七十二話 ナマステスネーク
「開眼。限界が延びた」
葛西書房の成人コーナーで悟りを開いた栗巣。
あの時の感動が甦っていた。
「まだ十代、小学生なので全然遅くない。思い通り生きることはできる。後悔はしたくない」
栗巣が真のヤンキーであり、リアルロックンローラーとする鈴木に見惚れるていると、あろうことか浅井が近寄り手を差し伸べようとしているのが見て取れた。
「このままでは浅井に先越される。ショートカットするしかねー」
浅井ごときでは、明らか役不足。ここは自分がと思ったのだ。
栗巣は、抱きつくようにして楡木に登った。
そして、直近の一番近い枝の上に立つ。
ウエストポーチから飛行船眼鏡を取り出し、装着。敬礼して、「シェッーーーー」の掛け声とともに一気に飛び立った。
「本当の姿を見せる。真珠湾スプラッシュだ」
モモンガやムササビのように飛び、サスケとなる栗巣。
汗や鼻水、涎などを撒き散らしつつ降下。途中、浅井を股下で飛び越し、ものの見事に目標物である鈴木に命中した。
「うぉーー」
「飛んだ!」
渋谷の連中からも声が上がる。
「接吻だ!」
見ると、鈴木に、栗巣が抱き着き、ロック・オンした挙句、木須している。互いにドロドロになり、ウッドストック状態というかライク・ア・ローリングストーンのように転がり続けて居た。
栗巣の本性を見て、敵味方なく一同唖然とする。浅井に至っては、自らの頭上から栗巣が落ちて来て、アリーナ最前で目撃するハメとなった。
鈴木は、栗巣の攻撃をまともに喰らい、足の骨を折った。それまでなんとかプロレスで渋谷勢の目を逃れようとしていたが、栗巣がセメントを仕掛けてきたため、本当にアキレス健が切れ、負傷退場に追いやられた。
栗巣が降って来て、逃れようとするもの、即座に口撃を喰らい、仏蛇のように絡みつかれた。
土埃の中、栗巣のオリジナルの新技・ナマステスネークが炸裂したのだ。LGBTやLOVE&PEACEを標榜し、いつの間にか下半身全裸となっている栗巣。鈴木は本気で吐き、暴れている。
そして、何故かあきこがCanonの中古の一眼レフにタムロンのサードパーティー製のレンズ付けて、必死に写真を撮っていた。おそらく#あきこかめらでツイート上げて、野外無銭でバズろうとしているのは間違いない。どこまでいっても自己顕示欲の塊、欲の化身だった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?