パレスチナ行きODA=ハマスの武器庫?(2023年12月執筆)
ブログ更新を怠っている間にハマスがイスラエルに侵攻したり、デーヴィッド・キャメロンが英外相になったりと、世界がドラマティックに動いておりました。本邦の外相交代もこの間にあったと思っていましたが9月13日だったみたいでいやはや時の流れの速さは恐ろしいですね。上川外務大臣に関しては、ハマスのイスラエル行進後5日ほどでイスラエル外相と電話会談したり、タイの外相との会談、パレスチナ暫定自治政府のマリキ外相と追加の人道支援の提示含む対談(11月)など忙しそうです。政界に舞い戻ってきたキャメロン外相に関しては、筆者の印象からしまして「不要なレファレンダムをやってブレグジットしちゃった張本人」というイメージしかないですが、開発セクターからは概ね好印象の模様。チャンピオン議長もウェルカムってますね。
10月7日にハマスが侵攻を開始して以来ガザが地獄絵図でしたが、11月24日、一月半が経過してやっと戦闘休止の合意に至りました。ハマスがイスラエルに侵攻して、動くものはとりあえず撃つみたいな衝撃映像がTwitterに流れてきたときは、どこのディストピアですか???となりましたけれども、そこからのスピード感はさらに凄まじかったですね。10月7日時点では「40人死亡」といった報道が、わずか3日後の10月10日には双方合わせて1600人以上死亡という。こりゃいかんということで国連安保理が人道的停戦を求めるブラジル提出の決議案を出したわけですけれども、これにアメリカさんが拒否権を発動いたしまして合意には至りませんでした。そして10月25日に今度はアメリカ版の決議案が協議にかけられたわけですけれども、もちろんロシアが賛成するはずもなく中国とともに拒否権を発動しました。ルワンダ虐殺も止められなかった国連は30年経っても変わってないけど大丈夫そ?的批判には、「まあ、うん」という感想しか出てこないのですけれども、ウクライナ戦争で米派露派の分断が鮮明の中で、メリケンががっつり背後にいるイスラエルが戦闘の地になればそりゃまとまらんでょうと納得の結果ですね。まあ元凶であるエゲレスは1回目の安保理で棄権したりしていて、お前が始めた物語案件なのに何を他人事のようなムーブしてるのかと言ってやりたいですね。、パレスチナ問題は歴史を辿るに本邦が関与する由はございませんので、あからさまに欧米に肩入れをしないのは正しい対応でしょう。自ら厄介事に首を突っ込む必要性が一切ない。
前置きが長くなってしまいましたけれども、twitterを眺めていると色々情報が流れてくるわけでして、その中に、「日本政府はハマスに◯千億円無償で支援している」だの「我々の血税がハマスの戦闘資金にされていてけしからん」だの、バイとマルチの違いがあることさえ知らなさそうな人たちがご意見()を述べられておりまして、とはいえ筆者もよく知らないのでこれはちゃんと調べた方が良さそうということで日本発ガザ行き開発援助の中身を見ていきます。
上のハマスに千億うんぬんがUNICEFから出ている的な話でして、UNRWAじゃなくて何故にあえてUNICEF?と思いましたが、ツイートが見当たらないので筆者の目が開いていなかった可能性がかなり高い。まあ2021年のデータだとマルチのUN機関向け全体のパイでいうとUNICEFがかなり多いのは確かですね。UNRWAが10位に入っているので、49.9milドルまるっとパレスチナ向けの援助に加算されます。とはいえ”UNRWAはヨルダン、レバノン、シリア、ガザ、そして東エルサレムを含むヨルダン川西岸に暮らすパレスチナ難民の支援と保護のために活動“しているので、ハマスに血税が!文脈でいうとどれくらいの割合がガザ向けなのかを知る必要があります。また、UNRWAが汚職の温床批判も散見されましたが、UNRWAのオペレーションエリア(UNRWAにマンデートがある)にいる難民はどうしますのん?となりますし、他のマルチはどうなんです?って聞かれても答えられないでしょうから、援助する/しない論争で語られる問題ではないでしょう。
そもそも本邦ODAは7割以上がバイとなっており、2021年のガザ(West Bank and Gaza Strip)行き援助額では日本はDAC国の中では約91milで3位に位置。2位がEUなので実質2位でしょうか。意外と多い。ドイツがダントツで多いのは何故なのか。ちなみに2020年の日本は約 66milのノルウェー、英国、フランスから少し減って62milで6位なので、21年は前年比50%くらいガザ行が増えてることに。そしてメリケンがやけに少ないなと思ったら、2018年までを見るとなかなかの援助額です。たった4年で1/10になっています。
また、日本の被援助国別バイラテラルでガザ行きはトップ20にも届かない24位で全体のたったの0.5%しかない。まあ2位がDeveloping countries, unspecifiedなのでこれを省くと上位80%には入ってます(というか何でバイのデータにunspecifiedが入ってくるのか謎である)。
日本発ガザ行きバイが91.36milドルで、UNRWA行きの49.9milドルより余裕で多いです、と言いたいところですが、UNRWAは国際機関でありながら援助対象はパレスチナ難民オンリーなので実質バイでありマルチと区別が難しい。JICA年次報告書によると、
と分類されているので、国別データの無償資金協力のうち”国際機関当経由の贈与”がこれに当てはまりそうです。国別データでみると、 パレスチナ行き援助は円借款なし、無償資金協力と技術協力から成り、そのうちUNRWA連携で5.72億円と記載されていますので、この数値がマルチの総額であれば、バイが大半を占めていそうです(ちなみに2021年は1ドル=109.7653 円で換算されており、もはや1ドル100円台の時代は遥か昔に思えるのが悲しい)。
この5.72億円の出処を見に行きたいのですが、JICAのデータは相変わらず探しづらいし、探し当ててもそのデータの見づらいこと。最終的にはDACを見に行くことになるとはいっても、JICAがまとめてくれればありがたいのですが、年報のページ群にあるように見せかけて全然見当たらないのが余計に煩わしい。それに、5.72億円だと、上のOECDの49.9milと数字が合わない。パレスチナ以外の国別データにあるかと思いましたが記載があったのがシリアの1.98億円のみ。ということでOECD.Statを見に行くことに。
ということで、日本発UNRWA経由ガザ行きの援助額は約33.38milドルとなっています。ガザ以外も合わせると約44.9milドルで上記の数値と一致します。JICA年報の”ガザ情勢悪化により被害を受けたパレスチナに対する緊急無償資金協力(UNDP連携)”は”EMERGENCY GRANT AID FOR PALESTINE AFFECTED BY THE DETERIORATION OF THE SITUATION IN THE GAZA STRIP”ですね。援助額も一致しています5.214763百万ドルx109.7653円=約5.72億円)。年報にはこのプロジェクトだけバイで計上されていますが、理由は不明です。上記のJICAの無償資金協力への分類でいうと、他のプロジェクトも当てはまりそうですがそうなっていないですし、緊急無償資金協力のみバイに計上するのかとも思いましたが、2020年に緊急援助(EMERGENCY RESPONSE FOR HUMANITARIAN ASSISTANCE IN 2020 (GAZA))を実施していますが、バイには計上されておらず以前分類基準が不明です。
また、”ガザ情勢悪化により被害を受けたパレスチナに対する緊急無償資金協力(UNDP連携)”は年報にもある通り、UNDP, ICRC, OCHAにも資金協力(計1,000万ドル(10億8,000万円))を実施しています。なお、ODA見える化サイトには当プロジェクト情報は無い。
上述のとおり、ガザ行きバイはバイ全体のうち0.5%ほどであり、総額91.36milドルの内33.38milドルがUNRWAを経由、内約5.2milドルがバイに計上されています。UNRWAは実質バイと言えますが、UNRWA経由の援助額は全体で49.9milに過ぎず、こちらもODA全体のごく僅かな割合しか占めていません。UNRWAへの無償資金協力を批判するのであれば、よりODAに占める割合が大きいUNICEFやUNDPのプログラムにも同様に批判されて然るべきでしょう。というか今年8月にエチオピアでWFPの食料援助の横流しがあったの忘れてません?9月にもソマリアで食料窃盗がありましたが、Twiiterで騒いでいた人たちは、世界のどこかで起きる大きな出来事を取り上げて高尚な人種になれた気がしたい人が大半でしょうから、ただの貧しいところで起きた汚職などは攻撃対象外でしょう。
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