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ひとり散歩強行軍

 私はせっかちなので、フィルムを1本撮り終えたらすぐに出来上がったものを見たい。だから、フィルムの現像はいつもカメラのキタムラでお願いしていた。それならデジタルで撮れよということなのだが、フィルムも楽しいから、使ってしまう。
 フィルムの現像を請け負っている店はキタムラ以外にもたくさんあって、最近では地方のカメラ屋さんが郵送でのフィルム現像を請け負っているというのもあるらしい。特に有名なのは山本写真機店さんで、そこで現像をされている濱田英明さんの作品に憧れて、私も郵送現像を試してみることにした。
 当然、そのためには現像するフィルムが必要で、郵送ということは送料がかかるから、1本だけではもったいない。ちょうど初挑戦のlomography400を買ったばかりだったので、それを手持ちのKonica C35、OLYMPUS AF-1 TWIN、Canon AE-1 PROGRAMに装填して、郵送するフィルムにしようと思った。しかし、Canonにはすでにフジの業務用100が装填されていたので、それも併せて4本を撮りきったら送ることにした。
 せっかちな私としては、土日に撮りきって発送し、翌週中にデータを貰いたいところだが、なにせ36枚撮りが4本もある。デジタルと違い、無駄撃ちができないフィルムの36枚というのは使いきるのがなかなか大変だ。土曜日までに多少は撮っていたものの、まだ残りはたっぷりある。相当気合を入れて撮りにいかなければ。

 そんなわけで、土曜は自宅最寄りの青砥駅から、平井駅方面を目指して写真を撮り歩いた。目的地は旧中川沿いの河津桜並木に設定した。

 まずは中川沿いを南に下る。
 ここでトラブルが起こった。業務用100も含めて2本消費する予定のCanonを優先して使っていたら、シャッターが下りなくなったのだ。何回もシャッターボタンを押していると不意に1枚だけ撮れるけれど、それからまたしばらくはシャッターが下りない。この時は原因が分からなかったが、あとで単純に電池切れだと気づいた。仕方がないので、OLYMPUSを使いつつ、ところどころCanonを試しながら歩いた。

 立石を過ぎて、荒川を渡る。

 風が強い。

 八広から南へ向かう。

 目的地の前に河津桜を見つけてしまった。

 平井は初めて来たけれど、駅は大きくて、住み心地がよさそうな街だ。やっぱり下町はいいなあ。

 出発から2時間ほどかけて、ようやく旧中川の河津桜並木に到着した。桜はいい具合に咲いていて、カメラマンがたくさんいた。
 この時にはなんとなくCanonの不調の原因は分かっていたが、寄って撮りたかったので、頑張って一眼のCanonでも撮影した。

 平井には、雑誌の喫茶店特集でよく登場する「ワンモア」という純喫茶があるのだが、河津桜を撮り終えて時間はもう15時半頃。喫茶店でゆっくりしていては写真を撮る時間がそれだけ無くなってしまう。結構悩んだけれど、純喫茶の誘惑には勝てず、ワンモアで一服した。

 地元の人たちが通う、とてもいい喫茶店だった。ここのクリームソーダは青いらしい。また勢いでブレンドを頼んでしまったから、また来よう。
 目的地には到着したが、まだフィルムの残り枚数も時間もある。Canonの電池も買わなければいけないので、目的地を錦糸町のヨドバシにして、もう2駅分歩くことにした。

 何回でも川を渡る。

 亀戸水神を経由して、亀戸駅方面へ。

 亀戸-錦糸町間は何回か歩いたことがあるので、短く感じた。
 結局さほどの枚数は撮れなかったが、頻繁に訪れる錦糸町でこれ以上撮れる気がしなかったので、残りの時間は錦糸町の純喫茶開拓に使った。北口側の「マウンテン」という喫茶店だ。

 錦糸町の喫茶店(に限らず飲食店)は、外国人の従業員が多くて、他の街とは全く趣を異にしている。店主と仲よくしている感じがほほえましい。
 結局この後、ヨドバシで電池を買い、フィルム約2本分を残して帰宅した。


 日曜は場所を変え、行ったことのない大井町を中心に撮り歩くことにした。まずは京急線鮫洲駅で降り、徒歩で大井町駅方面へ向かった。

 鮫洲駅も初めて降りたが、駅の規模の割に、老若男女さまざま、たくさんの人が降りて、みな同じ方向へ歩いて行った。運転免許試験場へ行くのだろう。私はその流れをかいくぐり逆方向へ向かった。品川区・大田区あたりの東京南側は、歴史を感じる古い街並みと、開発されていく近未来っぽさが混在していて面白い。ごちゃごちゃした商店街があるかと思えば、道路は広いし、遠目にはビル群が見える。

 大井町は思いのほか大きな町だった。この先大森・蒲田と、面白い街が横並びになっているなんて京浜東北線はぜいたくな路線だ。

 大井町には東小路、平和小路という飲み屋街があって、私は久しぶりのザ・横丁にテンションが上がった。これが1年前に訪れた昼間の大森・地獄谷のように誰もおらず、猫が1匹いるだけだったら30分でも1時間でも撮り続けていただろうが、ランチに並ぶ行列があったので、私はささっと何枚か撮ってすごすごとその場を去った。

 松屋で昼食を取った段階でまだ時間はたっぷりあったので、そのまま西へ向かって中延を目指すことにした。
 途中で戸越銀座に向かうかどうか迷ったけど、人が多いような気がしたので、やめた。

 いかついショベルカーがのろのろ移動していた。

 中延は、私が就職のため引っ越すときに候補の一つとして考えていた街で、商店街があり、閑静な住宅街で…という非常にいい街だ。でも何度か来たことがあったので、あまり新鮮な気持ちでは撮れなかった。本当はここで一度喫茶店に入って休みたかったのだけれど、満席で入れなかった。「サンタフェ」という店なのだが、いつも人気でまだ入れていないので、いつかリベンジしたい。

 中延を出て、武蔵小山駅へ向かった。

 ここでもちょうどいい喫茶店が見つけられなかったので、思い切って2駅歩いて目黒駅を目指すことにした。

 目黒駅で「伊東屋」という文房具店みたいな名前の喫茶店に行ったら、人がいっぱいで諦めかけたけれど、店員さんに呼び止められてカウンターに通してもらった。レアチーズケーキがとてもおいしかった。

 残りは14枚。あたりも暗くなってきたし、あてにしていた横丁も閉まっていたので、今日はここまでにしようかと思ったが、新宿の紀伊国屋で写真集を買いたかったので、新宿へ足をのばしてもうちょっとだけ頑張ってみることにした。

 紀伊國屋(南口のタカシマヤの6階のほう)で買ったのはヴィヴィアン・マイヤーの写真集だ。恥ずかしながら最近知って、感銘を受けたので写真集を手に入れたいと思っていた。紀伊國屋へ行くと、欲しかった5,000円ほどの写真集のとなりに、10,000円のものも置いてあって、すごく悩んだ結果、10,000円のほうを買ってしまった。でも、帰ってから読んだらすごくよかったので後悔はない。

 買いたいものは買ったので、思い出横丁やゴールデン街を撮ってもよかったのだが、フィルムでも散々撮っているところなので、残った10枚は翌日職場付近で消費するとして、最後にまた純喫茶「らんぶる」に入った。

 結局この2日は合計4件も喫茶店に行ってしまった。喫茶店趣味もたいがいにしないと、あんなに電車を使わず歩いたのに、珈琲代であっさり元を取ってしまっている。

 この2日で散々歩いたので、足の裏を痛めてしまった。でもスマホの万歩計によると1日2万歩くらいなので、そこまでとんでもなく歩いたわけでもなさそうだ。姿勢がおかしいのだろうか。

 翌日、残りを消費して、ようやく山本写真機店にフィルムを郵送した。データが到着したのはフィルムが到着してから2日後。出来上がりは御覧の通り。非常に満足です。 

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