第39回:思い出し笑い「清く、気だるく、美しく」(&ツルコ)
第39回:清く、気だるく、美しく
*intoxicate vol.92(2011年6月発行)掲載
お目当ての噺家さんの独演会に行くのも楽しいですが、寄席でのんびりといろいろな落語や色物を楽しむのもいいですよね。寄席に行きたいなと思ったら、寄席のHPやご存知「東京かわら版」で本日の出演者をチェック。東京の寄席は十日(五日の場合もあり)ごとに番組が変わりますが、出演予定の人が都合で出演できないときは代演といって別の芸人さんが出ますので、当日の確認も大事です。今日はだれが出てるかな、と番組表を見たときに、この人が出ているとうれしい、という噺家さんがいるものですが、柳家喜多八はそのなかでも指五本に入ります。もちろん私の指、ですけど。でも、同じ気持ちになる人、きっと多いと思います。
柳家小三治の弟子のなかでも人気の高い喜多八ですが、寄席にはよく出演していますので、聴くことができる機会は多いです。もしまだのかたはぜひ一度、まず寄席で聴いていただくのがよろしいかと。一度見たらきっと印象に残ると思います。出囃子にのって登場するときから違いますよ。やる気なさそーうにゆっくりと座布団へ。「この風情がご婦人がたにはたまらない」とはご本人曰く。気だるそうに始まるマクラから、噺に入ると一転して、威勢のいい江戸っ子、きりっとした侍、ゆったりとしたご隠居、気弱そうな若旦那と、あっという間に落語の登場人物たちになって、噺の世界に引き込まれてしまいます。テンポよく話が進み、途中で現実に引き戻されるようなくすぐりを入れないところも、想像力を働かせて聞く落語の世界に集中させてくれるんですね。聞き終わった後になって、最初に登場したときとのギャップの大きさに気づき、その演出ににやりとさせられちゃいます。短い噺でも、長講でも、満足感ありですし、同じ噺を何度聞いても、そのつどおかしい。はまってしまう人が多いのもわかります。
寄席でファンになったら、次は一人だけの高座をたっぷり堪能できる落語会がありますよ。「喜多八膝栗毛」のタイトルで行っている独演会、昨年はその高座がCD化(しかも二枚同時に!)されましたので、全国のファンが聞けるようになりました。個人的には、大好きな「棒鱈」がいつでも聞けてうれしいかぎり。田舎侍と江戸っ子の演じ分け、噺のなかで歌われるおかしな歌も爆笑もの。喜多八落語を聞くならこの一席、おすすめです! この春にシリーズ第三弾がリリースされましたが、寄席でもほかの人があまりやらない噺を手がけている喜多八らしい一席の「たけのこ」を収録。噺自体は、一〇分足らずの短いものなので、半分くらいはマクラなんですが、こういう短い噺ってなかなかCDには入らなかったりするものですので、ありがたいですね。さらに「目黒のさんま」、「明烏」と、たまらないラインナップで、大満足。素晴らしすぎです! ちょうどこの二席を収録した二○○九年の十月十四日は、還暦のお誕生日だったそうで、それもまた記念の一枚ってことで。