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りゅうのボリスに会いに行く
子どもの頃の愛読書は多々あれど、私の場合やはり、筆頭であげる本といえば『エルマーのぼうけん』シリーズでしょう。なんせ自分はもう中学生だったというのに、6歳下のいとこにおさがりで渡すのを断固拒否したほどでしたから。
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私の器量の狭さはともかく、本当に大好きな話でした。いえ、今でも好きですけどね。
その「エルマーのぼうけん展」が福岡で開催中。
行ったら最後グッズを買いまくるに違いない。子ども向けであろうイベントに大人が行かなくても……と思っていたのだけど、やはりぬいぐるみのクオリティが高すぎる、もとい、日本で初めての展覧会ということで行ってまいりました。
『エルマーのほうけん』ってどんなお話?
この『エルマーのぼうけん』シリーズは三部作で完結する物語です。『エルマーのぼうけん』で囚われのりゅうの子を助け、続く『エルマーとりゅう』で帰る途中に立ち寄ったカナリア島でカナリア一族の困りごとを解決し、最後の『エルマーと16ぴきのりゅう』では危機にあるりゅうの一族を救うのです。もうセリフを覚えるほどに読み込んでいました。
作者のルース・スタイルズ・ガネットさんはアメリカの方です。だけど「りゅう」の絵は西洋的な禍々しいドラゴンのイメージじゃなくて、なんとも愛嬌のある丸みを帯びた顔立ちなのです。
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おまけにちゃんと耳があって、しかもそれが垂れ耳! スコティッシュフォールドの流行よりずっとずっと前ですよ?
2作目まではただ「りゅう」と呼ばれていましたが、実はこの青と黄色のしましま模様のりゅうの子、名前をボリスと言うのです。
余談ですが、3作目でりゅうの住むそらいろこうげんが出てきます。で、その周りの砂漠が「ごびごびさばく」と書いてあるのですよ。だから私はりゅうはチベット奥地の「ゴビ砂漠」のどこかに住んでいるのだ、と思い込んでいました。
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でも英語版では、"awful desert"となっています。
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ただの「危険な砂漠」ぐらいの意味でしょうか? チベット奥地はまったく関係ないようですね。こうやって改めて英語版の読み比べてみると、翻訳した渡辺茂男さんの翻訳がいかに秀逸なものか分かります。
2年前に天狼院書店で、英語版の『エルマーのほうけん』を読もうという読書会をやりました。英語版では1作目のタイトルは、"My Father's Dragon"となっています。覚えていますか? 『エルマーのぼうけん』の冒頭は、「ぼくのおとうさんのエルマーが」で始まるんです。
読み比べてみるのも面白いですよ。
そもそも子ども向けの本ですから、難解な単語は使われていません。試してみてくださいね。
原画がいっぱいの展覧会
そして、いざ会場へ!
なんといっても大好きな絵本の挿絵が目の前にあるのはとてつもない感動でした。もうそれだけで涙出そう……しかもりゅうのことを教えてくれたのは、探検家だった老いた猫でした。
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会場には『エルマーのぼうけん』で出てきた「ぴょんぴょこ岩」らしきものが設置されていました。みかん島からりゅうが囚われているどうぶつ島へ渡る唯一のルートの飛び石です。ニクい演出ですねぇ。
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色を塗った表紙の見本もありました。何やら指示が書き込んであります。
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これは挿絵を描いた義母のルース・クリスマン・ガネットにりゅうの動きを説明するために作ったお手製のぬいぐるみだそうです。大中小のうち、中と小が展示されていました。おまけにエルマーまで一緒にいました。
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展示の終わる最後の空間には、ぼうけん絵本や本が並んでいました。
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いろいろな分野のいろいろな国の本です。絵本もあり、他の本もあり、と盛りだくさんでした。
アジアのどうぶつ絵本
言い忘れましたが、ここは福岡にあるアジア美術館です。なので、「アジアの絵本」とか「アジアのどうぶつ絵本」というコーナーもありました。ついつい、手に取って読んでしまうのは、やはりネコ科の動物が出てくる話です。
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これはインドの絵本です。ライオンが食ってやるぞ、がおーっと行くのですが、そのたびにニワトリやらロバやらの動物が「私を食べるならあの調味料が要る」とかいってのらりくらりとライオンをかわして最後は村人にとっちめられるというお話。絵がいいですよね。
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これはスリランカのお話です。娯楽のないねこのくにに踊りと歌をもたらした仮面のおきゃくさま達。さあ、仮面を取ったら一体何の動物だったでしょうか?
エルマーとボリスが教えてくれたこと
実のところ、「お話を読んで諦めないことを学びました」とかっていうのはとても野暮ったいことだと私は思っています。言葉にするとそういうこともあるかもしれない。エルマーがライオンやトラ、ゴリラを出し抜くところは確かに勇気ってものを学べるのかもしれません。
でも物語から受け取るものは人それぞれ。言葉にならないけど、何かあたたかい気持ちが自分の中に残っている。老いた猫を追い出すエルマーのおかあさんに腹を立て、ボリスが人目に触れるのも構わずエルマーに助けを求めてやってくるところにハラハラして、そうやって一喜一憂しながらページをめくった思い出が今では自分の大切な宝物です。
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泣ける……泣けるよ、このシーンは。
改めて思います。『エルマーのぼうけん』シリーズは間違いなく世界の名作ですね。
作者のルース・スタイルズ・ガネットさんは、つい最近の6月に100歳で亡くなられました。ご冥福をお祈りすると同時にお礼も言いたいです。こんな素晴らしい物語を読ませてくれてありがとうございます。
そして、今回の戦利品は
さて。
結局、最後にはグッズを買って帰ることになるのです。
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まずは、展覧会の公式図録です。ハードカバーの質感のよい表紙、そして挿絵はふたりの別れのシーン。これを買わずに帰ることは不可能です。
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それとA3のミニポスター。
図録と同じく別れのシーンです。部屋に仮で貼っていますが、なにか手頃な額を買ってこなくては。お値段も安いのであれもこれも、と欲しくなりましたが、そこはグッと我慢。だって額装するならひとつとっておきがあればいいですしね。
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最後に、やっぱり買わずにいられなかったボリスのぬいぐるみです。腕は回転させることができます。この鮮やかなしましまが仕事中も癒やしになっています。
『エルマーのぼうけん』展、特にどこにも行かなかった夏休みの最後の思い出となりました。また原書と日本語を比べる読書会、やりたいなぁ。本当に訳が素晴らしいんですよ。
とりあえず、原書をまた読み返してみるとします。
先日までやってた夏休み新書チャレンジをまとめたマガジンは、コチラ↓↓↓