『スマイルカメレオン』第2笑

日曜日の朝、春はいつもより遅めに起きた。
「・・・10時か、昼まで寝ようかなぁ。」

春が2度寝の準備を始めた時、部屋のコタツ机に置いた白いアネモネの花が目に入った。
不思議なもので、今まで春しか住んでいなかった6畳ワンルームの空間に昨日貰った1輪の花があるだけで、部屋の様子が変わっている。孤独指数が薄まったからかな、と春は思う。

「・・・部屋の掃除でもするか。」
何となく部屋にお客が来ている感覚になり、春は、ベッドから起き上がった。寝巻きのジャージ姿で、玄関から箒を持ってくる。

青色のカーテンを開けると、さらに青い空が広がっていた。窓を開けると、2月の風は冷たかったが、日差しのおかげで寒くはなかった。

春はリサイクルショップで買ったCDラジカセにCDを入れる。春が持っているCDは全て大学の時の友達がくれた物だ。その友達は自分が気に入った音楽を必ず春に薦めてきた。

「おい、春!お前は音楽位、聴けよ。生活に潤いがなけりゃ、すぐ枯れちまうぜ。」

春は友達の宮本の事を思い出していた。
春と宮本は大学の入学式で出会ったときからの友達だ。会場の場所が分からず、迷子になっていた宮本を春が助けてからの腐れ縁である。

宮本は自分と同じ名前のミュージシャンを敬愛しており、1年中、夏でも白シャツと、黒スーツ姿だった。彼が最初に春に渡したアルバムを春は今でも時々、聴いている。

『愛しい人涙落ちて 目の前が暗くなって・・・』

部屋に力強い歌声が流れ始める。

春は部屋を箒で掃きながら、アネモネを見ていた。昨日、インターネットで調べてみるとアネモネは寒さに強く、初心者にも育てやすい花と書いてあったので、春は枯らさなくてすみそうだと安心していた。

掃除が終わり、春はコップで水を飲みながら、残った水をアネモネにあげた。

「アネモネよ、君は水だけで生きられるのかね?」

春は花に話しかけた。水だけで生きられる人生は楽しいだろうか。仕事をして、食事をし、風呂に入って寝る毎日の自分の生活を考えながら春は思った。

「肥料が必要かも知れないし、一度、花屋に確認した方が良いかもな・・・」

春はジャージを着替えて出掛ける支度を始めた。花屋に電話すれば解決する話かも知れないが、春は昨日会った押し売りバイトにまた会えるかもと少し期待していた。

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