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真・中華一番! タレ仮面様スクリプト 6-1,6-2,6-3,6-4,6-FIN

6起

「この仮面の素顔は‥空っぽ!?」

「そうだ オレは鬼(オバケ)でも僵尸(ゾンビ)でもなく 妄執で動く 仮面の精(モノノケ)だったというわけだ

この妄執 この苦しみ もはやおまえらに勝つことでしか鎮められぬのやも知れぬ‥‥!」

「やめろ! そんなことをしても あんたは何にも救われないぞ!」

「いずれにせよ オレの精気はもはや尽き果てようとしている」「え‥‥?」

「フ‥‥"妄執"を抱き続けるにも‥‥それなりに気概が必要でな‥‥」「‥‥‥」

「だが‥‥それももう終わりだ‥‥さあ 料理(や)るぞ! 今度こそ真に我が料理人人生の最終楽章(グランド・フィナーレ)よ!」

「何だ ちゃんと仏語が発音できるじゃないですか(くっくっくっ)」

「イヤミはやめろバジャール いいから手伝え」「チッ‥」

「マオ兄 どうすんだよ もうほっときゃいいじゃねェか‥」

「タレ仮面様! 約束しろ 勝っても負けてもこれで終わりだ! 思い残すところのないようにしよう!」

「そうよ! いざとなったらここにたくさん霊符があるんだから!」(えっ 何でそんなものたくさん持ってるのメイリィ‥)

「いいだろう 最後の勝負は‥"虫豪(かき)"!」(続)

***

6承

(続)「オレの最後の虫豪(かき)講座‥特級厨師の小僧よ聞くが良い‥

オレとチョウユは かつて港の魚介市場で 虫豪を片っ端から買って競うようにして食った

だが虫豪は食い過ぎると腹を壊すのだ その晩身をもって思い知った

あの時はオレたちも若く たくさんバカもしたものだ‥

今から作るのは福建の料理だ 虫豪 絹ごし豆腐 ネギ 生姜 ニンニク 唐辛子 そして豆豆支(とうち)!」

「豆豆支?」「黒豆を発酵させて乾かせた調味料だよシロウ」(納豆とは違うみてェだな‥)

「そして 我が宝の乾貨(高級乾物)をもって作り上げた秘伝のタレはまだ残っている!」

「まァた中国人はすぐにそういうことをいう たかが中華料理に"秘伝のタレ"とは笑わせてくれますねェ」

「黙れバジャール タレを笑う者はタレに泣くのだ」

「そうか 虫豪はそれ自体味の強い食材‥乾貨のタレにも負けないというわけか‥‥!」

「‥マオ兄 何してんの?」「あいつは山育ちの僕に虫豪料理を教えてくれようとしている

それはやっぱりちゃんと聞かなきゃ」「マオ兄!? 自分の料理は!?」

「時間はない だが‥勝てるかどうかは別に あることを試してみたいんだ」「?」(続)

***

6転

(続)「さァ相互判定だ」「‥何だこれは ただの生虫豪ではないか!!」「一食即解(食べればわかるさ)」

「‥これは! この柑橘は檸檬(レモン)か! だがそれよりも この煙と薬と酒の香り‥

チョウユ! おまえ! まさか蘇格蘭(スコットランド)渡来の超貴重物の威士忌(ウイスキー)を!」

「オレも驚いた 祝い事のために市場で買ったのだが こう使うとはな‥」

「生虫豪に檸檬と威士忌を注ぐだと‥強い食材同士の調和と味の爆発力‥‥!

しかも オレは技巧を込めたが これには技巧はない こんなことが許されるとでも言うのか‥‥!」

「あんたは料理に自分の全てを込めている それはよくわかったよ

でも 顔も覚えてないんだけどね 父さんの言葉として母さんが言ってたことがあるんだ

よくわかんないけど "自分"の込められた料理は まだ"極み"じゃないんだってさ」

「‥待て! それは裏料理界最高幹部『五虎星』"浪子"エンセイ様のお言葉‥何故おまえが!?

しかし‥そんなことより くやしいが最高の味だ‥‥!!」

「うーん これは大人の男の人は美味しいんだろうけど あたしはお酒がそんなに飲めないから‥」

「「‥メイリィ!?」」(続)

***

6結

(続)「あたしはリエンさんの料理 優しくて美味しいと思うな これ何て料理なの?」

「こ これは‥豆腐蔭豆支虫可(かきと豆腐の豆豆支炒め)というのだ

それよりも 本当にオレの料理の方がうまいというのか? 本当に‥そうか‥‥!」

「そんな‥しまった‥僕は味に溺れていた "自分"のことはともかく "食べる人"のことを忘れるなんて‥

僕はまだまだ未熟だ‥母さんや父さんの域に達していない‥‥!!」

「ふ‥ふははは!! そうか‥おいしいか!! お‥おいしいなあ‥(ガシャッ)」

「‥リエン!? おまえ‥崩れて‥‥!?」「タレ仮面様!?」

「うろたえるな小僧 オレが鎮まったのはおまえに勝ったからではない

オレは結局 愛する人のために料理を作り 喜んで笑って欲しかったのだ

長い遠回りだった‥復讐を捨て‥全力を尽し‥道を見失い‥混迷を極め‥善悪の彼方にようやくここまでたどり着いた‥

オレ一人ではダメだった おまえのおかげで行きつくところまで行くことができた‥礼を言わせてくれ‥

オレはここまでだ おまえは行け オレの分まで オレを越えて おまえの行けるところまで‥いいな小僧!」

「‥は‥はいっ!」(続)

***

6エピローグ

(続)「メイリィ‥最後にオレの料理を選んでくれたな‥礼を言わせてくれ‥否 そうではない‥ありがとう」

「そんな‥リエンさん‥‥‥?」「ふ‥似ている‥悲しいくらいにな‥」

「リエンさん!」「劉 昴星! おまえの料理! オレには間違いなくうまかったぞ!」

それが最期の言葉だった タレ仮面様の仮面と鎧が みるみる錆の粉末と化していった

「‥‥‥リエン‥! おまえというヤツは‥‥‥!」

「最後の最後は"復讐鬼"ではなく――崇高な料理人となって逝ったのね‥‥」

***

これより数日後 陽泉酒家に 若き刀工超人"七星刀"のレオン 裏料理界から帰還

そしてその瞬間から マオは八つの伝説の厨具を巡る裏料理界との壮絶な戦いの旅に身を投じ

それとは別に関係なく バジャールは再び逮捕され牢獄に入れられることになるのだが

それはまた別の話――(了)

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