見出し画像

事業フェーズからみる新規事業人材【#昼活新規事業 2022/10/07】

スタートアップの撤退は大企業新規事業に応用できない 

大手企業の新規事業の立ち上げについては、スタートアップのマインドセットや進め方をよく参考にすることがあります。では「スタートアップの撤退の仕方」も大企業に応用できるのでしょうか。

結論からいえば、スタートアップの撤退の仕方は、大企業に応用できません。なぜなら、スタートアップの撤退は孤独な終わりを迎えるか、事業のピボット(事業内容やビジネスモデルの方針転換)をすることになるからです。

スタートアップが撤退する要因としては、創業者の心が折れる、資金が尽きる、人間関係に問題が発生することが挙げられます。一度事業が倒産すればVC(ベンチャーキャピタル)との縁は切れ、会社が解散した時点で仲間は一人もいなくなります。そうした苦境を乗り越えて3、4度目で成功する人もいますが、それはあくまで本人次第というのがスタートアップの撤退です。

資金が尽きる前に今まで得られたインサイトを捨てて全く違うマーケットにピボットするケースもあります。この場合の継続判断はVCによって異なり、そのピボットなら引き上げるというVCもいれば、「君に投資したからそのピボットでやりきってみろ」と言うVCもいます。エンジェルラウンド(アイデア段階)やシードラウンド(事業が形になってきた段階)において投資をするVCのほとんどは、「事業」より「人」に投資をしているため、ピボット後も支援してくれることが多いです。

また事業展開している業界・市場に大企業が参入してしまった場合など、市場環境の悪化が投資家に伝われば、ピボットの議論に移るケースもあります。このように、完全な撤退ではなくピボットをして胆力を見せるようなスタートアップは、撤退線が綺麗だと評価されます。

 一方で、大企業の新規事業が撤退する要因は、計画達成の見込みがない、自社のリソースが不足するといったことが挙げられます。大手企業では、前述の要因で撤退したとしても、担当者が会社をクビになることはありません。

そこで、大企業内の新規事業では事業の進退を本人次第にせず、撤退の仕方や撤退となった新規事業の担当者を評価する仕組みを整えることが重要になってきます。こうした点から、大企業新規事業を考える上でスタートアップの撤退を参照するのは適切ではありません。
 
また、大手企業は人ではなく事業プランに投資をしているため、大規模なピボットは許容されません。したがってこの場合も、スタートアップのケースは大企業新規事業には適用できません。

新規事業経験後、既存事業に戻るべき人、戻るべきでない人 

大企業の経営者が、新規事業を経験することが人材育成の一貫と捉えられている場合、新規事業で活躍した人材や育った人材を既存事業で活かしたいと考えています。成功事例というアウトプットだけを見ると、新規事業で優秀だった人は既存事業でも成果をあげることができそうな期待感があります。

しかし、人材自体を評価する場合、新規事業で優秀な人と既存事業で優秀な人は異なります。新規事業を経験した人材をいかにして評価すべきでしょうか。

新規事業に携わる人材は、事業のフェーズごとに2種類に分類されます。

一つ目に分類されるのが、事業創出フェーズにおいて、アイデアを作り出す人、それを行動量で仮説検証を回す人、そしてそれを事業戦略や経営戦略に落とし込む人などがいます。必要とされる能力は「ゼロイチ」(まだ世の中にない新しいサービスを作り出す活動)です。

新規事業経験者を既存事業に入れることによって、オペレーション人材にはできない企業文化の変革を担うことを期待していることもあるでしょう。しかし、このゼロイチ人材は既存事業では必要としない能力でもあります。そうすると既存事業に入れば担当者、上司、同僚が疲弊するだけとなり、離職にも繋がりかねません。

二つ目に分類されるのが、そこから先の事業を育てていく人です。

必要とされる能力は既存事業と近いため、関わっている新規事業が失敗した時に既存事業に戻すことはロジックとして成り立ち、能力も発揮されます。例えば、その能力の一つが政治力です。政治力はサラリーマンを評価する上での能力の一つと捉えられがちですが、スタートアップにおいても投資家や事業部の責任者等との交渉において、忖度や根回しなどの政治力は必須スキルです。こうした力が新規事業において発揮されていた人材は、既存事業でも活躍が期待できます。
 
新規事業経験者が前者か後者か見極め、適所に配置するためには、人材の評価軸を確立することが必要です。

新規事業の初期段階に必要な要素は、情熱と「気づく」力 

新規事業の立ち上げ段階であり、メンバー集めや事業構築等の探索過程であるのがシードフェーズです。この段階に関わる人材が持つべき要素として二つの要素が挙げられます。 

一つ目の要素は、情熱です。

新規事業の立ち上げ段階では、情熱を持っている人がトップに立っているか、ビジョンがぶれないかどうかの定性面が事業の進退を決定づけます。

それに対して既存事業は、感情がなくとも働けば成果が出るようにオペレーションが組まれており、機能ごとに縦割りの分業が成され、KPIが設定されているため、情熱がなくとも研修という枠組みでHowToを教育することで活躍する人材が生み出せる仕組みになっています。

すなわち既存事業はリーダーが入れ替わっても問題が起こらない一方で、スタートアップや新規事業では人が入れ替わると問題が発生するというようなことが起こります。 

二つ目の要素は、気づくことができるスキルです。

事業の立ち上げ段階には、アブダクション(訴求推論。結果から遡って原因を推測する論理)の思考プロセスが必要になります。

具体的には、
1)意外な事実が観察される
2)意外な事実を説明する仮説が発案される
3)この仮説が真であるとわかる
という3段階を経て、ロジックが成り立つことを立証します。

例えば料理店でご飯が美味しいという事実が観察された時に、雰囲気がいいお店だから美味しく感じるのだという仮説を立ててそれが立証されれば、雰囲気がいいご飯屋さんをつくればいいということになります。このとき、アブダクションの一歩目として「気づく」ことが不可欠ですが、「気づく」という行為はあくまで個人の経験や情報量に依拠するので、そのレベルには人によって差があります。したがって、このスキルを身につけるための再現性のある方法はありません。
 
一方で、このスキルを発揮させるためにできることはあります。その一つが、心理的ハードルを下げることです。仮にアイデアを持っていたとしても、アイデアを出す側の心理的なハードルによって、アイデアをアウトプットできないことがあります。

例えば「これってみんな当たり前だと思っているから、言ってはいけないのではないか」と思ったり、「この歳でそんなことしか気づけないのか」と思われそうで怖くなったり、自身のプライドが邪魔をして意見を言えなくなってしまいます。。

アブダクションの推論は一人だと限界があるのでディスカッションをしながら進める方が良いという場合もありますが、この場合でも参加者が意見を言えなければそこで議論が止まってしまいます。

こうしたことを防ぐために、低いレベルの気づきを共有することから始めることで、思考のハードルを下げることが可能になります。
 
他にも、上司が見ていることで自分の発言が評価に直結するのではと思ってしまい、発言を躊躇するパターンもあります。こうした場合は、部下の発言が彼らの評価に影響を及ぼさないよう、事前に上司に伝えておくことが有効かもしれません。
 
一方で、気づきのスキルを阻害するのが、事業の立ち上げ段階で落とし所を求めてしまうパターンです。新規事業の立ち上げはフェーズごとに発散と収束を繰り返しながら進んでいくので、フェーズの途中で落とし所を作るのは妥当ではありません。一定のタイミングで落とし所を仮置きして、その検証結果をもとに発散させていくというのが新規事業立ち上げの一般的な流れです。

しかし、大手企業において、仮置きの感覚を理解することは難しいため、どうしても着地させようとする人がいます。そうした人が中間管理職にいるケースでは、プロジェクトの試行錯誤は進めづらくなります。スタートアップではフェーズの過程でピボットすることもあるため、今のフェーズは着地させるフェーズではないと上司が理解しておくことが大切です。



▼2022/10/7の放送を聴く▼

▼clubhouseに参加する▼

★*…━━━━━━━━━━━━━━━━━━
新規事業に携わる人たちの
新規事業に携わる人たちによる
新規事業に携わる人たちのための
交流コミュニティ🤝IntraStar
━━━━━━━━━━━━━━━━━━…*★

facebook group「IntraStar」
https://www.facebook.com/groups/intrastar/

LINEオープンチャット「新規事業のへや」
https://line.me/ti/g2/bmDIaj9Evb2BPbsAIXtUrQ

clubhouse「IntraStar」
https://www.joinclubhouse.com/club/IntraStar

新規事業の情報共有「IntraStar.Wiki」
https://intrastar.wiki/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?