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チベット文字筆記体の書き方(お手本つき)

チベット文字の種類について

チベット文字の種類は多いですが、以下の二つに分かれます。

1) ウチェン
2) ウメ

ウチェンは主に印刷や板本や写本のためで、日常で手書きされることはほとんどありません。手書きはウメで行います。

ウメにも種類があり、主には以下の四つです。

1) イクチェン
2) イクチュン
3) キューイー
4) シャプテゥー

イクチェンは看板を書いたり、正式な文章を書いたり、文章の題名を書いたりするときに用います。日常で用いられるのはキューイーです。手紙、メモ、板書、領収書なにからなにまでほとんどはキューイーです。ですから、最初にキューイーを書けるようにすればいいです。

ここではインド留学中私がチベット人の先生から習ったキューイーの書き方を説明します。

ここで用いられる文字の写真、お手本は全てギュメ学堂の僧侶の中でも字の上手さに定評のある、チベット語教師ゲンユンテンによるものです。

同先生に日本にはあまり筆記体の教材がないので、先生の字を写真にして日本語で解説し、ネットに掲載してもよろしいですかと、この記事執筆の経緯を説明して、許可を得て写真を掲載しています。各人の自習のために用い、無断転載なきようお願いいたします。同先生にはここに謝意を表します。

練習の仕方

書道のことをイクスー(yig gzugs)と言います。まずは大きなノートA3くらいの大きさを用意します。そして、ボールペンでゆっくり丁寧に時間をかけて、お手本そっくりに文字を写します。写すと同時に文字を発音し、音と文字を対応させて行きます。

以下にお手本がありますので、それを40回くらい写すのが基本です。すると自然に覚えることができます。

基字の練習

ཀ་

左から右の方へと書いていくのが筆順です。右の棒一本はツェクです。

ཁ་

ཕ་と似ているのですが、丸める部分を下の方に持ってくると区別を付けやすくなります。

ག་

左の丸まりよりも右の棒を長くすることがコツです。

ང་

ང 単体は左の鍵様のものだけで、ང་ としたときに上のようになります。

ཅ་

丸いのを書いてから、上から下に線を引きます。

ཆ་

左から一筆で書きます。

ཇ་

真ん中の線は一本だけです。これが2本に増えると、ཛ་となります。

ཉ་

二画に分けて書きます。一筆で書くと、ཧ་と区別がつきにくくなります。

ཏ་

ཐ་

一筆で書きます。

ད་

དだけだと棒一本です。ツェクと区別をつけるため、やや左に反らせるのがいいでしょう。

ན་

右側の丸みを少しぺちゃんこにするのがコツです。ཞ་とにていますが、円を小さく描くことで区別します。

པ་

ཕ་

ཁ་と区別するためにできるだけ平にします。

བ་

ほぼ小文字のaです。oのように書く人もいますが、そうするとཔ་との区別がつきにくくなるので勧めません。

མ་

ཙ་

ཅ་に少し横線を引っ張ればいいだけです。

ཚ་

ཆ་に横線を一つ入れるだけです。

ཛ་

ཇ་は一本線を横に入れますが、ཛ་は2本入れます。

ཝ་

左の線と右のウネウネをそれぞれ分けて書くので、二画です。

ཞ་

ན་と似ていますが、ན་よりも高い位置から書き始め、丸の部分を大きくします。最後は左の方にうねらせます。

ཟ་

一筆書きです。

འ་

二画です。

ཡ་

ཨ་と似ていますが、一番左の窪みが丸いのがཡ་です。

ར་

ཏ་とは違い一筆書きです。

ལ་

この左に一本線が入れば、ཨ་となります。

ཤ་

右の9様のものを書いてから、上から下に左の線を引きます。

ས་

པ་と似ていますが、པ་は右のヒレがありません。

ཧ་

ཉ་とは違い一筆書きです。

ཨ་

左の線を書いてから、その横にལ་を書くとཨ་となります。

以上が子音でした。

母音

ཀི་

細長く上に書くのが i です。

ཁུ་

上の子音とくっついていますが、下で左の方に伸ばすのが、u です。

གེ་

ウチェンの i とキューイーの e は似ています。

ངོ་

e のように丸めず、ただ真っ直ぐに書きます。

ལ་བཏགས་༦། la下接字6

ཀླ་

ཀ་ の下にལ་を書きます。基字のときのལ་とは形が違います。

གླ་

གླ་

བླ་

བླ་

ཟླ་

ཟླ་

རླ་

རླ་

སླ་

སླ་

ཡ་བཏགས་༧། ya 下接字7

ཀྱ་

ཀ་の下にཡ་を付けます。

ཁྱ་

ཁྱ་

གྱ་

ジグザグに書いてから、最後に縦線を真ん中に入れます。

པྱ་

པྱ་

ཕྱ་

ཕྱ་

བྱ་

བྱ་

མྱ་

མྱ་

ར་བཏགས་༡༣། ra 下接字13

ཀྲ་

ཀ་の下にར་がついています。

ཁྲ་

ཁྲ་

གྲ་

グネグネ書いて、最後に縦線を入れます。

ཏྲ་

ཏྲ་ 少しジグザグが基字のときよりも増えます。

ཐྲ་

ཐྲ་

དྲ་

དྲ་

ནྲ་

ནྲ་ 基字のときと書き順が変わります。

པྲ་

པྲ་

ཕྲ་

ཁྲ་ と区別するために二画で書く場合がありますが、人によります。

བྲ་

བྲ་

མྲ་

མྲ་

སྲ་

སྲ་

ཧྲ་

ཧྲ་

ར་མགོ་༡༢། ra 有頭字12

རྐ་

ར་の下にཀ་があります。

རྒ་

རྒ་

རྔ་

རྔ་のとき、ང་は縦長になります。

རྗ་

རྗ་

རྙ་

རྙ་

རྟ་

རྟ་ 人によってはཏ་の部分はぺちゃんこになっていることがあります。

རྡ་

རྡ་

རྣ་

རྣ་

རྦ་

རྦ་

རྨ་

རྨ་

རྩ་

ར་が上ではなく、左横についています。

རྫ་

རྫ་

ལ་མགོ་༡༠། la有頭字10

ལྐ་

ལ་の下にཀ་がついています。

ལྒ་

ལྒ་

ལྔ་

ལྔ་

ལྕ་

ལྕ་

ལྗ་

ལྗ་

ལྟ་

ལྟ་

ལྡ་

ལྡ་

ལྤ་

ལྤ་

ལྦ་

ལྦ་

ལྷ་

ལྷ་

ས་མགོ་༡༡། sa 有頭字11

སྐ་

ས་の下にཀ་があります。རྐ་とはジグザグの回数で区別しますが、識別不可能なことも多いです。その場合文脈でスペルを特定します。

སྒ་

སྒ་

སྔ་

སྔ་

སྙ་

སྙ་

སྟ་

སྟ་

སྡ་

少し特殊ですが、སྡ་

སྣ་

སྣ་ རྣ་と区別をつけるために二画で書く。

སྤ་

左にས་があり、右にཔ་がある。下の線はཡ་と区別するために付けられた線でウチェンの対応しないもの。

སྦ་

སྦ་は二画で書く。རྦ་は一筆書き。

སྨ་

སྨ་

སྕ་

ས་が左で、ཅ་が右にある。

三段組みその1

སྐྱ་

ས་の下にཀ་があり、その下にཡ་がある。

སྒྱ་

སྒྱ་

སྤྱ་

སྤྱ་

སྦྱ་

སྦྱ་

སྨྱ་

三段組みその2

རྐྱ་

ར་の下にཀ་があり、その下にཡ་がある。

རྒྱ་

རྒྱ་

རྦྱ་

ར་の下にབ་があり、その下にཡ་がある。

རྨྱ་

རྨྱ་

三段組みその3

སྐྲ་

ས་の下にཀ་があり、その下にར་がある。

སྒྲ་

སྒྲ་

三段組みシャプキュ付きその1

རྐྱུ་

རྐྱུ་

རྒྱུ་

རྒྱུ་

རྦྱུ་

ར་の下にབ་がありその下にཡ་がありその下にུ་

རྨྱུ་

རྨྱུ་

三段組みシャプキュ付きその2

སྦྱུ་

སྦྱུ་

སྨྱུ

སྨྱུ་

ra 下接字シャプキュ付きその1

ཀྲུ་

ཀྲུ་

ཁྲུ་

ཁྲུ་

གྲུ་

གྲུ་

བྲུ་

བྲུ་

ra 下接字シャプキュ付きその2

སྐྲུ་

སྐྲུ་

སྒྲུབ་

སྒྲུབ་

སྤྲུ་

སྤྲུ་

སྦྲུ་

སྦྲུ་

後接字 ma の省略記号

སུམ་

སུམ་ 後につく མ་ は上記の様に省略できる。

後接字 sa の省略記号

གཤིས་

གནམ་གཤིས་

後接字 ga の省略記号

ཚིག་

ཚིག་(これは適切なサンプルがなかったので、私が書いたものです。書写はお勧めしません)

-gs の省略記号

ལེགས་

ལེགས་ཞུ།

-ms の省略記号

ཐམས་

ཐམས་ཅད་

sa 再後接字の省略記号

ཞབས་

ཞབས་ཀྱུ་ཅན་

後接字 da の省略記号

ཉིད་

ཉིད་

初学者のための練習例文

༄ དཀར་མཛེས་ཨ་ཡིག་ལས་འཁྲུངས་ཤེས་བློའི་གཏེར།
ཕལ་རྒོལ་ཝ་སྐྱེས་ཟིལ་གནོན་གདོང་སྔ་བཞིན།
མ་ཧཱ་མཁས་པའི་གཙོ་བོ་ཉིད་གྱུར་ཅིག །
༄ ཟླ་ཤེལ་ཁ་བའི་རི་ཚོམ་ཕྲིང་བསྒྲིགས་པའི། །
བྷོ་ཊའི་རྗོངས་ཆེན་སྣང་འབྱེད་ཡི་གེའི་བརྙན། །
ཝ་ལེར་གསལ་མཛད་ཐུ་མི་ལ་ནུའི་དྲིན། །
བསྐལ་པའི་མཐར་ཡང་ཆ་ཙམ་ཅི་ལྟར་གཞལ། །
༄ ཚོགས་ཀྱི་དབུས་སུ་ཐམས་མཁས་གཞོན་ནུ་མའི།
གངལ་ནང་གི་བསམ་དོན་མཚོན་པའི་བརྟར།
གསར་པ་གསར་པའི་ཀུན་དའི་མེ་ཏོག་ཅིག །
ལག་ཏུ་བླངས་ཏེ་ས་ལ་བཙུགས་ནས་སོང་།
༄་སྔོན་བྱོན་མཁས་པའི་ལེགས་བཤད་ཟླ་མེད་ལ།
མ་གུས་ཕོགས་ལྷུང་མཐོང་ཆུང་མ་ལགས་ཏེ།
གསེར་ལ་བསྲིགས་བཅད་བརྡར་བའི་གསེར་བཞིན།
༄ མཁས་པའི་བརྟག་དཔྱད་ལས་ལ་འགལ་ཅི་ཡོད།
༄ སྔོན་བྱོན་གྱི་རྒྱལ་བ་སྲས་དང་བཅས།
མཛད་འཕྲིན་གྱིས་ས་གསུམ་ཁྱབ་ན་ཡང་།
སྐུ་མི་བཞུགས་བཚན་གྱི་ལྷག་མར་ལུས།
དེ་ཀུན་ཀྱང་མི་རྟག་སློབ་དཔོན་ཡིན།

弁財天讃

༄ གདོང་བཞི་གདོང་གི་པད་ཚལ་ནི། །
ངང་པའི་བུ་མོ་ཐམས་ཅད་དཀར། །
དབྱངས་ཅན་མ་ནི་ཁོ་བོ་ཡི། །
ཡིད་ལ་རིང་དུ་གནས་པར་མཛོད། །

むすび

以上の文字と例文を愚直に40回ほどそっくりそのまま書き写せば、ある程度美しいキューイーが習得できるだろうと思われる。


チベット社会で生活する場合、キューイーは必須である。渡航前の習得を強くお勧めする。


2024年10月10日、
インド・カルナータカ州・ギュメ学堂にて

乾 将崇、頓首。

この留学計画は、文科省官民協働海外留学支援制度トビタテ!留学JAPAN新日本代表プログラム16期に採用され、助成を受けています。国と支援者の方々に感謝申し上げます。

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