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猫による猫のための家乗っ取りマニュアル〜『猫語の教科書』〜【2月猫本チャレンジ9】
今日は、ポール・ギャリコ作『猫語の教科書』。
いや、これは正しくないかもしれません。この原稿を書いたのは、猫なのですから。
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帯にある通り、「猫による人間のしつけ方」が書いてある本なのです。人間の作者ポール・ギャリコは『ジェニィ』や『トマシーナ』など猫ファンタジーものを書いた作家です。本人もそうとうな猫好きだったそうです。その猫好き作家のもとに友人の編集者から持ち込まれた奇っ怪な原稿、それが本書である、とまえがきにあります。
この本の真の著者(?)であるメス猫は母猫を交通事故で亡くしてしばらく苦しい生活をした後、こう思ったのです。
私はどこかの人間の家を乗っ取って、飼い猫になろうと決心しました。そしてその決心をそくざに行動に移したのです。
つまり、よりよい生活を目指して人間の家に入り込み、さらにその家の人間を思い通りにあやつる手段についてこの猫は書いた、ということです。仲間うちに話して聞かせるとひどく感心して、ぜひ書きとめておくようにとすすめられ、特にこれから人生ならぬ猫生を始める子猫たちのために教科書として作ったとあります。
そう話を聞いても、「猫がどうやって教科書を書くんだ?」とか「そもそも子猫が字を読めるのか?」という疑問が浮かびますよね? でも第1章に入る前のまえがきの部分にタイプライターをポチンポチンとやっている猫の写真があるのです。こうやって文字を打ったというのですね。
しかもその文字は暗号かと思うほどに誤字だらけでした。それもそのはず、猫の前足はタイプライターのキーより大きいですからね。打ち間違いもあるでしょう。
と、まあ、こんな調子で猫による人間の家乗っ取りマニュアルは続いていきます。これがねぇ、なんとも用意周到に仕組まれていること、感心です。入り込みたい家で夫は強固に反対して、妻はいいじゃないと言っているところでの様子ですが、車で出かけるところで夫が猫を見ます。
車を出す直前に、チラリとふりむいて、ひとりぼっちで座り込んでいる私を見ました。私はまんぞくでした。これで彼は「哀れな子猫」のことを思い出しては、一日中、イヤな気分ですごすことでしょう。
うわぁ、なんてやり手なんでしょう!
そうやってこの猫はまんまとこの家にもぐりこんだのです。
この話はまえがきやあとがきを除いて、この「猫」の視点から書かれています。猫の気持ちになって描写するのですから、猫の行動を逐一理解していることは当然です。でも猫は人の家を乗っ取って自在にあやつるために人間をじっくり観察した上で行動しているんですよね。そう、つまり、人間に対する観察ならびに洞察もずば抜けている、読んでいてそう思いました。
物を書くということは、じっくりと周りを観察することから始まる、と思います。どんな壮大なファンタジーでもその中の描写が実際の私たちの何かを反映していてこそ、共感して没入するものでしょう。一流の書き手とはかくあるものか、と感心した次第です。
もちろん、ポール・ギャリコの猫好き度合いが突き抜けているのも大きいのでしょうけれど。私も猫好きを自称していますが、彼に敵うとはとうてい思えません。脱帽です。
さて、この本を読んだ猫好き諸氏はどう感じるのでしょうか? この狡猾な生き物め、となるか、それともそれでもかわいいウチの猫、でしょうか? わが家の五匹の猫たちがこの本を読めたら、もっとあざとい行動に出るのか、試したい気もしますが、すでに手遅れな感じもするので、やめておきましょう。
本書には続編というか姉妹編のような『猫語のノート』という本もあります。
これ、私も知らなくって……そのうち取り寄せて読んでみようと思います。
あ、巻末に『綿の国星』を描いた漫画家大島弓子のショートマンガも載ってます。ちび猫ファンの方も是非ご一読くださいませ。
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