第48回:思い出し笑い「interview 柳家三三」(&ツルコ)
第48回:interview 柳家三三
*intoxicate vol.103(2013年4月発行)掲載
この号が出る頃、酔狂というにはあまりに無謀すぎる挑戦「三三五五四七」ツアーのゴールに向けて、柳家三三は独り無事に東北へとラストスパートしているでしょうか。
入門20年という節目の今年、2009年から2011年にかけての月例独演会の100席以上の高座から厳選したDVDが登場! 3枚組を3か月連続発売と「三三」にこだわったリリースで、さらに3月中旬から全都道府県もれなく周る独演会ツアーも敢行してます。
DVDのリリース、まさに待望の!ですね。
「子供の頃聞いていた落語のテープやレコードは名人やそれ相応の人のものしかなかったですから、自分はまだまだ、という気持ちがずっとあって。でもここ数年で、“残すなら決定版のようなものでなければ”という意識から、“この歳のこの日の高座ではこうだったという記録、日記のようなものでいいんじゃないか”と自分の気持ちが変わってきていたんです。
落語を楽しむには生の高座に足を運んでいただくのが一番、という思いに変わりはないんですが、自分を振り返っても、いつも生の落語に触れていたわけではなく、テープやビデオで楽しませてもらっていましたから、楽しんでもらえるものになるならば、ありかもしれないという気持ちになった。このDVDが生の落語を聞いてみたいというきっかけになるといいですよね」
最近、身辺雑記的なマクラをしないようにしている、と言う。
「自分の土俵は違うところに設定しよう、と思って。マクラで逃げることをやめ、歯をくいしばって噺に正面から向き合ってみようかと。縛りがないと、楽な方へ流れていつのまにか方向が逸れてしまうことがあるから」
何かきっかけがあったのですか?
「昨年、師匠・小三治と話をする機会があったんです。落語は何が面白いんだろうというような話。古典落語は何万回と話されてきて、演者はこの噺がどうなるか知っている。聞き手も大概は知っている。でも、登場人物だけがそれを知らなくて、初めて遭遇する場面に素の反応をするんです。どっきりカメラみたいなものですよね。師匠との話が、自分は落語の何を面白いと思ったんだろうと考えるきっかけになった。噺家がしゃべると、目の前にその世界が現れて、登場人物と一緒にハラハラしたり笑ったりを体感できる。子供の頃はそれが面白かったんだな、と。
夏目漱石が「圓遊は何を演じても圓遊らしいが、三代目小さんは小さんが消える、だから小さんは天才」と評しているのを、僕はずっと個性のある圓遊のほうがいいのではと思っていました。でも師匠から、演者が前へ出れば出るほど噺の邪魔になると聞いたときに、子供の頃に感じていた、噺家が面白いのではなくて噺が面白かったんだ、ということがリンクしてわかったんです。落語は、演者の思いや工夫を登場人物にのせるのではなくて、物語ありきなんだと。落語の中の人は笑わせるためにしゃべっているわけではないという基本的なスタンス。そう考えると、別に奇をてらわなくても、無理をしなくても面白いんだと理解できた。落語の何を楽しいと思うのか、どこを拠り所にしていけばいいのか、20年やってきて、ようやく軸足をどこに置けばいいかを掴めたんだと思います。
それからは落語をやる上で無理をしなくなった。収まっちゃったと見る人もいるかもしれませんが、僕が面白いと感じる落語はいまこんな感じですと言える。できているかどうかは別として、ビジョンは見えているんです」
DVDを制作した来福レーベル担当者も「最近の高座は自由に見えますね」と言う。
「軸足が置けるようになったのは去年ですが、自由度が増してきたのは数年前からなので、DVDはちょうどその頃ですね。以前は、自分のイメージをちゃんと伝えて同じものを想像してもらわなければと、側を整えることに常に縛られていて。それが、“やってみたら、こうなっちゃったけど、あれ、なんか楽しいじゃん”に変わってきた。さらに昨年、入れ物ありきよりも登場人物まずありき、と逆転した気持ちになって、それがまだ成功しているとは思いませんが、意識が変えられただけでも大きいと思います」
そしてこの全都道府県を連続47日間で周る過酷なツアーへと。
「自分の面白い落語にいくために、どこを基準にしていけばいいかが見えたことで、こういうこともやってみよう、という気になったんでしょうね」
言い出したのは誰?
「こんなこと人に言われたら絶対やりませんよ! 何かワクワクできることがあればなあ、と思いついた企画です。だから自分でお尻に火をつけちゃったんです。
もちろん不安はありますが、煮詰まってもがいている拍子に、それまで手が届かなかった引き出しにひょっと手が届くことがある。“なんだろう、この感覚は”ということはたいがい高座で起こるんです。そうなるためには、安心な状況でやっていてはまずだめです。多少追い込む感じのことをしないとね」
前代未聞のこのツアー。帰ってきてからの三三さんが楽しみですが、47日間連続で1日3席として141席、これ、やっぱりギネスに申請してみましょうよ!