岡本吉起

岡本 吉起(ゲームクリエーター)

1961年生まれ。デザイン学校卒業後、83年カプコン入社。元・カプコン専務、現・ゲームリパブリック社長、株式会社オカキチ代表取締役社長、公益財団法人 日本ゲーム文化振興財団の理事長。

- Interviewz.tv - 収録日 2001/02/09

――謙虚、謙虚って毎回言ってますよね?

岡本「言ってない、言ってない。ただ素のままを見てほしいって言ってるの」

――さっきも庶民派とか言って……何かの裏返しなんですか?

岡本「みなさんに勘違いされないようにって」

――え?

岡本「例えばカレーとか餃子とか焼肉とかが庶民派のぼくの好物だったりするんだけど……自分の趣味に関係なくいろんなものを食べさせられたりするんですよ」

――ああ、接待とかで。

岡本「そう。こっちが接待するんならいいけど。オレを接待するときにさ。「ヤキソバがいい」とか言うと「じゃ、今日は中華ですね」って全然ヤキソバが出ない中華屋さんに連れていかれたりして。これはちがうだろって。接待の意味が違う。みんなが遠慮しちゃうわけ。でも、オレ、庶民派だからカレーライスが食べたいっていったらカレーが……」

――それは食い物の指向であって、庶民派っていうのと違う気がします。

岡本「だから、最初に言ったでしょ。庶民派と庶民は違う」

――爆笑。

岡本「複雑な言い方をはぶくと、オレを接待するんならオレの好きなもの食わせろ、と。このままじゃ太るだけだよと」

――焼肉ダイエットは成功しましたか?

岡本「10キロくらい痩せた。でも今はまた接待地獄で戻りつつある」

――庶民派っていってるけど、このお家(カプコン第六開発部)からして豪勢ですね。まず田園調布っていうとこがなんとも。

岡本「ちがうって。うちは多摩川方面。失礼なこと言うなって(笑)」

――この広さ、その他もろもろ考えると、ため息出ますね。

岡本「全然逆ですよ、その発想。まずひとつの建物で隔離したプロジェクトを始めようと思ったんです。で、何十人と入れて、全員が通いやすい家を探したら、ここしかなかった。決めてはサイズと距離。だから、カネが余ってゴージャスな家に開発室を構えたとわけが違う」

――やがてミニルーカスランチみたいになるんでしょうかね? あるいは坂口(博信)さんのスクウェアUSAとか?

岡本「微妙な表現しますね。とんでもないです」

――つまり、クリエイターハウスであり、岡本さんの権力の象徴がこの家かなと。

岡本「いやいや、全然違うって。プロジェクトの立ち上げが、他の会社と一緒にという話だったんで、社内から独立させただけで。何やってるか秘密にしておかないといけないから。それだけで他意ないですよ」

――岡本さんの腹心の部下が集まった、というわけではない?

岡本「古くからいてるという意味では違いますけど、信頼してます」

――じゃ、そのプロジェクトが終わったらここは引き払うんですか?

岡本「いや、これからやり方変えようと思っているんです。遠心力と求心力っていう言葉があるじゃないですか。今は外に広げていく遠心力で行く。横でどう繋がっていくかというミドルウェアの部分をそこそこおろそかにしていても、開発室どうしが競争心をあおって良いものを作ればいいと。そういう時期。時期なんですよ。だから第7開発室もこの近くに作りますし、やがて第8、第9と広げていくつもりです」

――大阪とは違いますね?

岡本「そう。大阪では600人からがひとつのビルにどーんと入ってる。東京では、ばらばらにしようと思っています」

――それ、常識で考えると子会社に分社するっていう布石に見えますね?

岡本「ま、先々そういうカタチになるんなら、なればいいと思います。今はそういう考えは全くない。開発部をわけるのは、部内のはっきりとした線引き。社内取引にしたってちゃんとやりますという決意表明ですね」

――ふむふむ。

岡本「だいたい、子会社の株を公開して儲けようっていっても、現状でオレ一切、子会社の株持ってないですよ」

――セガとは違うと。

岡本「そう。外的力が働いてこの先どうなるかわからないけど、今は社内でも分社化なんて誰も全然言ってない」

――セガの話でたんで、セガについて強引にふります。「DC生産中止」について電撃のホームページにコメント載ってましたけど。もう少し詳しく心境を言ってもらえませんか? 「ドリームキャストはオレの夢だ」っていう発言がかつてありましたよね?

岡本「複雑な表現ならできるかもしれないし、あいまいな表現ならもういっぱいできるんだけど……いずれにせよぼくが具体的に発言することはできないですよ。……「夢だ」っていうのの裏側がいくつかあって、かいつまんで言うと、「三つ巴の戦い」をしてほしかった」

――ゲームキューブなりXboxなりが出てくれば、また「三つ巴」になりますが。

岡本「いや、その当時において魏、呉、蜀になってたじゃないですか。蜀が圧倒的に弱かったんで、うちはバックアップしたと。一強二弱になると、ぼくたちみたいにソフトだけ扱ってる会社ってすごく不利になるんですよ。今のオレたちにできることといったら、三つ巴の戦いになるよう蜀を応援するしかなかった」

――DCマガジンでカプコン、ライセンシーで表彰されてましたよ。「よくあれだけのソフトを出して貢献してくれた」って。

岡本「オレは負け戦だと思っている。負け戦のなかで貢献もクソもないですよね」

――そう……ですか?

岡本「任天堂64くらい結果が出ていたら、ぼくもがんばりましたって言えるけど……今回は惨敗だったと言うイメージが強い。だからカプコンの力も底が知れてるよなぁって。もう少しがんばれそうな気がしてたんですけど。オレたちががんばったくらいじゃ、どうにもならへんのやなっていう、寂しい気持ちですね」

――がんばった姿は見せたんだから、今回はそれでよしにしておかないと。

岡本「がんばったつもりでいるんですけど。確かに「鬼武者」もPS2だし「バイオ」シリーズもPSだし、主力が来てへんやないかっていう声もあるんですけど……対戦モノは全部持ってったつもりだし、人数で言ったら3分の一以上は突っ込みましたよ。だから今回のセガの決定で「うちの力は弱いな」って実感できましたね、十分に」

――……敗者の弁になってしまいましたね……。

岡本「負けたのはセガが弱かったんだとか、ハードが悪かったんだじゃないです。あのハードは決して悪くないし……お気に入りのハードなんですよ。自分たちのバックアップの仕方も、弱いもんじゃなかったし。入交さんともうまくやっていた」

――じゃ、一番の敗因は……。

岡本「もう出だしからだよね。サターンのときにセガが負けたって言わなくてもよかった」

――あれでコアなファンがみな逃げましたよね。

岡本「セガにも言いましたけど、まずコアなファンから取って、次にステップしてくださいって。でも、コアなファンは何してもついてくるんだって言われたんですよ。コアなファンにうけるハードとゲームを作っていたから、コアなゲーマーがついてきたのに……。これがぼくの中でのがっかりのひとつ」

――あの広告はセガ宣伝部でも知らなかった人がいて大騒ぎだったそうですが……。

岡本「それとPS2が発売されたタイミングでマスコミがあおりすぎた。PSとPS2を戦略とかまで含めて、もう少し比較検討して欲しかったですね。でも、前回勝ったPSだから今回も勝ちだろうと勝手に決めてかかった。前回セガが負けたんだから、今回も負けるだろうと。マスコミの論調って必ずそうなんですね。今の状況で線引きする。気に入りませんでしたね」

――PS2はやはりソニーのイメージで勝つんじゃないかと思いました。

岡本「ソニーのイメージじゃないです。PSのイメージ。イコールメジャーのイメージです。家庭用のゲーム機を「ファミコン」から「プレステ」に変えたんだから。

――そういえば、岡本さんがPSソフトをPS2で互換させようと提案したらしいじゃないですか?

岡本「それは正しい戦略を正しく伝えてるだけで……あたりまえでしょう」

――敵に塩を送るというのは。

岡本「いや、だからどこか一方だけが勝ってほしくなかったんですよ。伸びるところは延ばして、伸びないところもなんとか延ばしてあげないと、オレらの市場が小さくなってしまう。だからPS2の足を止めようとは一回も思いませんよ。PSが敵だとも思わない。ただDCは精一杯押し上げたかった」

――先ほどの話の続き、また三つ巴の状況になってきましたね。しかも今度は外国も加わる。

岡本「そろそろ日本も、ゲームが世界に名だたる文化だと気づいていいんじゃないかと思います。アメリカがバスケットボールでドリームチームって作るでしょ。どんなやつらがかかってきても、圧倒的に強いチーム。ぼくらも最強のチーム組んで圧倒的な強さを見せ付けたいですよね」

――ゲームが低迷してると言われているからこそですね。

岡本「そう。今必要なのは、二度とケンカしかけてこれないような圧倒的な力を内外に見せ付けること」

――それ、失礼ですが岡本さんのクリエイター生命がつきようとしている焦りもあるんですか?

岡本「いや、オレ、ドリームチームのメンバーに入ってないもん。クリエイターとしてはもうカス。プロデューサーとかならいけるかもしれないけど(笑)」

――あれ? もしそうなったら音頭取りはカプコンがやるんでしょう?

岡本「いや、カプコンはやはり企業として利益追求……やるとしたらオレ個人かな。でも時間が……いや、オレじゃなくても、どこかのメーカーで本気で考えてるやつがいたら力貸します……こういうタイミングでうまく固まれないかなって思ってるんですよ」

――それで今度の三つ巴にカプコンとしてはどう参加されるんですか? やはり全てにソフトを供給して応援していく、と。

岡本「……言えない」

――なんじゃそれ。

岡本「三つのハードに供給はするでしょう。ただ、三つ出してるから全部に均等に力をかけるかというと?です」

――つまりDCみたいにひいきするってことですか?

岡本「普通に考えたら6:3:1に売れてるハードだったら、同じ割合で力を割くじゃないですか。それはしない。売上が多少苦しくなっても、ゲーム業界全体の底上げを図ります」

――ということは?

岡本「言えない……つくづく、ハードはひとつのほうがいいって思いますよね」

――さっきと言ってることが違うような?

岡本「いや、ホント。PS2ならPS2だけのほうがいい。三つあるから三つ出してるわけで。つまり、ビデオみたいなもんで、パナソニックのPS2とかもあればいい。OEMで好きなPS2が選べるというのが一番いいんです。よくメーカーがハードじゃないよ、ソフトで勝負と言うけど、もうホント、そうさせてくれって」

――最後にカプコンと岡本はこの先どうあるべきかと。

岡本「べき論ですか」

――はい。

岡本「カプコンは本気でバックアップしたら、そのハードは勝ちに近い状況まで持っていける、という力を見せ付けるべきでしょう」

――DCの反省からですか?

岡本「DCは50%の力かけたかって言われればノーですから。言わば腰の引けた全力だった。本気でっていうのは……前回は全ハードで勝ちに行ったけど……今回は面白い勝負ができそうです」

――岡本さん、引退したいともおっしゃってましたね?

岡本「餃子屋になりたいですね。こじゃれた餃子屋」

――いや、それまでのスケジュールはどうなっているのかと……。

岡本「まったく見えませんね。外堀も内堀も全く。いや餃子屋っていうのはシャレです。ただ客商売やりたいです。それが60才になるか70才になるか未定ですけどね」

――その時は食べに行きます。どうもありがとうございました。

Tommy鈴木的後記
カプコン常務。会社の広報を通さないで依頼してしまい、当日宣伝部の方に大迷惑をかけてしまった。今から考えると当たり前のことだけど、会社に所属してる人は何かと面倒。媒体資料なんて用意してないし。これは今後の課題です。話自体は、いつもの「岡本調」。やさしい、人情家という僕の直感どうりの人ですが、今一番元気なソフトメーカーのえらい人だけあって「言えないこと」が多い。結局宣伝部を通してしまい、これは裏インタビューじゃなくて正規インタビューになってしまった。最初の「接待云々」はせめてもの、どこにも書かれていない話として掲載した次第。岡本さん、約束どおりお昼ご飯おごりますが、餃子定食でいいですか?

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