ、常に最悪のパターンを想像して行動することが重要だ。


例えば、罠を仕掛ける際には痕跡があったからと言って無闇に罠を仕掛けるなんてことはしない。

なぜなら、キチンと計画を立てなければ捕獲した後に仕留めづらい場合や、運び出しが困難であったりするからだ。

特にイノシシが掛かるであろう罠を仕掛ける際には、獲物の行動を制限するために、罠のワイヤーの長さはできる限り短く、そして私の立ち位置が獲物よりも高くなるようにしている。

これは、捕獲者が下に居るとイノシシの突進に勢いが付き脚やワイヤーを切って突っ込んで来られる可能性があるからだ。

そのため、高い位置に居ることで突進して来ても勢いが付きにくく、怪我のリスクを抑えることができる。

しかし、高い位置に居るだけでは不十分である。

というのも、運悪く脚やワイヤーを切って突進された場合、勢いが付きにくいとはいえ当たれば怪我をする。

そうならない為に、盾となる木があることを確認しておく必要がある。

要するにイノシシ(鹿もそうだが)を仕留める際は、

  1. 罠のワイヤーはできるだけ短く

  2. 仕留める際の立ち位置は獲物より高く

  3. もし、突進された時のために盾となる木がある。

この3点を最低限抑えておけば、怪我をする確率が低くなる。

実際、私は脚を切って突進された経験がある。
罠や地形には十分気を配っていたが、確実ではないため稀にこういうことはある。

しかし、木を盾にしていたお陰でイノシシは私のすぐ横を通り事なきを得た。

日々、最悪を想定して行動していたが故に身を守ることができたのだ。


全ては「ビビリ」であったからこそだ。

簡単に慢心してしまうようでは、猟師としてやっていけない。

常に最悪を考え、これでもかというくらい慎重にすることが大切である。

狩猟者を目指す者は少ない。
ましてや、その中から実際に活躍する者は更に少ない。

私は数少ない同胞の為にも耳にタコができるほど口酸っぱく、このことを言っておきたい。

「ビビリであれ」

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