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第53回:思い出し笑い「この落語家を聴かずして、誰を聴く!?柳家さん喬・柳家権太楼」(&ツルコ)
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執筆者:&ツルコ
第53回:この落語家を聴かずして、誰を聴く!? 柳家さん喬・柳家権太楼
*intoxicate vol.108(2014年2月発行)掲載
昨年12月そして1月と2 ヶ月連続で柳家さん喬、柳家権太楼の最新CDが出たのですが、それぞれあらまあもうこんなにたくさん出てたのね、とびっくり!
権太楼、さん喬は、ともに先代の五代目・柳家小さん門下で、現在の落語界の中核を担う実力派。高い人気を誇るお2人ですが、権太楼は、12月発売の朝日名人会シリーズが9作目、1月発売の落語名演集シリーズが14作目となり、さん喬は朝日名人会が13作目、落語名演集が17作目で、この数だけみても、現役の噺家の中でも突出した存在であることがわかりますよね。
ラジオで落語を楽しんでいた時代の名残があった昭和の頃は、落語作品というと志ん生や文楽といった名人が主流。2000年代になって、ソニーの朝日名人会シリーズ、落語専門レーベルのワザオギ、ポニーキャニオンの落語名演集シリーズなど、いま現在の落語シーンを担う現役噺家の作品が数多くリリースされるようになりました。
ポニーキャニオンといえば、昭和の時代に志ん生、文楽、円生といった名人の落語作品を送り出してきたレコード会社ですが、2006年にスタートした落語名演集は、新録音落語としては30数年ぶりのリリースだったそうす! この記念すべき第一弾が、さん喬、権太楼のお2人だったんですね。落語会の企画や本の執筆なども手掛ける演芸評論家の瀧口雅仁氏に、監修されているこのシリーズについて伺いました。
「現役を代表する噺家さんで、これからの落語界、落語ファンのための財産になるような作品をつくっていきたいと思いました。レコード会社には、1年とか3年でやめないで、まずは5年は続けてほしいとお願いしました。一昨年で5年経ったのですが、結果を出せているようでそのまま続いています」
さん喬、権太楼ともにもう10数枚のリリースで、この名演集の柱ですね。
「このお2人でシリーズがスタートできたことは本当によかったです。企画の段階で『みんなで楽しめるようないいものを残そうよ』と言ってもらえ、心強く感じました。落語は生ものでもあるので、ベスト盤をつくる気はなくて、たとえば、さん喬師匠の第一弾は十八番の“井戸の茶碗”でしたが、60代、70代のその時の“井戸の茶碗”を出してもいい、というように、今までにない現役シリーズにしたいと考えていました」
さん喬、権太楼を皮切りに、柳亭市馬、林家正雀などの中堅、文治襲名前の桂平治、昨年芸術選奨を受賞した古今亭菊之丞など若手真打ちを早くから紹介、そして柳家喬太郎の古典落語を聴くことができるのもこのシリーズです。
「落語は想像力の芸なので、聴くもの、だと思っています。だからCDで出したい。家事や運転をしながら、どこででも聴けて、その世界に入れるから。2席収録の場合、他の落語作品では1席目を重い演目、2席目を軽い演目というのが多いようですが、名演集では、1席目は軽い、笑いの多いようなネタでなじんでから、もう1席はゆっくりじっくり聴いてもらえるように意識してます。演目の組合せも大事ですし、この噺家さんだとどういう順序にすればその魅力が伝わるか、世界観に入れるかを考えます」
ライヴにこだわって、いい高座だと納得できたら、出す。カップリングを考えて、すぐには出さずに寝かせてから出すものもある。何テイクも録って、まだ出せない演目もあるそうで。気負わず、さらりと、でも、丁寧に仕込まれ、吟味されたネタをだしてくれるような、内容からジャケットの写真も隅々まで気を配って仕上げられた極上の1枚、という感じです。
明るく賑やかな高座の権太楼、飄々とした可笑さのさん喬、今回もどちらも絶品! 初めてのかたでも、まずはここから。満足必須のオススメです!
CD『柳家さん喬 名演集17』
「野ざらし」「薮入り」
[ ポニーキャニオン PCCG-01382(廃盤)]
CD『柳家権太楼 名演集14』
「提灯屋」「はてなの茶碗」
[ ポニーキャニオン PCCG-01379(廃盤)]
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