企業に寄り添い、個別の採用課題を解決するパートナー的存在
企業のタレントアクイジションを日本に普及させる一環として、さまざまなタレントアクイジションマネージャー(以下、TAマネージャー)を紹介していく連載企画。今回は、採用難易度の極めて高い、ハイスペックエンジニアを採用する大手メーカーから、スタートアップ企業まで、幅広いリクルーティングを支援している山本 皇貴さんに、どのようなキャリアを築き、どのような矜持を持って、今企業や求職者とどのように向き合っているのか。プロフェッショナルに必要なことや、これから目指したい採用領域での役割について伺いました。
今の時代だからこそ必要な手仕事。そこで積み上げた信頼が自信とやりがいになる
──転職エージェント業界の成長性に魅力を感じ、ゲーム会社からリクルートエイブリック(現リクルート)に入社されたと伺っています。リクルート入社後も、さまざまなキャリアを経験されてきましたが、その後、ブティック型転職エージェントへ。どういった理由があったのでしょうか?
まずリクルートエイブリック(現 リクルート)に入社してからは、製造業のエンジニア向けのキャリアアドバイザーを経験した後、大手向けの営業を6年間担当。それからRPOや関連会社などさまざまな事業部をマネージャーとして歴任して、キャリアを築いてきました。
30代の頃は会社からの要望に真摯に取り組んできました。しかし次第に「自分の人生、果たしてこれでいいのか」と考え始めて、40歳を迎えたのを機に、ブティック型の転職エージェントへ移り、RA(リクルーティングアドバイザー)とCA(キャリアアドバイザー)を一人で担う両面型営業をやることにしたのです。この営業は、手作業で案件を決めていくので、リクルートの時のように業務をシステム化(仕組み化)していく時代の流れとは逆行するアナログな仕事でした。
当時、自分なりに考えていたのは、このようなアナログな業務(手仕事)もまだまだ伸びるだろうということ。例えば、10年前はAIエンジニアの求人が出始めの頃で、「AIならさまざまなことが自動化できるからいいよね」と周りの人たちは言っていたのですが、当時はAIを開発する経験者が日本には全くいなかったのです。そんな状況だったので、それこそAIなどに「どういう人なら、未経験でもAIエンジニアになれるのか?」と尋ねてみても、AIは過去のパターンからマッチングを行う仕組みなので、こちらが求めるような解を導き出すことができない状況でした。
こうした状況は、今では随分変わったかもしれませんが、今後も、従来では見たことも、聞いたこともない求人(職種)が出てきます。そうなると、AIのような帰納法的なマッチングではなく、さまざまな職種や事例から共通点を紐解き、推論していくような演繹法的なアプローチの方が「最適解」が得られるだろうと考え、手仕事の領域にあえて飛び込みました。
しかし、最初はうまくいきませんでした。一番衝撃だったのは、上司に「大事なお客さまだから、提案書を作って持っていってくれ」と言われて、訪問して提案書を見せても、全く読んでもらえなかったことです。リクルートでは考えられなかったことで、いかに自分がリクルートの看板に頼って仕事をしていたのかを思い知らされました。
そこから、このお客さまの課題を考え、競合に勝てる強みがどこにあるのか、1社1社と本音で向き合い、取り組んでいった時に、1人決定、2人決定と少しずつ信頼を勝ち取れるようになってきました。そして、企業側と対等な立場で対話できるようになったのです。最初は辛かったですが、少しずつ手応えを感じるようになり、仕事も楽しくなりました。
仕組みを考えることと、自分で手を動かせること。この2つを持っていることが大きな強み
──でも、そこから独立して、リクルーティングギークスという会社を立ち上げられます。そこに至った背景とは、何だったのでしょうか?
ブティック型の転職エージェントでは、皆さん熱意があり、丁寧に仕事ができるので、とても満足していました。
一方で私自身、リクルートで仕組み化(システム化)にも触れてきましたし、ブティック型のエージェントでは自分の手を動かすことも学んだので、その両方ができる強みを活かしてみたいと考えたのが、独立した理由です。
「一隅を照らす」その言葉のもと、さまざまな人の立場を理解して、謙虚に仕事へ向き合うようになった
──現在は、リクルーターやRPOコンサルタント、TAマネージャーとして活躍されていますが、独立して自分自身に変化はありましたか?
天台宗の開祖、最澄の教えでもある「一隅を照らす」という言葉。これは、一人ひとりが自分の置かれた場所で、本来の役割を担い、それが積み重ねることで世の中が良い方向へ向いていくという意味です。
独立してからは、この言葉を大切にして、仕事を行うようになりました。自分が得意な隅を照らせる存在になって、さまざまなお客さまの役に立ちたい。それが自分のやりがいにもなってくる。そう思えるようになったのです。それによって、人事担当者や経営層、そして候補者など、さまざまな人たちの気持ちが理解できるようになってきました。サラリーマン時代よりも謙虚になってきたように思います。
また両面型営業を経験したおかげで、お客さまに提供できることが確実に増えました。私たちの仕事は、寿司職人と非常に似ています。寿司を数多く握っていけば、寿司の大きさも変わらず提供できますし、美味しさのクオリティも高いものを提供できると聞きます。私たちも同じで、求人票を書いた枚数や求職者と面談した数で、その実力は決まります。結局、人材紹介を決めてきたリアリティこそが、外に出た時にはそれが財産になってくる。そのことも痛感するようになりました。
採用領域にはいつまでも白地があり、挑戦し続けられる面白さがある
──ゲーム会社から転職して、採用(人材紹介)の世界に飛び込まれたわけですが、なぜ「採用のプロとして極めよう」と考えるまでにいたったのでしょうか?
やってるうちに、ハマってしまったというのが率直な感想です。 採用領域というのは、人口動態や、IT技術の進歩、そしてビジネスモデルの進化によって、どんどんキャンパスが変化していきます。ある意味で、いつまでも白地がある完成しない絵のような領域です。
真面目に向き合っていれば、やることはいくらでも出てきます。私だと、まだ着手できていないハイキャリアの領域があれば、新卒採用や海外人材採用などもあります。覚えなければいけないことは山ほどあるのですが、塗り方や、パフォーマンスの方法は自分で自由に組み立てられるので、非常に面白い領域だと思いますね。
一つひとつの仕事を丁寧に行い、お客様に貢献することが自分の軸に
──その中でも、採用のプロ(TAマネージャー)として軸に据えていることは、何ですか?
大きく2つあります。1つ目は、一つひとつの仕事をきっちりと詰めてやることです。お客さま(企業)の求人要件を聞いて、それを求人票にしっかりと表現し、求職者とじっくり面談することが、私の仕事のすべてのベースと思っているので、そこは妥協せずに、こだわってやっている点です。
なぜかというと、2つ目にもつながるのですが、未来に対してこうやっていきたいというお客さまの夢の話を、しっかりと受け止めて求人票などに表現したいという思いが強いからです。
お客さまがどういうビジョンを描いていて、今後どのような事業を展開していきたいのかをしっかりとヒアリングしながら、今の求人相場と照らし合わせます。求める人材がどの程度存在し、競合と比較し、強みはどこになるのか。それらの情報を踏まえた表現にこだわり、求人票1枚1枚を仕上げていく。採用の精度を高めていくプロセスは、プロとして絶対に妥協したくないところです。
2つ目は、お客さまの事業に対して貢献することです。昔は「(人材紹介を)決めればいい」。それだけを考えていました。今は、オンボーディングや採用者の配属先の状況まで意識して採用支援を行うようになり、それによって自分自身の視野も広がってきました。
やったことに対しての反応がすぐ分かるため、成果から逃げられない。そういったライブ感のある仕事は緊張感がありますが、自分に合っていると、最近思えるようになってきました。
チームの一員になるためにも、お客さまが「安心できる」「相談しやすい」接遇を意識する
──その他に、プロとして意識していることはありますか?
私たちプロのTAマネージャーの役割は、採用を通じてお客さまの課題を解決することです。それに加えて、接遇面も大事にすることです。社外の人間ではあるものの、企業のチームの一員としてやっていくためには、お客さまが、この人なら「安心できる」「相談しやすい」と思ってもらえる心地よさというのが不可欠だと思います。それゆえ、どのような時でも、意識するようにしています。
TAマネージャーは私にとって「天職」、企業にとってはいつでも寄り添ってもらえる存在
──改めて、山本さんにとってTAマネージャーとは何でしょうか?
自分にとっては「天職」であり、企業にとっては、採用のことなら何でも相談できる、寄り添ってもらえるパートナー的存在だと思います。企業にとっては、いくら良いパッケージサービスでも、企業それぞれ特有のカルチャーやルールがあり、フィットしないことが少なくありません。組織の矛盾や、現場と人事との摩擦などを理解した上で、人事部の立場になって、一緒に採用課題を解決し、経営や現場と繋げていく支援を行うことが、TAマネージャーには、今後必要になってくると思います。
私自身も企業のさまざまな個別性を理解して、対応し、人材獲得競争が激化するなかでも、企業が成長できるように、より企業や求職者に深く関わって、一人でも多くベストマッチングをつくっていきたいと考えています。
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