八十一話 引き取り
物々しい出迎えは、そこまでだった。
輸送部隊が、営庭らしい広場に到着する。すると、輸送司令は、改まった訓示などせず、速攻姿を消した。
新兵は、各班長の指揮下、引き取り手が現れるのを待つ。
広大な荒野の中、点在する建物が見える。その全てはバラック風で、半分地下に埋まっていた。
煙突から白い煙が出ていることより、中には兵隊がいるようだ。
引き取り手がなかなか現れない。
寒い。誰かが「零下二十度だ」と言っている。
汗ばんだ身体は冷え、鳥肌が立つ寒気を新兵たちは感じる。
悪寒。あまりの寒さに体が震え、歯の根が合わない。
さっきまでの感激はすでに消え、異様な寒さに浅井も脅威を覚えていた。
極寒の中、待ち惚けを喰らい、ようやく引き取り手が現れ始める。
見るに、中隊の人事部で、皆准尉だ。彼らは、班長たちの書類を確認し、突き合せをした上で新兵たちを引き取る。輸送部隊の班長から、浅井ら新兵二十名を引き取った准尉は、整列させ訓示を始めた。
「貴様達が配属されたのは、連隊で最大重火器の四一式山砲二門を持つ歩兵砲中隊だ。中隊長は士官学校出の吉野中尉。厳しい訓練を部下に課す人だから覚悟しとけ!今から貴様らを各班に五名ずつ配るからついてこい!」
准尉が歩き出す。
新兵たちはついて行く。
浅井は歩兵砲中隊の一員となった。
准尉の足取りは早い。
辺りはすっかり暗くなっており、准尉を見失ったら大変だ。新歩兵砲中隊二十名は、皆群がるように後を追った。
「准尉殿!連隊の総員は、何名でありますか?」
歩きながら新兵の一人が訊いた。
「お前達七百二十名を入れて、四千五百人。その中で一個大隊は、ここ錦西にはおらず、葫蘆島という遼東湾(渤海)に面した所にいる」
准尉が気さくに答えたのは、浅井にとってやや意外だった。
暗がりの中、バラック風建物を見る。
どこも渡り廊下があり、厠がついている。
「建物は兵隊が建てるのでありますか?」
また新兵の一人が訊いた。
「当たり前だ!大工もいれば電気屋もいる。全部兵隊がやるんだ。芸人もいるから、宴会で玄人の落語や浪花節を聞けるぞ」
最初怒ったかに見えたが、またしても准尉は気さくに答えた。