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編集者、書店員、図書館運営と本に関する仕事をしてきたはずなのに、流れ流れていまは総合雑…

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編集者、書店員、図書館運営と本に関する仕事をしてきたはずなのに、流れ流れていまは総合雑用家。ラジオとプロレスとアメコミが好きです。

最近の記事

「プロレス芸」騒動を振り返る

2023年11月、ツイッター上で「プロレス」という言葉の使い方に関して、ちょっとした揉め事が起きた。きっかけは、立憲民主党の塩村あやか議員が、Twitter上で自身への批判的なツイートに対して言及したとき「アンチのプロレス芸」という表現を使用したことだ。塩村議員のツイートは、すでに削除されているが、スクショは、残っていた。 このツイートは、SNSで塩村議員のアンチが彼女に関するデマを流していることを受けて、投稿された。アンチによるデマ投稿を読んだ別のアンチが、それを拡散して

    • 2023年のベストバイ ビルケンシュトック「ギルフォード」

      皮靴でもサンダル並の履きやすさを 2023年のベストバイについて、書きたい。 それは、ビルケンシュトックの皮靴「ギルフォード」である。 ビルケンシュトックは、いわずとしれたドイツのサンダルメーカー。コルク製の靴底や足に馴染むフットベッドなど、機能性には定評がある。ギルフォードは、それらのノウハウが詰め込まれた革靴だ。同社のサンダルと同じ中敷きを採用し、コルクならではの適度に弾力性のあるクッション性を備えている。履き心地はビルケンのサンダルと近く、とても快適だ。 つま先の

      • 夏といえば『日本のいちばん長い日』

        岡本喜八監督「日本のいちばん長い日」(1967)という映画がある。 1945年8月14日から8月15日、つまり日本がポツダム宣言を受諾し玉音放送がラジオで流れた1日間を描いたものだ。 前半は、主に昭和天皇や鈴木総理大臣、阿南陸軍大臣らがどのようにして終戦を決めたかが中心に描かれ、後半は「宮城事件」と呼ばれる、陸軍の青年将校らによるクーデター未遂事件の顛末から玉音放送が実際に流れるまでが焦点になる。 すこぶるつきのおもしろい映画であるうえ、ところどころに「あの戦争がどうい

        • 「コンテナ」からグローバリゼーションとイノベーションを読み解く

          物流の仕事をしている知人からすすめられて読んだ「コンテナ物語 The BOX」がとても面白かった。1960年代後半から起きた、コンテナ普及による物流の革新について触れた本……と書くと本書が物流分野のビジネス書で、物流の仕事をしている人以外には関係がないように思うかもしれない。ただ、その先入観でこの傑作を読み逃すのは、あまりにもったいない。 文字通り「護送船団方式」だった海運コンテナ物流が普及する前は、海運は小口の荷物をバラバラに積んでいたため、非効率な輸送手段だった。とにか

        「プロレス芸」騒動を振り返る

        • 2023年のベストバイ ビルケンシュトック「ギルフォード」

        • 夏といえば『日本のいちばん長い日』

        • 「コンテナ」からグローバリゼーションとイノベーションを読み解く

          移民としてのスーパーマン(と鉄腕アトム)―「スーパーマン スマッシュ・ザ・クラン」

          「スーパーマン スマッシュ・ザ・クラン」が傑作だった。 本作のテーマは「移民と差別」。「移民としてのスーパーマン」は、切り口としては邦訳アメコミでは「ヒットマン」などで描かれているが、本作ではそれが前面に押し出されている。 1946年、チャイナタウンからメトロポリスに引っ越してきた中国系アメリカ人の少女が主人公。彼らを排斥しようとするクラン(つまりはKKK)と、ヒーロー活動を始めたばかりのスーパーマンが対決する。 マイノリティである主人公家族が社会参加する難しさや思春期の

          移民としてのスーパーマン(と鉄腕アトム)―「スーパーマン スマッシュ・ザ・クラン」

          在野研究者の情熱がうんだ「エロマンガ」表現の通史――稀見理都『エロマンガ表現史』

          稀見理都『エロマンガ表現史』が、とてもおもしろかった。自分はそれなりにエロマンガを読んでいるほうだと思うが、エロマンガを読んだことがなくても、マンガというジャンル全般に興味がある人なら、楽しめる1冊だと思う。実際、売れているようで、2020年1月現在、12刷りとのこと。 エロマンガの研究には、永山薫『エロマンガ・スタディーズ』という名著がある。発表された2006年当時、エロマンガは研究や評論の対象としてはほぼ手つかずの分野。その未開の地を開拓して、エロマンガの歴史やそこで描

          在野研究者の情熱がうんだ「エロマンガ」表現の通史――稀見理都『エロマンガ表現史』

          ナチスのデザインを解毒する

          以前からナチスのデザインは不思議だった。あの力強さと官能性と禍々しさはどこから来るのか。そして、一国のデザインをどうやって短期間であそこまで統一的にできたのか。デザイナーの立場からそれを分析したのが、 松田行正「RED ヒトラーのデザイン」だ。 本著は、ヒトラーをデザイン・ディレクターとしてとらえ、彼が手がけたナチスのさまざまなデザインを分析する。対象となるジャンルは、ハーケンクロイツやポスター、フォントなどのグラフィックから、軍服、戦闘機などのプロダクト、敬礼、行進スタイ

          ナチスのデザインを解毒する

          宗教団体が建てたでかい建物を紹介する本は当然面白い

          五十嵐太郎『新編 新宗教と巨大建築 』(ちくま学芸文庫)がとてもおもしろかった。「新宗教」も「巨大建築」もおもしろい題材なのだから、その二つを掛け合わせると、そりゃあおもしろいだろうさ。 天理教やPL教団、大本教など国内の新宗教を中心に、教義や教団の沿革など参照しながら、彼らの建築や都市計画を、読み解いた一冊。たんに建築物を評論するだけでなく、それぞれの教団と社会の関わりについて紐どき、それが建築物にどのように現れているのかをしめす内容になっている。 いちばんページ数を割

          宗教団体が建てたでかい建物を紹介する本は当然面白い

          マンガ家が語る「最後までページをめくらせる」方法論――『マンガ家になる! ゲンロン ひらめき☆マンガ教室 第1期講義録』を読んで

          『マンガ家になる! ゲンロン ひらめき☆マンガ教室 第1期講義録』が、マンガ批評本として、とてもおもしろかったよ。 タイトルだけ見るとマンガ家入門本だけど、技術論やキャラクター論、物語論、市場の状況などを織り込んだマンガ批評本として読むことができ、とてもおもしろかった。 ぼくがリアルタイムでマンガ批評を読んでいたのは2000年代後半、著者名で言うと伊藤剛とか宮本大人くらいまで。それ以降、分析的なマンガ批評はアカデミズムに回収され、門外漢にはアクセスしにくくなった印象がある

          マンガ家が語る「最後までページをめくらせる」方法論――『マンガ家になる! ゲンロン ひらめき☆マンガ教室 第1期講義録』を読んで

          ド文系がコラムで科学史をざっくり勉強

          スレンドラ・ヴァーマ『ゆかいな理科年表』(ちくま学芸文庫)が、ド文系な自分にも楽しかったよ。 古代から現代まで、約200項目の科学史上のトピックと関連するエピソードを、年代順にそれぞれ見開き800字程度でまとめたコラム集。 「てこの原理」や「種の起源」など小学校の教科書にも載る一般常識から、「地球温暖化」など今日的トピック、フロイトの精神分析のような科学と呼んでいいのか難しい案件、ニセ科学バスターのマーティン・ガードナーみたいな異色の人物まで並列に掲載されているのがお

          ド文系がコラムで科学史をざっくり勉強

          文章読本のクラシックから岩波新書の深さを知る

          清水幾太郎『論文の書き方』(岩波新書)が、胸に刺さったよ。とても知的で誠実な説教をされた気分。編集者だったときに、ここまで真剣に言葉に向き合ってなかったなあと反省した。 著者の清水幾太郎は、戦前から活躍する社会学者で60年安保闘争の指導者でもある。 本書はいわゆる「文章読本」としては珍しく、例文がほとんど出てこない。How to本を期待した読者の多くは、そこで肩すかしを食らったような気になるかもしれない。 では、例文なしでどのように「論文の書き方」を説明しているのか。本

          文章読本のクラシックから岩波新書の深さを知る

          戦前のプロパガンダ雑誌の裏側――『戦争のグラフィズム―回想の「FRONT」』を読んで

          多川精一『戦争のグラフィズム―回想の「FRONT」』が、グラフィックデザイン本としても、プロパガンダ雑誌制作の裏話としても、おもしろかったよ。 デザインの実験場としてのプロパガンダ紙雑誌「FRONT」は、1942年から第二次世界大戦の終戦まで発刊された、プロパガンダ・写真誌。ロシア・アバンギャルドの影響を受けた斬新なレイアウトで、日本のグラフィックデザイン史に名前を残している。 ぼくもグラフィックデザイン史の本などで見たことがあり、気にはなっていた。80年代末に復刊された

          戦前のプロパガンダ雑誌の裏側――『戦争のグラフィズム―回想の「FRONT」』を読んで

          オリンピックにたかるクズどもと山田風太郎―『悪の五輪』を読んで

          月村了衛・著『悪の五輪』(講談社)が、おもしろかったよ。 ざっくりあらすじを説明すると、東京オリンピックの記録映画を身内の監督に撮らせて、アガリを稼ごうとする映画マニアのヤクザの話。 まず、タイトルがいい。『悪の五輪』。有象無象のクズどもが五輪マネーのおこぼれにあずかろうとするさまを、これほど簡潔に示したフレーズはない。日本の過去の風景であり、いまぼくらの目の前で起きている現実でもある。 それから、映画への偏愛がいい。アウトローの世界にすら違和感を抱えて、映画館の暗闇に

          オリンピックにたかるクズどもと山田風太郎―『悪の五輪』を読んで

          キチガイヒーローはデッドプールだけじゃない―『ムーンナイト/光・影』を読んで

          先日、MCUで「ムーンナイト」のドラマが製作され、Disney+で配信する事が発表された。 「ムーンナイトって、だれ?」……もっともな疑問だ。ただ、最初に「アイアンマン」が映画化されたときを思い出してほしい。アメコミファン以外は「こいつ、だれ?」と思ったはず。そういう意味で、今後、ムーンナイトだって、アイアンマンクラスのポップアイコンにならないとも限らない。先物買いで、彼のことをチェックしてみるのは、どうだろう。 コミックではすでに「ムーンナイト/光」「ムーンナイト/影

          キチガイヒーローはデッドプールだけじゃない―『ムーンナイト/光・影』を読んで

          ゲーム雑誌の歴史とメディアとしての雑誌―『ゲーム雑誌ガイドブック』を読んで

          さやわか・著『ゲーム雑誌ガイドブック』 (ゲームラボ選書) がおもしろかったよ。 メディア原体験としてのゲーム雑誌子どものころ、はじめて購読した雑誌は『ファミリーコンピューターマガジン』だった。裏技を紹介する「ウル技・ウソ技」のコーナーがお気に入りで、毎月、発売日を心待ちにしていた。読者投稿欄などが充実した『ファミコン通信』もお気に入りだったが、友だちが購読していたので自分では買わず、ファミマガと交換して貸し借りをいた記憶がある。 自分でもおどろくことに、このときぼくはフ

          ゲーム雑誌の歴史とメディアとしての雑誌―『ゲーム雑誌ガイドブック』を読んで