「子持ち様」揶揄による分断を批判するニュース記事が、逆に分断を生み出している危険性
メディアの「正義感」が分断を生む?
幼い子どもを持つ親を強く批判する投稿、がSNSで広がっているとの記事を読んだ。4月26日の毎日新聞による記事だ。
記事の出だしには以下のように明記されている。
この記事を読んで一瞬、「そのような投稿は良くない!」と怒りに駆られたが、すぐに疑問が浮かんできた。
本当に「子持ち様」と揶揄する投稿は広がっているのか?
もし実際には広まっていないのだとしたら、この記事は、最近のメディアでよくある「正義感はあるが逆に分断を生んでいる」記事になってはいないか?
「子持ち様」が広がっていないのに大手新聞がこの記事を出してしまうことで、むしろ「子持ち様」というフレーズが広まりその結果、逆に分断を煽る可能性があるのでは?を考えてみた。
この記事のサマリー
毎日新聞のこの記事が公開されるまで、「子持ち様」は一時的に盛り上がりはしたが、「SNSで広がっている」と言い切るほどの状態にはなっていなかったと思われる
むしろ最初に紹介した毎日新聞の記事自身が、「子持ち様」を一気に盛り上げてしまっている、と考えられる
分断のような根深い問題は、しっかりとした分析・作戦・確実な実行が必要で、それがなければむしろ事態を悪化させてしまう可能性があるが、今回の一連の毎日新聞の記事にそれがあることを願っている
「子持ち様」は本当にSNSで広がっているのか?
まず「子持ち様」が本当にSNSで広がっていたかを確認する
Yahoo!リアルタイム検索のグラフ機能を利用し、「子持ち様」というワードが実際にSNSで投稿されているかを確認してみた。残念ながらYahoo!リアルタイム検索は直近30日しか確認できない。それでも大体のことはわかるだろう。
本当にSNS上で「子持ち様」が広がっているのなら、投稿数はじわじわと増えているか、もしくは高止まりしているだろう。それがグラフで確認できるはずだ。
グラフを見ると、
4月4日に盛り上がる、が盛り上がりはほぼ一日で落ち着く
4月26日に突然、盛り上がりが爆発する
ことがわかる。つまり、「一時的に盛り上がったとは言えるが、広がっているとは言えない」のではないだろうか。
念のため、旧Twitterのトレンドワードランキングを確認してみたが、「子持ち様」が上位50位にランクインしているのは
4月4日の32位
4月26日の9位
の2回だけであった。これもまた「一時的に盛り上がったとは言えるが、広がっているとは言えない」の根拠になるだろう。
ちなみに、4月9日には「子育て支援金」が、4月16日には「産休クッキー」がランクインしており、グラフのちょっとした盛り上がりはその影響だと思われる。
では4月4日と4月26日には何があったか?
2024年4月4日に盛り上がったのはなぜか
この日のポスト(ツイート)を「子持ち様」で検索すると、以下のポストが大量にリポスト・引用リポストされていることがわかる。すでに削除済みの投稿を掲載してしまい申し訳ないが、引用させていただく。
この投稿が盛り上がったことは記憶に新しい。この投稿関連以外で、大きく表示数を稼いでいるポストは見当たらないことから、この投稿がきっかけで4月4日の盛り上がりが発生したと考えて間違いないだろう。
しかし大事なことは、この投稿で「子持ち様」は一瞬盛り上がりはしたが、翌日以降は落ち着いているという点だ。つまり毎日新聞の記事にある「SNSで広がっている」と言い切るほどの状態にはなっていないのではないか。
では4月26日に大きく盛り上がったのはなぜ?
4月26日の、「子持ち様」に触れている旧Twitterの投稿を確認してみれば明らかだ。
最初に紹介した毎日新聞の記事自身が、「子持ち様」を一気に盛り上げてしまっているのである。
以下の表は、直近約一ヶ月の、GoogleニュースとYahoo!ニュースを検索して見つかった「子持ち様」関連ニュースである。
4月26日以前では、「子持ち様」についての記事を扱っていたのは、(失礼な言い方をしてしまうが)比較的マイナーなメディアに留まっていた。その結果が旧Twitterでのトレンドワードランキング圏外という結果になっていたと思われる。
しかし4月26日に、大手新聞である毎日新聞が記事化し、それがYahoo!ニュースにも表示されたことで、盛り上がりが一気に爆発してしまった、と考えられる。
毎日新聞の今回の記事は、むしろ分断を煽っている可能性があるのでは?
フレーズ化は一気に分断を加速させる
これまでも「公金チューチュー」や「増税クソメガネ」などの悪質な揶揄表現は生み出されてきた。
毎日新聞による今回の記事は、「子持ち様」という揶揄表現をを一気に一般化してしまった可能性が考えられる。
「公金チューチュー」などでもわかるように、何かを揶揄するフレーズは一度広まってしまうと、SNS上で気軽に使われてしまう。このことが、分断を強化してしまうのだ。
終わりに:社会の分断に手を貸したりあおったりしてしまっては新聞の存在価値は地に落ちる
毎日新聞主筆の前田浩智氏は、毎日新聞の有識者会議である「開かれた新聞委員会」で以下のように発言されている。
「分断はいけない」「誹謗中傷はいけない」「子どもの未来を守ろう」のようなフレーズは間違いなく正義だ。そのため、それに対して起こされた行動は、拙速であっても無条件で評価されてしまいやすい。
しかしこれらの根深い問題は、しっかりとした分析・作戦・確実な実行が必要で、それがなければむしろ事態を悪化させてしまうものなのだ。
その面から考えると、今回の一連の毎日新聞の記事はどうだろうか。
毎日新聞は4月26日の記事を皮切りに、「子持ち様」記事を連発している。今回の一連の記事を書かれている記者の方に、分断を深めることなく解消させる勝ち筋が見えてのこと、であることを願っている。
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