魔法で両思いになってもいいじゃないか~ミルモでポン!第一話を読んで~

『ミルモでポン!』とは? 

篠塚ひろむ先生によって生み出された『ミルモでポン!』は、2001年から約5年間『ちゃお』に連載されていた大ヒット少女漫画である。メディアミックスをいくつも展開し、当時の読者たちの記憶には今でも残り続けているだろう。

第一話のあらすじ 

 主人公の女の子、南楓は結木摂というクラスメイトの男子に片思いをしていた。けれど話しかけることもできないでいた。日高安純という綺麗なライバルの女子も現れる始末。彼女は楓と違って積極的に話しかけていて、それに危機感を覚えていた。

 ある日母親から渡されたマグカップの説明通りに恋のおまじないをしてみる。結木と両思いになれるようにと祈りながらホットココアを注ぐと、妖精ミルモが中から現れた。彼は掌の上に載るほど小さいが、恋を叶えてくれる妖精だ。ミルモはへそ曲がりで、なかなか言うことを聞いてくれない。だが紆余曲折を経て願いをミルモは深夜に楓の願いを叶える。朝起きると結木が楓の家に迎えに来ていた。両思いのカップルとして登校できることに楓は内心はしゃいでいた。

 けれど、その途中で日高と遭遇する。彼女は積極的に結木に振り向いてもらえるように努力していたと叫ぶ。それでも結木のことを諦めないと言い残して去って行った。楓は魔法に頼った自分を卑怯だと思い、すぐミルモに両思いの魔法を解除してもらう。そして、自分の力で振り向いてもらうと約束した。そして、初めて自分から話しかけることに成功する。

魔法を解除することの必要性 

楓はなぜ魔法を解除する必要があったのだろうか。結木と結ばれるという目的は達成したのに。日高がなんと言おうと、結木はずっと楓の恋人でいてくれるのだ。それに何の不満があろう。思う存分イチャイチャすればいいのだ。恋愛など、二人だけの世界を構築すると言っても過言ではないのだから。

 もちろん、卑怯だと思ったことが一番の理由だろう。何の努力もしていなかった楓が、努力していた日高よりも良い結果を出すというのは不公平だと。結木も、まるで催眠にかかっているような状態だった。楓と結ばれたきっかけすらよくわかっていなかった。ただ楓の恋人として演じることを命じられた人形のようであった。けれど、本当に楓は卑怯だからという理由だけで魔法を解除したのだろうか? 

 人は、誰かに頼らず自力で何かを達成したという満足感を得たい生き物だ。しかし、自分の力だけで何かを成し遂げられるというのは傲慢な考えだ。例えばピアニストはそこに至るまで血の滲むような努力はしただろう。しかし、その指なくして生まれてきたのなら到底不可能だし、五体満足でもピアノを日々練習できる環境がなければ無理だろう。

 楓は、結木に振り向いてもらう過程が抜け落ちてしまったから物足りなさを感じてしまったのかもしれない。何もせずに得た結木という恋人という存在に、価値を見いだせなかったのではないか。それは自力で得た素敵な恋人というトロフィーの一部が欠けているようなものだ。けれど、楓がもしも二目と見られない、満足に身体を動かすこともできない人間だったらそんな贅沢をはたして言えるだろうか? そんな自分でも好きな人と結ばれるなら、どんな過程であれ迷いなく選ぶはずだ。作中の楓には、自力で結木と結ばれる可能性を夢見る余裕があっただけだ。

持って生まれた物と、後から手に入れた物

 楓は冴えない女の子だ。対して日高はとても美人だった。少々性格に難があるが。百人の男子がいたら、百人が日高のことを選ぶだろう。楓は、まず容姿の時点で恋愛競争からは遅れている状態だ。結木だって、できることなら容姿が良い女子と付き合える方が良いに決まっている。

 積極的に声をかけたかどうかというのも、別に楓が根性なしだからというわけではない。自信がないだけだ。特筆すべき魅力がない自分は、彼に振り向いてもらえないと。もしも日高のような容姿ならば、もっと積極的になれた可能性がある。

 日高だって、もしも楓と変わらない容姿であったならば、はたして本当に積極的に声をかけられただろうか。その容姿の良さで男たちは自分に否定的な反応を示すことなど一切なかったに違いない。そういった経験が、彼女に自信をつけていたのだろう。だからこそ、結木に声をかけることも抵抗がなかったのではないか。

 楓が手に入れたミルモとは、その先天的な差を覆してしまうのだ。出してしまえば問答無用で勝てる、そんな切り札だった。容姿で下回る楓が後天的に手に入れた武器なのだ。日高がその容姿を生かして恋愛競争に参加しているのなら、楓だってミルモを懐に入れて参加して何が悪いのだろうか。

人は終始平等な競争などできない 

 人間は生まれや育った環境で絶対に差がついてしまう。それを完全に是正することなど、地球が消滅するほどの時間が経とうができない。誰もが自分よりも劣る他人を蹴落とす世界なのだ。自分が勝たなければ、相手に蹴落とされてしまう。特に恋愛は、二番手でも構わないだなんてわけにはいかないのだ。好きな相手の本命として自分が君臨しなければ、その席を誰かに取られてしまう。

 仮にこの後結木と日高が結ばれたとして、楓は魔法を解除するという選択を後悔しないのだろうか。おそらく後悔はするだろうが、魔法を使うという卑怯な真似をする自分よりはマシだということだろう。綺麗な自分でありたいという願望が誰しもあるからだ。

 けれど、恋した少女が切り札を温存したまま敗北して、本当にそこで終われるのだろうか。繰り返しになるが、ミルモは問答無用で好きな相手とくっつけてくれる存在だ。その相手に既にパートナーがいるとしてもだ。好きな男子が他の女子と仲良く並んで歩き、あまつさえキスをしている場面を目撃したら、綺麗な自分のままでいられるだろうか。それほど人間は出来の良い生物ではないはずだ。

 恋愛競争とは、アナーキーな世界なのだ。相手が不正をして自分の思い人と結ばれたとして、それを訴え出るべき機関など存在しない。公平に判断して命令を下す裁判所など存在しないのだ。ならば、自分が優位に立てるのなら惜しみなく武器をその手に取るべきだろう。ライバルだって、ミルモのような妖精と出会って魔法を使わないという保証はないのだから。

終わりに 

 もし私が楓ならば、まずは魔法によって結ばれた後に二人の時間を積み重ねていけばそれでいいと思うだろう。始まりは手助けがあったとしても、その後に行動するのは自分なのだから。最初は補助輪があったとしても、最終的にそれなしで乗れるようになれば万々歳だ。それにケチをつけてくる人がいるようなら、ミルモに解除してもらうように頼めと言い残して立ち去るだろう。ミルモはへそ曲がりだが、優しい妖精だ。私の悲しむ顔を見たくないから、決してミルモは魔法を解除しないだろう。私が後悔して自分から言い出すまでは。

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