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語学検定試験受験の本当の目的 無駄なレベルなんてない、の話。

¡Hola!
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。インタースペイン取締役&大学非常勤講師&UNED博士課程大学院生の髙木です。前回は、私のお恥ずかしいスペイン語学習の歴史、【スペイン語習得にはそれなりに時間がかかる】記事を読んでいただき誠にありがとうございました。

さて、弊社はDELE試験対策問題集の日本版を出版しております。先日、問題集をお買い上げくださった皆様と口頭試験の練習を目的としたオンライン勉強会を行いました。「普段ネイティブの先生との会話でなんとなくわかっているようなわかっていないような点が明確になってよかったです!」という狙い通りの(笑)感想をいただきました。

さて、そのDELE試験ですが「現在形だけで受かるA1 や過去形だけしかでてこないA2レベルなら持っていても意味がない」のでしょうか?という相談を学生や書店のお客様からしばしば受けるのです。うーん、そもそも言語学習において検定試験ってなんなのだろうか?という問いを一度しっかりたてて考えてみてもいいかなと思いました。そこで、まず初学者にとっての検定試験受験の目的とDELE試験のA2レベルがスペインではどう位置づけられているかを書いてみたいと思います。「実はA2レベルってすごいんだ!」ということを大きな視点で理解していただき、さらに、この記事が、検定試験ってなんのために受けるんだろうか、という問いに対する自分なりの意味づけを考えるきっかけになったらいいなと願います。


言語学習者の3つの定義

さきほどのような相談には、「自分の学習到達度をモニターするために試験をうまく利用して!A1でもA2でもチャレンジしてみることに決して無駄ではない」と説明しています。検定試験は学習を進めていくうえで、スペイン語がどの程度できるようになったのかを客観的に把握するための指標になります。よって、レベルに関係なく試験を活用することは aprendiente autónomo (自律的な学習者)としてはとても良い学習方略だと捉えられています。

その根拠はどこからくるのかというとそれは スペイン語の指導参照要項である Plan curricular del Instituto Cervantes (PCIC)で定義されている「スペイン語学習者の3つの姿」からくると筆者は考えています。少し内容を覗いてみましょう。(なお以降、引用部分の日本語は筆者の意訳です)
(1) la dimensión de agente social (社会的な存在)
(2) la dimensión de hablante intercultural (異文化間をつなぐ話者)
(3) la dimensión de aprendiente autónomo (自律的な学習者)

つまり、スペイン語を学ぶ私たちは、動詞活用を機械的に覚えるとか、なんとなく教え方が自分にあわない先生でもがまんする(笑)とか、質問したいんだけどこんなこと質問すると先生に怒られそうでできない(笑)など、そんな受け身な存在ではく、社会とつながり、自分の母語も大切にしつつ、自分の学習を自分で計画していく主体的な存在であると理解できるのではないでしょうか。

スペイン語教育修士課程の初日のクラスでこの定義を知ったときにわたしは「これだよ!」と膝を打つ感覚を得てときめきました!これをクラスでも学生たちに伝えていこう!と思いました。伝わっているかな(笑)

自分の学習は自分でコントロール!

さて、さきほどの「スペイン語学習者の3つの姿」のうち検定試験は(3)の自律的な学習者と密に関連しているといえるでしょう。その定義を読んでみましょう。
- La dimensión de aprendiente autónomo, que ha de hacerse gradualmente responsable de su propio proceso de aprendizaje, con autonomía suficiente para continuar avanzando en su conocimiento de la lengua más allá del propio currículo.
- 自律的な学習者は自らの学習プロセスについてすこしづつ責任を持っていくことが必要です。与えられたカリキュラムを超えて自分の知識を深めていく主体的なオートノミー(自分の学習プロセスを責任を持って計画しモニターすること)が求められます。

PCICの中には学習プロセス procedimiento de aprendizaje についてもレベル別に章がたてられています。そのイントロダクションで触れられている自律的な学習者が自分で行うべき学習プロセスの一部も少し読んでおきましょうか。
- a la hora de planear, monitorizar y evaluar su proceso de aprendizaje en sentido amplio (formulación de metas y objetivos, autoevaluación, gestión de recursos, materiales, fuentes de consulta, cooperación eficaz, etc.).
- 学習のプラニング、モニタリング、幅広い意味での学習の評価
その評価の中には、目的目標の設定、自己評価、学習のための教材やツール、リソースの整備、学習の協力相手を得ることなど。

こうやって読んでいくと、そもそも語学の検定試験ってなんのためにあるのか?自分はなぜそれを受けるのか?の問いの答えが深まってくるのではないでしょうか。

¿La nacionalidad española? スペイン国籍取得できるの?

さて、DELE試験は「MCER(CEFR)」というヨーロッパ言語共通参照枠に準拠した試験であること。スペイン語で何ができるのかがポイントになる試験です。もし、わたしたちが、スペインで長期間安定して職を得て暮らしたいと考えた場合で、かつ、外国人としてではなくスペイン国籍を取得したい場合、様々な書類審査を経る必要がありますが、前提として2つの公的な試験を受け合格する必要があります。
その2つの試験がDELE試験とCCSE試験です。
DELE試験は、Diploma de español como lengua extranjera 
CCSE試験は、La Prueba de conocimientos constitucionales y socioculturales de Españaです。
つまり、DELE試験は重要な位置づけにおかれている試験なんです。

実はすごいA2レベル!国籍取得申請要件

スペインの国籍取得申請にむけて、合格しなくてはならない1つ目の試験が、スペイン語の運用能力を試すDELE試験です。
はいそうです。日本でもスペイン語学習者が受験するのと同じDELE試験です。スペイン国籍を申請する人もDELE試験を受けて合格する必要があるんですね。スペインに定住をめざす人が、日常生活を円滑にできるレベルのスペイン語力を持っているかどうか。それを証明しなければならない。そこで登場するのがDELE試験のA2レベルなのです。

A2レベルのスペイン語でできることはたくさんある!

イントロダクションでふれたように「B1やB2レベルでないと意味がないと言われた」とか、「A2レベルだと接続法も出てこないのであまり役に経ちませんよね?」というご相談を受けることがあります。でもそもそも言語能力において意味がないレベルなんてあるんでしょうか

そこで、改めてA2レベルでできることをじっくり考えてみましょう。日本語で読んだことがある方も多いかと思いますが、スペイン語も少し読み込んでいきましょう。

(1) 日常の身近な場面で頻度の高い表現を理解できる・使える
comprender y utilizar expresiones cotidianas de uso frecuente

  • comprender y utilizar expresiones cotidianas de uso frecuente, relacionadas casi siempre con áreas de experiencia que le sean especialmente relevantes por su inmediatez (información básica sobre sí mismo y sobre su familia, compras y lugares de interés, ocupaciones, etc.); 
    まずは、自分や家族についての基本的な情報や、日常生活においての身近な場面、たとえば、買い物などで使うやりとりができる。私たちが毎日の生活をおくる上で重要なコミュニケーションですよね。

(2)身近な話題についての簡単なやりとりや過去の経験について話せる realizar intercambios comunicativos sencillos y directos / describir sobre su pasado 

  • realizar intercambios comunicativos sencillos y directos sobre aspectos conocidos o habituales y para describir en términos sencillos aspectos de su pasado y de su entorno; y

  • 次も、身近な話題について平易な表現でやりとりできることと、さらに、自分の過去の経験について簡単な表現でいいので伝えることができる。ここで「過去 pasado」というキーワードがでてきました。この表現をするために、動詞の過去形の活用や、ayer, hace un año, en 2000, などの時を表す表現を覚える必要性がでてくるわけです。つまり動詞の活用は、コミュニケーションの目的を達成するためのひとつの手段なのです。

(3)日常生活において身の回りで生じる必要を満たすためコミュニケーションができる
para satisfacer cuestiones relacionadas con sus necesidades inmediatas.

  • para satisfacer cuestiones relacionadas con sus necesidades inmediatas.
    (1) (2) と同じように、自分が生活する上での基本に必要なことがらについてやりとりができるってことですから、たとえば、語学学校や大学に入学して時間割やクラスの場所を確認する、とか、生活に密着したことをスペイン語でやり取りできることが必要なことなのですね。satisfacer nececidades つまり、必要なことを満たすことができるということなので、¿Puede dejarme un bolígrafo? 「ボールペン貸していただけますか?」と聞いて「書くための道具が必要だ」という場面でそれを満たすことができるっていうレベルですよね。これも生きていくうえで大事なコミュニケーションです。

上の (1) ~ (3) にあるようなA2レベルでできることを練習できる問題集もあります。以下リンクから目次(índice)がご覧いただけますが、この問題集で扱う内容がまさにA2レベルで必要なコミュニケーションなんです。
(ちなみにDELE A2を受ける前に、出題範囲をおさらいするイメージで使うのがおすすめです)

日常会話ができる、は意味がある

今まで見てきたように、DELE試験のA2レベルがスペイン国籍取得申請のための要件になっているということは、まずは、日常生活を円滑にいとなめる最低限のコミュニケーションがスペイン語でできれば事足りるってことだと解釈することができると思うんです。
このようなコミュニケーションがとれる言語能力のレベルはとっても意味があることだと思いませんか?

INE (Instituto Nacional de Estadística) のデータによると2022年に新たにスペイン国籍を取得した人は181,581人。対前年比で26.1%も増加したとのこと。

Nacionalidades de origen más frecuentes. Año 2022 
出典INE Estadística de Adquisiciones de Nacionalidad Española de Residentes 2022

Durante el año 2022 un total de 181.581 extranjeros residentes en España adquirió la nacionalidad española. Esta cifra supuso un aumento del 26,1% respecto al año anterior. 

上位3カ国の内訳としては、モロッコ出身の方々が一番多いんですね。コロンビア、エクアドルとスペイン語圏が続きます。
Las nacionalidades de origen más frecuentes fueron Marruecos (55.463), Colombia (11.125) y Ecuador (10.845)

出典LINK (データは2023年度にアップデートされています)
https://www.ine.es/dyngs/INEbase/es/operacion.htm?c=Estadistica_C&cid=1254736177001&menu=ultiDatos&idp=1254735573002

いろいろな事情で自分が生まれた国に住み続けることができない。次世代により良い生活をさせてあげたいという希望を抱えてスペインへ移住する人たち。そんな人達が新しい生活を始めるために「スペイン語できます」といえる証明になるDELE試験のA2レベル。
日本で(趣味で?単位のため?)スペイン語を学んでいるわれわれが「A2レベルなんて低くて意味がない」なんて決めつけてしまうことはできないのではないかと思いました。

なぜなら、もし自分が何らかの事情で自国を離れてどこか別の国で人生をはじめることになったらその国の言語でまずは日常生活の最低限を満たすコミュニケーションができればそれで十分。ですよね。それは十分に意味のあることだと思いませんか。

自分はなんのために試験を受けるのか

言語学習に限らずいろいろな種類の検定試験がありますが結局は「なんのために受けるのか」、さらにそれをどのように毎日の学習に役立てるかが大切なのでしょう。お仕事の都合で資格が必要だ、とか、このレベルに合格しないと留学できないなどの「道具的な動機づけ」で受ける場合は、他者に証明する必要がありますから決められたレベル以上のものに合格しなくてはなりません。
でも、最初にお話したように、主体的な学習者として、自分の学習進度をモニタリングするための目標設定として試験をうけるのであればA1やA2のいわゆる初級レベルの試験でも十分学習に意味のあることだと考えます。言語学習は長い道のりなのでゴールポストを短期に設定しておき小さな成功をつみかさねることも大切なことでしょう。この記事を書くにあたりさらに DELE試験のA2レベルのことを深く知ることができたので私自身もこの思いは強くなりました。

最後に。ところでスペインの国籍申請のためには、もうひとつCCSE試験という試験があるのです。どんな試験なのかちょっと気になりませんか?またこのお話は次回に!最後までお読みいただきありがとうございました。Muchas gracias. 

参考資料
Examenes
https://examenes.cervantes.es/es/presentacion/nacionalidad

Procedimientos de aprendizaje. Introducción
https://cvc.cervantes.es/ensenanza/biblioteca_ele/plan_curricular/niveles/13_procedimientos_aprendizaje_introduccion.htm


以下、A2レベルのDELE対策問題集を載せておきます。

▼模擬試験を6回分収録した対策問題。作文のモデル解答や口頭試験の再現音声付きです。

▼DELE A1-A2に頻出の単語を優先してピックアップした単語帳。(効率よくDELEの単語を覚えたい方におすすめ)

▼(A2レベルではないですが)
数量表現やグラフの読み取り方、プント、コンマなどの記号の使い方を学び正しくスペイン語を書くことに特化した問題集もあります。中級レベルの方におすすめ。特にB2レベルは作文の問題でグラフがありますよね。