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【ホンシェルジュ連動企画】文豪・夏目漱石原作 映画『ユメ十夜』を徹底紹介!

今回はkayserが担当します。先日の記事でもコラボさせていただきました本の紹介サイト「ホンシェルジュ」とのコラボ企画。前回は文豪その人をフォーカスし紹介する企画でしたが、今回は文豪の作品を紹介します。

そこでピックアップした作品は、夏目漱石原作の『夢十夜』。すでに「ホンシェルジュ」にて小説の詳細を紹介しています。本記事では、この原作を実写映画化した『ユメ十夜』を取り上げます。



原作の10篇の短編物語を10本のショートムービーとして初の映像化に挑んだ作品が『ユメ十夜』。その10本の作品を1本ずつ詳しく紹介していきます。

『ユメ十夜』とは

『ユメ十夜』は、文豪・夏目漱石の幻想的な小説『夢十夜』を初めて完全映画化した作品です。公開は2007年。日本映画界の巨匠から若手まで10人の監督が、それぞれの原作を独自の解釈で映像化しました。

10本のショートムービーだけでなく、プロローグとエピローグを加えることで、夏目漱石作品へ10人の監督が挑むといった構成に。プロローグでは、夏目漱石とその門下生らしき女学生が登場し『夢十夜』について語ります。エピローグでは、その100年後、女学生の生まれ変わりともいえる女子高生が『夢十夜』を読んでいるという設定。

この女学生と女子高生役が同一人物となっています。そのキャスティングには、当時10代だった戸田恵梨香が抜擢。まだあどけない戸田のフレッシュな演技はみどころのひとつです。プロローグとエピローグの監督を本編『第四夜』を担当した清水厚が務めています。

『ユメ十夜』より『第一夜 百閒』

小説『夢十夜』でも特に人気の高い『第一夜』。この『第一夜』を映画化したのは、音楽にも精通し、オペラの演出家としても活躍した実相寺昭雄監督です。外務省からラジオ東京(現・TBS)に入社した異色の経歴。『ウルトラマン』シリーズを演出したことでも知られ、内外に多くの熱烈なファンがいます。脚本には実相寺の盟友・久世光彦。なんとも豪華なタッグです。

この『第一夜』だけ、『百閒』というタイトルが。これは、漱石の弟子でもあった内田百閒のことです。原作に登場する男を内田百閒とし、女をその妻としました。さすがの解釈ですね!百閒と妻の100年の愛の物語として描いています。

その百閒を松尾スズキ、妻を小泉今日子が演じています。そのほか、寺田農堀内正美など実相寺組の常連も参加。奇しくもこの作品が実相寺昭雄の遺作となりました。

実相寺作品らしい怪しく美しい作品。実相寺ファンにはたまらない作品のひとつではないでしょうか。

『ユメ十夜』より『第二夜』

小説『夢十夜』にて、禅寺で悟ろうとする侍の話を描いた『第二夜』。このお話をもとに、映画化したのは巨匠・市川崑監督です。享年92歳。この作品を撮影した後、『犬神家の一族』をセルフリメイクし、この世を去りました。
『ユメ十夜』の『第二夜』は、設定を現代にしている以外はほぼ原作通りに作られています。本作では特に、侍が無とは何か悟れたかどうか明確に提言していること、それに対する和尚の見解もコミカルに表現されています。そこが本作のみどころです。

侍こと男をうじきつよし、和尚を中村梅之助が演じています。また、全編モノクロのトーキー映画になっているところも魅力のひとつ。市川監督のこだわりが感じられる作品です。

市川監督といえば、『こころ』や『吾輩は猫である』といった夏目漱石原作など多くの文豪作品を映画化しています。そういう意味でも、今回の企画に参加したことは大きな意味があったのではないでしょうか。

『ユメ十夜』より『第三夜』

小説『夢十夜』の中でも特にホラー色の強い作品がこの『第三夜』です。そんな『第三夜』を映画化したのは、ハリウッドデビューも果たしホラー映画を得意とする清水崇監督

ジャパニーズホラーの魅力を世界に知らしめた監督です。清水監督自身、この企画がなくとも、いつか映画化したいと思っていたのがこの『第三夜』とのこと。満を持しての参加となりました。

本作では夏目漱石が『第三夜』を執筆しているという設定の中、物語が進行していきます。この夏目漱石を演じたのが堀部圭亮、その妻・鏡子を香椎由宇が演じました。

背負っていた自分の子どもから、忘れていた自らの罪を思い出させられるお話です。原作では、文化五年となっているところを明治13年の夏と変えています。ここに重要な意味が含まれています。ここから背負っていた子どもの正体、自分の罪が明かされていくのでした。

最後に『第三夜』執筆中の漱石に戻りますが、茶目っ気たっぷりの漱石像はなんともユーモアがありますよ!

『ユメ十夜』より『第四夜』

爺さんが手拭を出し、子どもたちに「今にその手拭が蛇になるから、見ておろう。見ておろう」と声を掛けるのが原作の『第四夜』です。

小説『夢十夜』の中でも難解なお話ですが、本作を映画化したのがプロローグ・エピローグも担当した清水厚監督。実相寺監督の助監督も務めていました。ノスタルジックな演出を得意としています。

映画版『第四夜』では、漱石が幼少期、療養に訪れていたという場所に呼び戻されるところから始まります。それまで、その町のことをすっかり忘れていた漱石。それには深い理由があったのです。

原作に登場する爺さんは『ハーメルンの笛吹き男』の笛吹き男ような設定に。この物語から着想を得て、『第四夜』と融合させたようなお話になっています。本作でも多くの子どもたちが登場しています。その結末とは。

漱石は自身の夢の中で、子どもたちのことを思い出すもまたすぐ忘れてしまいます。そんな漱石はある行動に出るのでした。本作の漱石は山本耕史。繊細な漱石を演じています。

随所に監督のこだわりの懐かしい日本の田舎の風景が描かれている本作。その風景も本作のみどころといえるでしょう。

『ユメ十夜』より『第五夜』

小説『夢十夜』の『第五夜』では、神代に近い時代に、軍に負けた自分が敵の捕虜になりますが、死ぬ前に好きな女に会うことを願うというお話となっています。この原作をベースに、時代や男と女を夫婦にするなど大幅に変更して映画化しました。

映画版『ユメ十夜』では女が主人公。女が白い馬で駆けていくというエピソードはそのままに、なんとか男に会おうと奔走します。それを邪魔するのが小説同様の「天探女」。しかし、この「天探女」の正体にも秘密が

なかなか面白い解釈で映画化したのは豊島圭介監督。コメディからホラーまで幅広い作品を手掛けている豊島監督の描く本作は「本当の自分」がテーマとなっています。

妻の真砂子役に市川実日子、夫の庄太郎役に大倉孝二を迎え、ブラックホラーコメディに仕上げました。市川の乗馬シーン、造形物などショートフィルムながらに見応えのある作品です。

『ユメ十夜』より『第六夜』

明治時代でありながら運慶が登場するお話が『第六夜』です。運慶が仁王を刻んでいるという評判を聞きつけ、見に行く主人公。しかし、運慶は仁王を彫るのではなく、掘り出しているのでした。それを受け、自分も仁王を掘り出そうとしますがうまくいくことはなかったというお話です。

映画版『第六夜』も原作にほぼ忠実な物語。本作の監督には『第一夜』で百閒を演じた松尾スズキが挑みました。

物語のベースはそのままですが、運慶の彫る姿をアニメーションダンスで表現したり、見物人のセリフをネット用語にしたりと独自のセンスで笑いを誘っています。

主人公を阿部サダヲが演じ、最終的に堀り出せるものが何であるかというお話に。さらにここで終わらないのが松尾監督のスゴいところ。最後のオチは最高です!

全編モノクロというこだわりや映像センスのよさなど何気に松尾ワールドの魅力が存分に味わえる作品となっています。

『ユメ十夜』より『第七夜』

小説『夢十夜』の中で『第七夜』は、多くの研究や感想が発表されている作品のひとつです。そんな『第七夜』の監督を『ユメ十夜』では、世界的イラストレーターの天野喜孝とアニメーション監督の河原真明が務めました。

天野のキャラクターデザインを河原がCGアニメとして演出しているといったコラボレーション企画です。また、セリフやナレーションも全編英語で日本語字幕が入るというこだわりよう。この作品だけ、海外の映画祭などへの出品も果たしています。

主人公の漱石にラジオDJのsascha、不思議な少女・ウツロをこれまたDJの秀島史香という異色コンビが務めました。

壮大な海を航海する大きな船、異形なキャラクター、美しい風景など天野喜孝の世界観を存分に楽しむことができます。また、幻想的な世界の中で、人間の真理を表現する本作は、ほかの作品とは異なる魅力に溢れています。

『ユメ十夜』より『第八夜』

明治という時代性や風景がより濃く表現されている『第八夜』映画版『第八夜』では、山下敦弘監督が原作という枠から、独自の世界観を作り上げています。

そもそも『夢十夜』は夢物語。夢であるからこそ、自由な表現もありといったところでしょうか。そんな山下監督が注目した点は、「ものになる」という原作のセリフ。ここから自由な発想で、漱石ワールドに挑戦しています。

あくまで漱石の創作イメージの世界を描いた本作。そんな漱石役には藤岡弘、が挑みました。そのほか、山本浩司や大家由祐子などのベテランが脇を固めています。

本企画において、山下監督が最も若く、最年長の市川監督との年齢差は約60歳。孫と祖父ほどの年齢差の監督がひとつの企画に携わるということはなかなかないですよね。

市川監督曰く、本企画でライバルを上げるとしたら山下敦弘監督だと。そんなことを頭に入れながら、『第二夜』と『第八夜』を比べて鑑賞しても面白いかもしれませんね。

『ユメ十夜』より『第九夜』

明治時代の戦争といえば、日清・日露戦争。このいずれかの戦争への召集令状が、ある一家の父の元へやってきます。残されるのは妻と幼い子。そんな幼き我が子を連れて、お百度参りに励む母の姿を描いたお話が『第九夜』です。

映画版『第九夜』も原作をベースにしつつも、実のところは......という驚きの展開になっています。そんな映画を監督したのが、小説家としても活躍している西川美和。内外の映画祭でも高い評価を受けています。

妻役を緒川たまき、夫役をピエール瀧がそれぞれ務めました。出征前の夫婦。そこで起こる驚きの出来事が本作の最大のみどころです。女性監督ならではといった解釈でしょうか。

製作当時子役であった13代目マルコメ君こと渡邉奏人が息子役を演じ、なかなかいい味を出しています。

『ユメ十夜』より『第十夜』

『夢十夜』の中でもかなり難解で可笑しい物語の『第十夜』映画『ユメ十夜』でもある意味問題作となった『第十夜』です。

監督は山口雄大。ギャグ漫画の映画化を得意としています。本作でも、脚色に漫☆画太郎が参加。山口監督ならではのスタッフィングです。

小説『第十夜』を大胆にアレンジした本作。豚と庄太郎の激しいアクションバトルを繰り広げています。特殊造形も満載で、独特の世界観に振り切っています。

主人公の庄太郎に松山ケンイチ、ヒロイン・よし乃に本上まなみ。本上は本作でアクションにも挑戦しています。

また、平賀源内に石坂浩二、健さんに板尾創路といった豪華キャスティングも。そこへ安田大サーカスも登場し、バラエティに富んだ作品になりました。

多少、お見苦しいシーンも登場しますので、どうぞご注意ください!

まとめ

今回は「ホンシェルジュ連動企画」の第二弾として映画『ユメ十夜』を紹介しました。公開から15年も経過したとはいえ、今観ても十分に楽しめます。それは、一重に夏目漱石の原作が素晴らしいからといったところでしょうか。

また各監督が自由な発想のもと、漱石の原作に挑む作品は圧巻です。未見の方は、ぜひ試しに鑑賞してみてください。そして、自分の解釈との違いを楽しんでみることをおすすめします!

kayser

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