第31回:思い出し笑い「30年前のお宝」(&ツルコ)
第31回:30年前のお宝
*intoxicate vol.84(2010年2月発行)掲載
東京は半蔵門のお堀端、国立劇場と最高裁判所が並び立つその裏側に、提灯が灯る演芸場があるのをご存知ですか? よく噺家さんが高座で、「国立劇場の裏手にある納屋のような」なんて失礼なことを言ってますが、国立の演芸場なんです。国立劇場演芸場は、演芸資料館設立の発案から、落語や講談など寄席芸能の保存、普及のための施設として、一九七九年三月にめでたく開場しました。落語協会の分裂騒動があった翌年のこと。このたび三十周年ということで、それを記念しての貴重なお宝音源の登場です!
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国立演芸場のこけら落としは、東京と上方の芸人さんが一堂に会した公演「日本の寄席芸 東西名人揃いぶみ」で、七日間に渡って行われたのですが、なんとこのときの音源が残っており、今回初めて世に出ることになったんですね。初公演ということで、出演者がそれはそれは豪華です。落語、講談、浪曲、色物、漫才の百人を超える芸人が東西から集結し、全九回の公演が行われました。今回のCD BOXはその音源から抜粋されたもので、落語八枚、漫才・漫談ニ枚の計十枚に収められています。落語は、圓生、文治、小さん、彦六など大看板から中堅まで二十六人が収録されていますが、いまも活躍中なのは八人だけ。落語協会を脱退して落語三遊協会を立ち上げた圓生は、この公演の半年後に急逝していますし、彦六も文治も小さんももういません。三十年の歳月を感じます。
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特典付録のブックレットには、当時の公演パンフレットから再録された番組表や記事が掲載されているのもお楽しみ。ちなみに記念すべきこの公演の初日最初に登場したのは、まだ二ツ目時代の春風亭小朝でした。そして、この回のトリは落語ではなくて、奇術の引田天功(プリンセス・テンコーじゃなく先代ですよ、もちろん)だったんですね。講談の寶井馬琴や浪曲の二葉百合子がトリを務めた日もありました。ですので、今回のリリースでちょっと残念なのは、浪曲や講談の収録がなかったこと。番組表を見ると、広沢虎造や神田山陽なども出演していて、どの日にも講談や浪曲が入っていましたから、やはりそちらも聴いてみたくなります。未収録の落語とともに第ニ弾BOX、出ないかな?
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快挙といえば、来福レーベルもやってくれました、寄席囃子三枚組! いままでも寄席囃子CDは出ていましたが、今回は全百ニ十一曲を新レコーディング。これまでにはなかった春風亭昇太の《デイビー・クロケット》なども入ってますよ! 出囃子というのは、噺家や色物の芸人さんが高座に登場するときのテーマソングです。アントニオ猪木の《猪木ボンバイエ》のようなものだと思っていただければ。それぞれの芸人さんもプロレスラーと同じように決まった出囃子をもっていますので、好きな人になると出囃子を聴けば
誰がでてくるかわかるんですね。寄席囃子は、高座の陰でお囃子さんが三味線を、前座や二ツ目の噺家さんが太鼓や鐘、笛を演奏します。出演者に
よって曲が違いますから、これだけたくさんの出囃子を覚えるだけでも大変なことだと、聴いていて、改めて感心しちゃいました。ちなみに、お囃子さんは歌舞伎音楽や太神楽などとともに国立劇場に養成課がありますので、もしなりたい人はこちらに。五十歳位までOKらしいですよ。