「本当は話したいことがいっぱいある。」公募インタビュー#5
〈遥さん(仮名)2020年6月下旬〉
遥さんは現在高校2年生。高校に入ってからのことを話したいということでインタビュアー田中に応募してくださいました。
※インタビュアー田中の発言の前には──が付いています。
進学校に入ったはいいけど
遥さん 私が中学までいたところはかなり田舎なところだったんですが、そこから県内の高校には行かずに、県を越えて、かなり都会の高校に入ってしまったんですね。自分で言うのもなんですけど、田舎の中学ではかなり勉強ができた方で、もう少し勉強ができるところに行きたいと思って、結構な進学校に頑張って入ったんですよ。入ったはいいけど…みたいな感じで(笑)。
まさに井の中の蛙だったなと。進学校で勉強についていけないのもあって、1年生の時は友達が全然いないという日々を過ごしまして。そんな、いろいろ、「わあああああ」っていう話なんです。
──高校では、最初、周りは知らない人ばかりという状況ですよね。
遥さん 全然、だーれも知らないですね。言葉の壁まではいかないですけど方言の違いとか、文化の差とかもあって。そもそもそんなに人付き合いが得意な方ではなくて、なかなか馴染めなくて。
蛙化現象/友達を切ってしまう
遥さん (1年生の時、)それでもなんとか仲良くできた人がいたんですけど、二人ほど既に(付き合いを)切ってしまいました。高校に入ってから気付きましたが、私は人間関係のリセット癖があるっぽいです。
切っちゃったうちの一人が男の子なんですけど、「蛙化現象(かえるかげんしょう)」って知ってます?
──知らないです、何ですか?
遥さん ずっと好きだったのに、いざ相手に好意を向けられると気持ち悪くて気持ち悪くて仕方なくて別れてしまうみたいな。調べたら、割とあることみたいです。
※「蛙化現象」それまでの関係が良好だったとしても、相手に好意を表されると嫌悪感を感じ退けたくなるといった現象がそう呼ばれているらしい。(ネット調べ)
高校に入ってずっと好きだった男の子と、二人でイベントに行ったんですよね。約束をした時はめちゃくちゃうれしくて舞い上がっていたんです。
でも、イベントに行って、告白してもらったんですけど、そしたら帰りの電車からものすごくその人のことが気持ち悪くなってしまって。
──告白されたことで180度変わっちゃったんですね。告白された瞬間はうれしかったんですか?
遥さん 違和感ですね。これはいいことのはずなのにざわざわする、みたいな。
考えれば考えるほど、今後、彼と二人で会った時にもしも手でもつながれたら私は死んでしまう、絶対無理だ、って思って。本当に本当に気持ち悪くなって、その日のうちに別れを告げる手紙を書いて、次の日には渡しました。その男の子には本当に申し訳ないんですけど…。何にも彼は悪くないので。
その後、インターネットで調べて、「蛙化現象」という言葉にたどり着いて、自分に自信がない、自己肯定感が低いのが原因とか書いてありました。
──不思議ですね。それまで好きだったのに。
遥さん 言うのも恥ずかしいですが、かなり好きだったんですけど、自分でも何で?ってくらいに気分が下がって。
その人とは、うっすら話すくらいの関係だったのに気持ちだけ走って、多分、その人に理想を重ねてたんでしょうね。その人は何もおかしなことをしてないんですけどね、本当に。
私、これからも絶対恋愛無理だなあと思ってます。あんな気持ち悪いものなら全然なくていいです。正直、将来もずっと一人身だろうなと。
原因は自分とわかってる
遥さん で、その後1ヶ月もしないうちに夏休みだったんですけど、夏休み明けてしばらく、学校に行けなかったんですよね。
──それはその男の子のことが原因ですか?
遥さん うーん…何が原因かと言われるとはっきりとはわからないんですけど、1〜2週間行けなくて、そんなこと初めてだったので、両親、特に母が心配して、学校のカウンセリングまで受けさせられました。
あのカウンセリング、私の何を見ようとしてるんだ、って思って本当に嫌でしたね(笑)。でもカウンセラーさんは悪くないですけどね、仕事なんで(笑)。
そのうち、結局時間が解決したというか、学校に行けるようにはなったんですけど、そのカウンセリングが嫌すぎて、二度とこんなに休めないなと思いました。
担任の先生の態度もそれ以来、私に対してものすごく腰が低いです。先生が原因と言ったわけでもないんですが、何かあれば学校を休まれると思ってるのか、それ以来全然怒られたりしないですね。
私以外、先生も、周りの誰も悪くないのに、いろいろ申し訳ないですね。
──自分以外のところに原因があるわけじゃないと思うんですね。
遥さん 高校に入ってから私の周りで起きる問題は、大体全部私のせいなんで。それがわかってるから、より一層落ち込みます。
もう一人(付き合いを)切ったのは女の子なんですけど、悪い子ではなかったんですよね。本当に友達がいない時にどうにかして一緒にいる人を作ろうと思って、なりゆきで一緒にいた子なんですけど、どうにも馬が合わなくって。でも一緒にいるときには普通に接していたんですが、学校に行けなくなった時にカウンセラーと話していてぽろっとその子のことを言ったら、すぐに担任経由でその子に伝わって…その時点でもう切れたな、と思いました。それ以来仲良くしてないですね。用があればたまに話すんですけど。
その女の子とも、最初に言った男の子とも、クラス替えで別のクラスになりました。男の子とは話さないようになって1年になるかな。私のいないところで幸せになっていてほしいけど、私は絶対関わりたくないという気持ちです。
二人のことは今めっちゃくちゃ“嫌い”で、でも私が悪いよなーと思うので、その嫌いな分が全部自分に返ってくる。倍くらい自分が嫌いです。
部活に居場所ができて
──その後、他にお友達付き合いはどうですか?
遥さん クラスで話す人はいないんですが、最近、部活でようやく人付き合いができるようになってきて。その人たちは切らないようにしたいですね。切るとなったら私が部活をやめるしかないんで、あの部活をやめちゃうと私は本当に居場所がないです。
私はその子たち以外に仲のいい人がいないんですけど、その子たちからすると私はただの部活の一員のちょっと仲がいい方、みたいな感じ。その子たちは多分、クラスの中ですごく仲のいい人達がいて、お弁当とか食べる相手がいる。
その友達がクラスの子と話してる時、私はその話に入っていけないんですよ。他の子たちと話している時、私は一人で後ろを歩いている、みたいな状況がすごく嫌です。その子たちは高校のある地域が地元の子たちなんで、同じ中学出身の子だっていて、部活以外にも友達がいる。私は大勢いるうちの一人であって、めっちゃ仲がいいわけでもないんだなと思うと、悲しくなりますよね。つくづく自分、めんどくせえなと思うんですけど。
──遥さんはお弁当はどうしてるんですか?
遥さん 私はお弁当は部室で食べてます。部室に行けば誰かしらいるんで。1年生の頃はそれすらもできなかったです。今は「私友達いないんで、部室で食べるしかないんすよ〜」ぐらいには言えるんですけど、以前はネタにできないくらい病んでいましたね。
勉強のこと/経済的なコンプレックス/ステイタス
──お勉強は今どうですか?
遥さん 勉強が本当についていけなくて。私がどうにか行動を起こせばいいの話なんですけど、休校中もスマホいじって寝て、まったく有意義に過ごせなかった。学校の課題を配信されるサイトを見るのが嫌で嫌で仕方なくて、私は全然手をつけていないのに日々課題が増えていって。
変な言い方すると、私はある意味完璧主義者で、できないならやりたくないんですよね。やって自分がどれだけできないかが可視化されるのは気分が悪いんです。だからと言ってそれができるようになるまで努力しようとは思えないという…。
私にちゃんと友達がいないのも、課題もできていないし、あの子たちが勉強している間私はスマホいじって寝てたしっていう、そういう後ろめたさが募るのが嫌で人と話せないからかもしれない。
──塾などは?
遥さん 行っていないです。実はそこもすごくコンプレックスを感じるところなんですけど、私の行っている学校は進学校で、中学、何なら小学校の頃からこの高校に入るぞっていう意気込みで親が塾に通わせてる家庭もあって、嫌な言い方ですけど、周りはお金持ちが多いんですよね。私の家はそんな裕福な方じゃなくて、塾に行きたいって言うのも“ない”なーと思ってて。
私、この高校に入って本当にひねくれたと思うのが、周りの子が塾に行ってるとか楽器が弾けるとか聞くと、この金持ちめ、みたいに思っちゃうんですよね。
進路のことでも、まだやりたいこともなくて悩んでますけど、大学に行くなら私は頑張って国公立に行かないとと思えば思うほど、周りのお金持ちの同級生がめっちゃうらやましくなります。お金だけじゃなくて彼らはちゃんと努力してるっていうのもわかってるんですけど、それもお金持ちだからできるんだろーとか思っちゃう自分が嫌ですね。
──遥さんは高校受験の時も、塾に通わずに受かったんですか?
遥さん 1回短期講習だけ受けさせてもらったんですけど。私は高校の入試の中でも一番入りやすい方法で入ったんです。田舎の中学校の時は私はすごく優等生だったんで(笑)、当日点じゃなくて内申点で入ったなあというのがあります。周りの子たちはあの頃頑張ってたんだろうと思うと、この高校に入るべきじゃなかったっていうのがずっとあるんですよね。他県から来て、ズルして入ったような感覚があります。
──他の高校に編入する選択肢について考えたことは?
遥さん 1年生の夏休みとか学校に行けなかった時期に調べて、公立の通信制高校が学費も安い、この月とこの月は編入を募集してるみたいのをまとめてはみたんですけど、そこまで本気じゃなかったです。とりあえず他に方法があるみたいなのを知っておきたくて。
──今後も今の高校でやっていく?
遥さん ここも自分の嫌なところなんですけど、私はきっと、この進学校にいるということでステイタスを高く見られたいんですよね。今思うと、私はステイタス欲しさに今の高校に入ったんじゃねーかなって。結局そういう、どう見られるか・こう見られたい、っていうのがあって、それで動けないっていうのはありますね。
地元の友達/人の名前と顔が覚えられない
──県外からの入学ということは、通学が大変じゃないですか?
遥さん 中学の終わりに引っ越して、高校までは遠くないんです。でも、小さい時からずっと一緒だった地元の友達と離れちゃって、あー地元の友達と遊べるのいいなーってすごく思うんですけどね。
──地元には仲のいい人がたくさんいる?
遥さん そうですね。本当に狭ーいところだったんで、小学校も中学校も、何なら未就学時から一緒の人もいて、その人間関係がずっと変わらなかったんですよね。
私の友達の基準が、その地元の子たちなんでしょうね。出会って数年、1年もないような人たちと、地元の子たち並みにすぐ仲良くなれるわけないのはわかってるんですけど…。
──遥さんと同じような、地元から離れて高校に来た人は?
遥さん 多分いないと思いますね。私は人間関係が広くないので知らないだけかもしれませんが。本当に周りの人のことを何も知らないんですよね。
私、人の名前と顔を覚えるのがすごく苦手で、クラスメイトの名前と顔も全然一致してないです。覚えられないの、しんどいなーと思うんですけど。顔だけ覚えてても、私が覚えてた名前と全然違ったりします。話しかけてみて名前が違ったらと思うと、自分から人に話しかけるのができないんですよね。そうして受け身のくせに、人に対していろいろ求めるからこれだけ友達が少ないんだろうなあ、って思います。
高校に入ってから自分の卑屈な部分が見えてきてそれがめっちゃ嫌で、人と話すこともなくて自分でひたすら考えるしかないから、なんかもう考えれば考えるほど、わーっ自己嫌悪、ってなっちゃって。これが高校生のうちだけだといいんですけどね。大人はよく「よくある思春期の」とかで片付けるじゃないですか(笑)。実際それだったらいいんですけど、もう一生続きそう。
──先が見えるわけじゃないから、苦しいですよね。
映画とか音楽とか
──学校以外で時間を使ってやっている、何か楽しいことはありますか?
遥さん 音楽とか映画は割と好きですね。休校時間中もNetflixとかHuluとか見たり。
──何かいいのありました?
遥さん 前々から見たかった『俺たちに明日はない』っていう昔の映画を見て、面白かったですね。クライム映画とか結構好きです。
あと、『冷たい熱帯魚』。普段見るのは洋画なんですけど、邦画だからって気を抜いていたら結構グロくて(笑)、まあ面白かったですね。
古い、いい作品のオマージュってあるじゃないですか。そういうオマージュとかわかるようになりたくていろいろ見ようと思って、『レオン』も今途中まで見てます。
映画を見て面白かったら、その映画に出てきた俳優さんのインタビューを読んだりして、つながりのある映画を見てみたりもします。
音楽はボーカロイド系とか好きです。気に入ったボカロPさんの曲を聞いてます。その関連で、米津玄師さんの曲も好きです。米津玄師さんのCD、結構持っています。
※ボカロP(ボカロピー)とは音声合成ソフト・VOCALOIDで楽曲を制作し、動画投稿サイトへ投稿する音楽家を指す俗称。(Wikipediaより)
──この間米津玄師さんファンの方にインタビューしました。
遥さん そうなんですか。いいですよね、米津玄師さん。’ハチ’っていう名前で活動してた方で。小学生の時にすごく仲の良かった友達からこれいいよ、ってボーカロイドの動画を見せられて以来、もう6年くらいずっと好きですね。
小学生でボカロにハマってた頃くらいからインターネットをずっと使ってて、結構オタク趣味だなって自分で思うんですけど。
──ネット上で人とつながったりは?
インターネットは、あまり交流の目的では使わないですね。好きなコンテンツを作ってくれる好きな方々を応援するためのツールとして使っています。
話したい。
──お友達とは趣味の話はしない?
遥さん 相手の趣味の話を聞くのとかは結構好きなんですけど、私が自分の趣味の話をすると、多分オタクだからだと思うんですけど(笑)、すごい早口でペラペラしゃべっちゃうんですよ。すんごいめんどくさい人になっちゃうと思うし気持ち悪がられたくないから、個人的な話は全然しないで、人の話を聞いてますね。
話すこと自体は全然嫌いじゃなくて、本当は話したいことがいっぱいあるんですけど、それを話せるまでの関係性に持っていけないというか。いきなりそんなに仲良くないのに自分のことベラベラ話し出したら気持ち悪いじゃないですか(笑)。
──世間にはそういう人もたくさんいるんですけどね(笑)。
遥さん どう思われるかなんて全然気にしなくなれれば楽なんだろうなと思いますが、性格上無理なんで…。
小学生の時はどうやって人と仲良くなってたのかなと思いますね。席が隣だったり、使ってる鉛筆が同じだったりくらいでベラベラ話してた時期なんで、そんな風に何も考えずにちゃんと人と話したいなーって思いますね。今後の課題ですね。
──遥さんが話せるってことは私はわかりましたね。私はお話を聞いていて楽しかったから、しゃべったら仲良くなれる人はたくさんいるんだろうなと思いますね。
遥さん 本当は友達にも自分のことを話したいんですよね。自分のこともちゃんと話せるように、めんどくさがりやなのも直したいです。
たまに誘ってもらって、学校外で課題をやるためにマクドで会ったりとか、そういうのは結構楽しいです。もっといろいろ遊びたかったりするんですけど、いやでも私以外にこの子たちには友達いるよなーと思うとなかなか誘えない。本当に気軽に遊べるようになるまで、人間関係続けたいですね。
(終わり)
昔感じた胸の痛みを思い出しました。黙って見ていた同級生の背中、自分へのもどかしさ。私はあれからいろんなことを選んだり捨てたりして、そして今ぼちぼち生きています。お話しいただきありがとうございました。
お読みいただきありがとうございました!次回のインタビューもどうぞお楽しみに!