夜通し一緒にサルを探した友人を探してる話
人生で最も記憶に残っているゲーム
僕の場合は恐らく「サルゲッチュ」だと思う。
1997年生まれ、今年で23歳、未だに社会人の実感はないが、日曜日の憂鬱さと口座の無機質な数字が無理矢理大人であることを自覚させてくる。
そんな僕の記憶に最も色濃く残っているのが「サルゲッチュ」である。上述の通り世代的にはもっと昔の作品ではあるはずなのだが、2でも3でもなく勿論サルバトーレでもない。(これもまあまあ面白いと思うが)
この初代『サルゲッチュ』は、1999年にソニーが発売した作品で、勿論当時サル以下の赤子だった僕はそれから10年ほど時を経て親の実家に眠っていたこのゲームをプレイした。
内容に関しては単純。タイトル通りサルをゲッチュする、ただそれだけ。しかしこの奥が深い。
ガチャメカと呼ばれる様々なアイテムを駆使し、ジャングルにお城に雪山、果ては怪獣の腹の中と様々な場所に隠れるサルを探す。音楽センスもずば抜けておりサントラは未だにお気に入りのCDの一つである。(音楽プロデューサーが凝りすぎて当時のプレステの技術では完全に再現できずCDで完全版を出した、とかいう逸話がある。本当かは知らんが)
この時点で世の少年達のワクワクは約束されたも同然なのだが、どうにもこの初代『サルゲッチュ』、子どもがやるには些か難易度が高すぎる。
初プレイ当時12歳(くらい、多分)、なんとか本編はクリアはしたものの数匹のサルやオマケ要素を残してゲームを諦めた。
それから数年後、僕は高校の部活動で大森くん(仮名)という男と友人になる。大森くんは色白でやや大人しめ、少しぽちゃっとしておりクラスでもそこまで目立たないタイプ、だが意外と話してみると面白い。意外にもドラムが抜群に上手く東京事変や女王蜂など、当時三○目 j soul brothersあたりを小馬鹿にしてサブカルに走り、周りと共有することのなかった音楽の話題も大森くんだけは理解してくれた。
そんなある日僕は大森くんとある遊びの約束をすることになる。
「一晩で初代サルゲッチュ最初から完全クリアまでいけるかな?」
勿論攻略サイトを見るのも禁止、さらには一度全滅したら一からやり直しの条件付き。
加えてこのゲーム先述の通り、かなり難しい。
昔のゲームあるあるだが難易度の調整がテキトーすぎる。ガチャメカにサルにだけ反応するレーダーなんかがあるのだがこれが方向とぼんやりの距離しかわからない。つまり上下にずれてたり角度的に表示できない部分にいるサルはほぼ勘でしか見つけられない。
やっとの思いで見つけたと思ったら高所で足を踏み外しもう一度登り直し、たどり着いたらたどり着いたでサルに反撃を食らってまた落下。この作業がマジで鬼畜。ひっかく、石投げる、この辺りはまだ分かる。ミサイル飛ばしてくる奴、何?あまり人間を舐めるなよ。
少し思い出す中で熱が入ったがまあそんな感じ。サル同士の三角関係や家庭内不和などの人間(?)模様もかなり特徴的で、もっと語りたい気持ちはあるが今回は割愛。
サルへの文句、部活の愚痴、最近よかった音楽、面白いマンガ、こんな他愛もない話を夜通しやいやい言いながら着実にサルを捕まえていった。
そして最後の204匹目。最後は意外とすんなり捕まえられた。外はうっすらと明るくなってきていて、よっしゃーとかねみーとか言いながらも、昔は一人でプレイし途中で諦めたゲームを高校生なら、友達と一緒なら意外と出来るもんだなーと妙に感動したのを覚えている。
時は経ち高校を卒業して僕と大森くんは別の大学に進むことになった。
ここからは個人的な話になるため詳細は伏せるが、大森くんはどうやら大学で悩んでいたらしい。元からどこか冷めていて大勢からは一歩引いた位置にいた彼には大学の環境が肌に合わなかったのかもしれない。
彼は紆余曲折の上、多くの知り合いと疎遠になり、大学を辞めた。SNSからも徐々に姿を消していき、精神的な病を抱え薬も飲むようになっていた。
僕は半年に一回くらいのペースで会っては昔と変わらないテンションで、昔と変わらない話をするように心がけた。とは言えやはり変わってゆく友人を見るのは心苦しく、冗談まじりに「大森が死なんように俺だけはずっと確認しといたるわー(笑)」そんな風に言っては元気付けていた。自分だけはあの頃のままでいてやろうと思っていた。
ある日、何の気なしにフォロー覧を整理していたら大森くんのTwitterアカウントが消えていた。前々からメインアカウントは削除しており、僕と一部の知り合い?のみがフォローしている裏アカウントだけが残っていたはずだった。
これがいつだったのか、夏だったのか冬だったのか、何も覚えていない。ただ、漠然ともう会えないんじゃないかと思ったことだけは覚えてる。
それから数年が経ち社会人になった。我ながら不思議な程に実感はない。あの時、何も考えず、友人とサルを探して駆け回ったあの頃のまま。なのに、
今でも心にはあの時の後悔が眠っている。もしかしたら、かける言葉が違っていれば。
人間関係なんてひどく曖昧なものである。一夜で崩壊することもある。しかし、僕にとってのあの夜の出来事は、紛れもなく青春の記憶なのだ。
ここまで読んでくれたあなたには申し訳ないがこの話にオチはない。お察しの通りこれはただの思い出話と愚痴である。
僕はゲームが下手だ。サル見つけんのにも苦労したのに、人なんか見つけれるわけねーだろ、クソ。
折角好きなゲームの話しようと思ったのに暗くなったわ、バカ、お前のせいでTwitterのアカウントも変えるに変えれねーんだよ。
僕は、俺は変わってないけど、最近何してんの?
もし暇ならまた俺とサルゲッチュやろ、そん時は会社休むわ。