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太陽劇団、22年ぶりの日本公演。世界の演劇界のチャンピオン、アリアーヌ・ムヌーシュキン、新作『金夢島』を東京芸術劇場で上演。


© Michèle Laurent

text:寺本郁夫

フランスの太陽劇団が22年ぶりに来日して、10月に新作『金夢島』を上演します。この劇団およびそれを主宰するアリアーヌ・ムヌーシュキンの記憶は、2001年、新国立劇場で上演された『堤防の上の鼓手』を見て以来、強烈に心に刻まれています。一言で言うと、この混迷の世界にあって演劇に何が出来るかという問いに対して、この劇団が出した回答に今も世界は照射されている。そんな印象が色あせることはありません。ここでは、『堤防の上の鼓手』を少し振り返ってみたいと思います。

©まつかわゆま

日本の文楽に傾倒したムヌーシュキンは、舞台上の俳優たちを浄瑠璃の人形に見立てて、背後の黒子に「操らせ」ます。その仕掛けがまずショッキングでしたね。人間が演じる人形の不思議な生々しさに見ていて圧倒される。でもこれがなぜそんな風に「操られ」た人間たちの芝居なのか。劇が進むにつれてだんだん分かってきます。物語は古代の中国の洪水にまつわる話で、迫りくる災厄を巡って領主とその配下の者たち、国民たちが陰謀に巻き込まれていく。欲望と愚昧、情愛と義憤に駆られた人間たちは、まるで近松の浄瑠璃の主人公らが運命の手に翻弄されるように、運命の渦に絡めとられていきます。

© Michèle Laurent

能舞台のような方形に切り取られた舞台への人の出入りも、文楽のような様式性に支配されています。入場も退場も、その都度取り返しのつかないことが生じているような、劇的な所作として描かれています。舞台が変幻自在に様々な空間に変容する様にも驚かされます。洪水の水面や水中を往還しながら恋人たちが悲劇的なラブシーンを繰り広げる場面など、舞台が舞台であることを超えて夢幻的な空間と化していくのを、観客は息を呑んで見守ることになる。

2019年、京都賞を受賞したムヌーシュキンが東京で行った講演を聞きに行きましたが、彼女の口から、現代の大国の為政者たちの貪欲や欺瞞に対する烈火のような怒りが迸り出たのに驚いたものでした。が、同時に彼女はかかる現代の狂気に抗うために演劇が必要とするのは、想像力であり悲劇の力であり詩の力であるとも宣言していました。『堤防の上の鼓手』にも、強く美しい言葉が散りばめられていて、正しく舞台の言葉、詩の言葉こそが人を捉え動かすものだと実感させられます。『堤防の上の鼓手』の冒頭、領主は、観客の心に傷のように残る言葉を絞り出します。「一たび空間がなくなれば、もはや時の塵しか残るまい」。

© Michèle Laurent

さて、この秋、日本と思しき架空の島を舞台にした太陽劇団の新作『金夢島』は、病床の女性が携帯電話をとる場面から始まります。そこから舞台がどんな幻想世界を繰り出してくるのか、目くるめく舞台空間の変容に誘われる新たな太陽劇団の旅に、私たちも足を踏み入れたいものです。

© Michèle Laurent

LIVE INFORMATION

東京芸術祭 2023 芸劇オータムセレクション
太陽劇団(テアトル・デュ・ソレイユ)『金夢島 L’ÎLE D’OR Kanemu-Jima』
※フランス語上演(多言語の使用場面あり)・日本語字幕付き


2023年10月20日 (金) ~10月26日 (木) ※23日(月)休演
会場:プレイハウス(東京芸術劇場)
作:太陽劇団(テアトル・デュ・ソレイユ)
演出:アリアーヌ・ムヌーシュキン(2019年京都賞受賞)
創作アソシエイト:エレーヌ・シクスー
音楽:ジャン=ジャック・ルメートル
出演:太陽劇団(テアトル・デュ・ソレイユ)https://www.geigeki.jp/performance/theater336/

《あらすじ》
時は現代。病床に伏す年配の女性コーネリアは、夢の中で日本と思しき架空の島「金夢島」にいる。そこでは国際演劇祭で町おこしを目指す市長派とカジノリゾート開発を目論む勢力が対立していた。夢うつつにあるコーネリアの幻想の島では、騒々しいマスコミや腹黒い弁護士、国籍も民族も様々な演劇グループらが入り乱れて、事態はあらぬ方向へと転がっていくのであった……。

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