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第35回:思い出し笑い「大東京独演会」(&ツルコ)


©2010吉本興業 

第35回:大東京独演会

*intoxicate vol.88(2010年10月発行)掲載 

 独演会に〈大〉が付く! まさに、な落語会が東京で行われたのは、お花見シーズンの四月のこと。ご存知、桂文珍が、十日間連続の独演会を開催したんです。


 二〇〇七年に、「にっぽん! ハハハ!!」のタイトルで日本全国四十七都道府県で独演会を行う、というツアーで驚かせてくれましたが、そのツアーのファイナルとなったのが、二〇〇八年四月に大阪のなんばグランド花月で、十夜に渡って行われた「桂文珍十夜連続独演会」。四十七都道府県ツアーというのも初めてなら、十日連続独演会も初めてのこと。この独演会、全チケットが発売後三十分で完売し、大盛況だった上に、平成二十年度の文化庁芸術選奨まで受賞しました。その翌年の二〇〇九年には、再び四十七都道府県全国独演会ツアーを敢行。四月からスタートし、翌二〇一〇年の三月まで各地を訪れ、日本全国推定十万人の人々を笑わせた、そのツアーのファイナルが、今度は東京での「十日連続独演会」だったんですね。毎年のよう
に、まだだれもやっていないこと、〈前代未聞〉をキーワードにしたような挑戦をしてきている文珍さんですが、この会の前代未聞は、東京での初の十日間連続独演会であること、大阪での十「夜」に対して、こちらは昼間に行われた十「日」だったことも驚きでした。週末や休日に昼間の公演はあっても、平日は夜公演というのが普通ですが、連日昼公演。でも、こちらもチケットは即完。さすが。


 初の東京十日連続公演は、国立劇場の大劇場で開催というのも話題でした。裏の演芸場ではもちろんないし、お隣の小劇場でもなく、堂々の大劇場。これもまた前代未聞。初日公演に伺ったのですが、歌舞伎や文楽などの公演が行われている大劇場は、舞台にあわせて客席も左右に広く、その広い舞台には落語会につきものの屏風や高座台もなく、ただ座布団一枚と、その前に上方落語ならではの見台とよばれる小机と膝隠という衝立が置かれているのみ。この公演はは歌舞伎のときのような花道がないので、最大キャパ一六〇〇人で満杯の客席、対して広い舞台に噺家がひとり。忘れられない光景です。


 初日は、「蔵丁稚」と圧巻の「らくだ」で、観客を魅了。「忠臣蔵」の「四段目」を題材にした演目と、歌舞伎でもおなじみの演目を公演の最初にセレクトしたのは、会場が普段お芝居を上演している場所だから、との心配りだと知ったのは、初日公演後に珍しく行われた囲み取材のときでした。いいお客さまに乗せられて、「今までの人生でいちばんいい一日」というほど手応えを感じたと満足そうで、翌日からの九日間への力となったようでした。


 連日満員御礼で無事に終わった爆笑の十日間の高座は、大阪公演と同じく、このたびDVDとしてリリースされますが、なんとここでも前代未聞が! すべての演目に、英語字幕がついてます! これはもう、次は日本を飛び出して、前代未聞の世界での独演会を目指してるってことですか?

 
 もひとつすごいのは、この十日間を追ったドキュメンタリー映像。これは
BOXセットの特典ですが、舞台の設営から楽屋での姿など、初日から楽日まで毎日の様子を丁寧に追った、六十五時間に及ぶ記録をまとめたもので、それはそれは見応えあり! ぜひ高座と一緒にこの臨場感も一日ずつ楽しんでほしいです。舞台に上がっているのは一人。でもその裏ではこんなにたくさんの人々の力があるんだって、改めて感動します。だって、毎日同じ舞台なのに、一日が終わるとばらして、また翌日設営するなんて!
 頭下がります。


DVD『桂文珍 大東京独演会』
DVD-BOX [YRBA-135] 10枚組+特典DISC1枚 [日本語・英語字幕付き]
<一日目> 蔵丁稚 / らくだ[YRBA-90070]
<二日目> 茶屋迎い / 算段の平兵衛[YRBA-90071]
<三日目> 風呂敷 / 新版・七度狐[YRBA-90072]
<四日目> 住吉駕籠 / 地獄八景亡者戯[YRBA-90073] 
<五日目> 池田の猪買い / 御神酒徳利[YRBA-90074] 
<六日目> 高津の富 / 商社殺油地獄[YRBA-90075]
<七日目> 軒付け / 口入屋 [YRBA-90076]
<八日目> 船弁慶 / そこつ長屋[YRBA-90077]
<九日目> 星野屋 / 胴乱の幸助[YRBA-90078]
<十日目> 老婆の休日 / 百年目[YRBA-90079]
いずれも発売元:よしもとアール・アンド・シー

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