2020年映画ZAKKIちょ~ 8本目 『初恋』
2019年製作/上映時間:115分/PG12/日本
劇場公開日:2020年2月28日(DVD:7月8日発売)
観賞劇場:丸の内TOEI
観了日:3月1日
ほぼ全員悪人!男女 VS ヤクザ VS 中国マフィア VS 警察の一夜の殺し合い
その独特の作風で、日本だけでなく海外でも知名度の高い三池崇史監督初のラブストーリー。
【あらすじ】
天涯孤独の身の天才ボクサー・レオが、試合でまさかのKO負けをし病院へと担ぎ込まれ医師から自分の余命がわずかであるという事実を突きつけられる。自暴自棄になり歌舞伎町の街を歩くレオの目に、男に追われる少女モニカの姿が飛び込んでくるのだが…!
ポスタービジュアルでは、主演2人を除き、いかつくイキってるメンツがズラっと並んでいるのとは対照に、海外と違い日本ではやたらラブストーリーものを強調して宣伝していて、若干不安を覚えながらも劇場へ足を向けた。
以下、「良かった点」と「良くなかった点」。
○良かった点
これだよこれ!
コレこそがもういちど観たかった三池作品だよ!!
多作で知られる三池監督、ここ最近は漫画原作の実写作品が、作品への愛が足りないのか、予算が足りなくてクオリティの高いものを見せられないのか評価も芳しくないし、なかなか心の底から面白いと呼べる作品が作られていないように見える。
(2001年公開の漫画原作の『殺し屋1』は傑作だった…)
そんな膨大な監督のフィルモグラフィーで、面白くて印象に残ったのは、2012年公開のバイオレンス作品『悪の教典』が最後だった。
それから時間が経つ中でだんだんと監督の印象は薄れていってきていて、過去作品のDVDやBlu-rayを引っ張り出しては「あ~やっぱいいな~『DEAD OR ALIVE』のクライマックスのカタルシス!『漂流街』の吉川晃司のカッコよさ!」とノスタルジックに浸る状態。
そんなノスタルジックな気分は、ヤクザの生首が転がる冒頭数分で払拭させてくれた。鑑賞中はずっとスカッと痛快。観終わって、三池監督のベスト作品に新たな一本が仲間入りをした事に、深い喜びを感じて胸がいっぱいになった。
本作のヒロイン役としてオーディションで選ばれた新人女優・小西桜子(画像上)をマクガフィンとした、ヤクザや警察を巻き込んだ男女2人の逃走劇という構図や、男女2人の境遇などの類似点から、まさしく三池版「トゥルー・ロマンス」と呼べる作品に仕上がっている。
「トゥルー・ロマンス」では、主演の男女2人(クリスチャン・スレーター、パトリシア・アークエット)以外のキャストの個性が際立っていたように、本作でも、ベッキー、内野聖陽、染谷将太に代表される脇を固めるメンツが物語を面白く加速させていく。
主演の窪田正孝はボクサー役なので、冒頭のボクシングの試合のシーンで、汗にまみれた鍛え抜かれた身体を見せ、ファンも眼福シーンかと思われる。
本作で、その存在感を最も表していて、作品の荒唐無稽さに拍車をかけているのはベッキーに他ならない。
もともとバラエティタレントとして活躍していた彼女が、恋人を殺された復讐の鬼女にスリリングに変貌していく特攻な演技で、その濃い顔立ちと相まって、女優としてスクリーンを完全に掌握する。
それとは対照に、刑務所から出所してきたばかりの昭和の古き良き昔気質の武闘派ヤクザを演じた内野聖陽の、抑えたことで浮き彫りになる凄みある表情や台詞回しから、後半に暴れる日本刀の殺陣シーンの荒ぶりはワクワクさせてくれる。
そうした濃いキャストが集まっただけでなく、本作はロケーションも見どころが多い。
東京は新宿・歌舞伎町と思われる繁華街の騒がしい猥雑さ、ビルの一角のジメジメとした陰湿感、これは三池監督の過去のVシネマ作品や、「DEAD OR ALIVE」、「漂流街」や「殺し屋1」などでも描かれていた世界観の連続性があり、既視感のある風景は、妙に安心できるものとなっている。
さらに、クライマックスの場所となるホームセンターでの死闘は、確かにそこに置いてある商品で殺し合いが出来るほど充実した品揃えで面白い。
惜しむらくは、電気が消えて、非常灯の灯りの中という暗い状態なので、殺し合いのエグさが半減されている点か。
ただ、観た後は確実にホームセンターに行きたくなるような見せ方だった。
×良くなかった点
不満はふたつ。
画像上のポスタービジュアルのような、いかにも純粋な男女2人のラブストーリーを想起させるような日本公開のイメージ戦略が気に食わないという点。
一番上に掲載した北米版ビジュアルイメージと比較すればどちらが作品の本質を表し、純粋に三池作品として面白そうか、一目瞭然。
監督のインタビューを読むと「ポスタービジュアルと内容のギャップを楽しんでほしい」とまるで監督が仕掛けたことのようにも言っていたが、作品の魅力がビジュアルから1ミリも伝わらないという点では、こういう「恋愛映画と見せかけポスタービジュアル作戦」は失敗だと思う。
ほか、本作では伝説のアイドルグループ℃-uteのリーダーだった矢島舞美が出演していることもあり、矢島さん推しであった筆者は、それも観る前からの楽しみのひとつであった。
だが出てきたのが、酔っ払いの看護師役で、一回もアップで映される事も無く、話に特に絡んでくるわけでもなく、そのフォトジェニックな美貌と長年グループで鍛え上げられた腹筋とバツグンの運動能力を持つ彼女の個性を出せなかった無駄遣いが本作の内容における唯一の不満点。
次回の三池作品では矢島さんをヒロインにしてください!!(熱望)
結論
三池監督の原点に立ち返った本作「初恋」、そのタイトルは、作品の内容を表す以上に、かつて三池監督の作品を初めて観て、衝撃を受けた時のような、初恋に近いような衝動を思い起こさせるという意味でもふさわしいタイトルなのかもしれない。
しばらく、あまり目立った作品を発表してこなかった三池監督だが、久方ぶりに回春の一撃のような作品がこの2020年に誕生し、その喜びに打ち震えている。
全力でオススメしたい。
それでは最後に、みんなで予告編を観てみよう。