五十四話 ペルー
明くる朝、中塚に指定された少年冒険派遣団の集合場所に集まってみると三宅監督がいた。再会した松井に聞くと、現地のスポーツ少年団で我を通し、クビになったらしい。職を失った三宅は、中塚に懇願し、無事新設された少年冒険団の団長におさまったとのことだった。
出発の辞を手短に述べた三宅監督は、総勢五十名の青少年を率い、十日後にはアマゾン川流域の大密林地帯に入った。と、同時に「斥候前へ」と命令し、自らは最後尾に回る。ビビッていることが全員にバレた。
奇怪な鳥や動物の鳴き声が響く中、少年団は道なき道を行く。密林内の部族との人脈構築といった目的があったが、それを知っているのは三宅監督と在伯ペルー人の通訳のみ。その通訳も三宅監督が部族と人脈を作る気がないため不信に思っており、ましてや他の青少年たちは「自分は何故こんなところにいるのだろう」と思い始めていた。
密林に入って初の野営。それぞれが二人一組となり、宿泊のためのテントを張る。晩は、三宅監督のアイデアで、BBQを催すことになった。
肉は、現地調達で仕留めたアナコンダで、その辺の木の枝に刺して焼く。野太い精力がついたためか、にわかにホモが正体を現し乱立。サタデーナイトフィーバーとなった。
この乱痴気騒ぎが、地元のアマゾネスの怒りを買うこととなる。自分たちの聖域を侵され、風紀を乱したとして、激しい肉弾戦となった。この戦闘で、大半のホモがオチ〇ポを切られたり、吹矢を食らって戦死。全員ソーセージBBQにされた。結果、矢張りジャングルは危険すぎるということになり、迂回転進してペルーに辿り着いた。
「疲れたー。もう心身ともにボロボロだ・・・」
ブラック企業のリーマンみたいな台詞。葛西は団長になっていた。
今までどんなときも、坂井泉水の歌を聴き、耐え忍んできた葛西だが、ペルー・インカ帝国の首都マチュピチュにて、ついに弱音を吐いた。
少年冒険団の生存率約一割。救いは、ペルー人のガイドが生き残っていることくらいである。他のサバイバラーは、松井、フジモリ、徳永少年とその仲間たちのみ。三宅監督は蒸発した。途中、山賊ゲリラにトレードマークのサングラスとスポーツ少年団の赤錆びた帽子を盗られ、ショックのあまり列から外れたところ、身ぐるみ剥され、これまたBBQにされた。保身のため、殿を務めていたことが仇となった。
通訳を介し、葛西の言葉を聞いた種族の酋長は、気の毒に思ったか酒を振舞った。接待中、女子供や若い衆に盆踊りをさせ、サークルをつくる。そこで、葛西ら一行が同じインディーズ系モンゴロイドであり、かつ黄金の国日本代表であることを知ると、地域を統括する総合酋長=黄金卿に逢わせてもいいと言ってきた。
「ゼヒ、オネガイシマス!」
在伯日本人協会の目的が、それそのものだったため、雇われペルー人ガイド、コロンボは即答。怪訝そうな顔をして出て来た、長身の黄金卿は、一般酋長から話を聞き、「佐渡と協定を結び、友好姉妹都市になりたい」と言う。
ペルー・コロンボは、葛西らが言葉をわからぬことをいいことに、これまた二つ返事で引き受け、前金で貰ったエメラルドをピンハネ。約70%を我が物にし、残り30%を葛西らに渡した。
一方、捕らぬ狸の皮算用であるが、業界では世界的に有名な佐渡鉱山の金が手に入ることで気を良くした黄金卿は、ホクホク顔で、特別に幻の幻獣を見せると言って来た。
山合の小さな湖に招待された葛西らが目にしたのは、エルマーとりゅうに出て来たりゅうそのものだった。また、「あそこにも恐竜がいる」と黄金卿が指差した先には、16匹のりゅうがいた。
日本にも|UMAレベルで恐竜は目撃されている。葛西のいとこが棲む北海道屈斜路湖のクッシー、鹿児島県指宿市池田湖のイッシーなど、そのいずれも稀に姿の一部を見せる程度で、その存在は謎に包まれたままだ。唯一、葛西の地元、浦安港でイヤシーだけが、いやしさのあまり、観光客やTVクルーがカメラを向けると、サバーンと現れたりするが、よく見ると漁業協同組合のオッサンたちが竹竿持って造り物のUMAを海から出していた。
葛西ら日本代表が驚きのあまり目が点になっているのを尻目に、黄金卿はさらにマウントを取ろうと「お前たちの勇気が見たい」と言い出した。何でも、世の中の物質で最も固い物される鉄を 身体にぶつけ、それに耐えられるかどうかで本物かどうかを決めると言う。
少年団の一人が「金の方が固いのではないか」と異論を挟むと、黄金卿たちが「No、金は柔らかい」と言い、自分たちの強さを示すためか、先に部族から選出した三人が見本を見せると言った。
確かに、選ばれた三人が頑強だったこともあってか、ぶつけられた金塊や延べ棒は、すこし凹んだ。次に、総合遊具的な鉄をド頭や顔面にぶつけられると総合酋長・黄金卿の手前、鬼の形相で耐える者、我慢ならず涙がちょちょ切れる者、流血して「イテェーーー-」と叫び、ガチで泣いて怒られる者など、さまざまな反応を見せた。
「次はお前らの番だ」
やや面目が潰れた黄金卿が言った。さらに、少年団が選出に難航していると見ると、これ幸いとばかりに藤森を指名。頭はいいが弱いと踏んだが、藤森はスリッピング・アウエーで鉄の芯を外し、物の見事に生還した。藤森は後にペルー自体の大統領になり、その娘も四十代前半で大統領選に立候補するので、総合酋長どころではない。黄金卿は自らの人の見る目のなさを露呈させた。
次に、葛西や松井とは面識がなかったが、他の少年団員の中で最強と見做されてた徳永(通称とっくん)が受けて立つことになった。是が非でも挽回を図りたい黄金卿は思い切り鉄で造られた総合遊具をぶつける。
徳永少年は当たり所が悪く、「イテェー」と目を抑えるも、ダウンしてなかった。
徳永の仲間たちから「すげぇ」とか「とっくん、ほんますげーよ、目に鉄が当たっても泣いてねー」とか「目から血が出てる」といった改めてリスペクトした的な声が出る。
どよめく部族たち。
最後に選出された松井は、目にルビーやサファイアが当たっても泣いてなかった。
「ワシですら出来んことを・・・」
焦る狂う黄金卿は、気を取り直して両手を広げる。
「あなたたちは英雄だ」
「思った通りだ」
完全に手のひらを返していた。
しきりに葛西らを褒め称え、密かに手の甲をさする姿を見て、意外とお調子者だなと葛西は思う。
一方、黄金卿は、満座でマウントをとられ、不平等条約を結ばされた挙句、謀反が起きるのを何より恐れていた。急に「プレゼントがある」と言い出し、部の祭壇に飾ってあったドラゴンボール七個セットを差し出す。見ると、りゅうの糞を丸めて化石にしただけのものだったが、葛西は場面として受け取った。
さらに、黄金卿は、徳永と松井を恐れた。
「お前たちは強い。偽物が蔓延る世に置いて間違いなく本物だ。県の代表として、ガラパゴスやプエルトリコのインディーズプロレスに出てみないか」とオファーする。
身身がハードコアプロレスのマニアというのもあったが、このまま少年団に居座られては己の立場がなくなると思ったからだ。一刻も出て行ってほしいというのが本音だった。
なお、ガラパゴスもプエルトリコもスペイン語であり、インカ帝国を滅亡させたスペイン領である。
気付くと、ペルー人の通訳兼ガイド、コロンボが消えていた。エメラルドを手にした時点でそわそわしていたが、役目が終わったと独断し、遁ズラこいた。
団員は一割に減り、通訳もいない。最早組織の体をなしておらず、後は自由行動でいいと葛西は判断した。交渉により、黄金卿から金1,2コもらって、負傷した徳永に渡す。
徳永が、日本に近いこともあり「ガラパゴス島に行きて―」と言った為、徳永一派はガラパゴス巌流島デスマッチに出ることとなり出発。勝敗の結果は不明だが、戦後、亀の卵などを栄養源に、漂流の末日本に辿り着き、浦島太郎のモデルになったらしい。
残る葛西と松井は、黄金卿が部族数人をガイドに出すことで、プエルトリコへ。コイツは使えると気に入られた藤森は、幹部候補生としてペルーに留まることとなった。