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英語学習のアルテマウェポン

 いつもオススメしてる『英語のハノン』ですが、先週満を持して上級もめでたく発売されました! わ〜、パチパチパチ

 天狼院書店のライティングゼミでそのすごさについて書いたので、こっちに掲載しちゃいます。書店の方では表記的なミスのせいで掲載できなかったもので……😓

 では以下、どうぞ!

  『英語のハノン』という英語学習本がある。世の中に出たのは最初に世に出た初級編でも2021年4月発売、と比較的新しいものだが、これがすごい。実にすごい。どのくらいすごいかというと味方のパーティーが一撃で葬り去られるほどの究極兵器、アルテマウェポンぐらいすごい。これほど強力な効果を持ちながら、装丁がまたシブい。さすが筑摩書房としかいいようがないほどだ。この究極ぶりを是非とも説明させて欲しい。

 英語をやり直したい、英語が話せるようになりたいという大人が書店の英語学習本コーナーに行くと、その数の多さにきっと立ちすくむことだろう。私は同時通訳者として長年仕事をしてきているが、英語コーチを副業で始めて久しぶりに書店の英語コーナーに立ち寄ったら、数と種類の多さに大変ビックリした。これではきっとどれを選べばよいか分からないに違いない、そう思った。

 そういう「英語やり直し組」の大人はきっと仕事でTOEICのスコアを上げる必要があったり、自分の会社が外資に買収されたり、いきなり取引先が海外になったり、と様々な理由で英語やらなくちゃ、と痛感してまずは書店に来るのだろう、と思う。

 そうなるとおそらく目に入るのは、「3週間で中学の文法が分かる」とか「英語は〇〇だけで話せる」とか、はたまた「英語を話すには文法は要らない」など、そういったタイトルに目を奪われるのではないだろうか。今、本当にいろんな本があり、自分に合ったレベルのものを選ぶのがとても大変だ。

 そこで『英語のハノン』の登場だ。

なんせアルテマウェポンなので、対応できるレベルが実に広い。英語初級者から上級、超上級まで、つまり英語やり直し組の大人でも、私のように英語のプロとして活動する者でもレベルに応じて活用の仕方があるのがこの『英語のハノン』なのだ。

 まず、いわゆる英文法の出てくる順番が通常の英文法書と違っている。よくあるのが、1) be動詞(ここでbeって何だよ、beって! とキレる初学者が続出する)、2) 一般動詞、3) 疑問文、4) 助動詞、5) 過去形、、、という感じであとは比較、不定詞、進行形などそれぞれ進んでいく感じが多いかと思う。最初の辺りで英語5文型(SVOとかSVOOとかいうヤツ)から始めているものも多いだろう。

 『英語のハノン』ではそうではない。5文型ならびに受動態、不定詞、動名詞、分詞、接続詞、関係詞など英文の基本構造に関わるものを英文法の「縦軸」とし、それに「縦軸」を横断する「横軸」として時制、否定・疑問文、助動詞、比較、仮定法を組み合わせる形を取っているのだ。

 これはどういうことか? 英語の5文型と時制を例にとって説明すると、第1文型のSVつまり、主語と動詞だけで成立する文の形に現在形、過去形、未来形を組み合わせて学習することになる。例えば、I go to school.が、I went to school.になったり、I will go to school.になったりする、というのを同じタイミングで練習する、ということだ。

 このように英文法を「縦軸」と「横軸」に分けて自然に文例を覚えることができるので、文法をすんなりと理解しやすい。

 さらに『ハノン』の真骨頂は例文を口に出して発話することが大前提になっているところだ。中高6年間英語を勉強してきた日本人がなぜ英語が話せないのか? それは「話す練習をしていないから」、そのひと言に尽きる。テニスでボールが打てるようになるには素振りだけでは無理だし、学芸会で主役を演じるには台本を目で読むだけではできない。実際に口に出してパターンとして染みこませなければ決して話せるようにはならないのだ。

 しかも『ハノン』では単純に例文を音声に続いて繰り返すだけではない。出てきた例文を疑問形にしたり、受動態にしたり、関係詞を使って言い換えたりするような指示が出る。学習者は指示の通りに、しかも非常にギリギリの秒数しか空いてないポーズの間に口に出して文を言い終わらなければならない。間に合うかどうか実にスリリングなプレッシャーまでかけられてしまう。どのぐらいシビアかと言えば、プロの同時通訳者である私でも一瞬迷うと初級でも間に合わなくなってしまうほどだ。

 焦って繰り返し、間に合わずにやり直し、と試行錯誤しているうちに英文法がただ分かる、という受動的知識から、自信を持ってしかも意識せずに口から流れる能動的知識として運用可能になる、それが『ハノン』が究極兵器たる所以だと私は思っている。英文法がすんなり身につき、しかも口から自動で言葉が出るようにまで知識の定着をはかることができる、こんな素晴らしい教材は私もついぞお目にかかったことがない。私が高校生のときに『ハノン』があったなら、ボロボロになるまで使い込みたかった理想の学習本だ。

 もちろん『ハノン』にも弱点はある。

 収録音声がアメリカ英語だけな点がまずひとつ。でも今や一般的に使われる英語がアメリカ発音のものが多いことを考えるとたいした弱点ではないだろう。そしてもうひとつが、正真正銘の初心者には初級でも敷居が高い点だ。そもそもハノンの初級は易しくなどまったくない。5文型、何それ美味しいの? というほど英語を忘れ去っている、もしくは元々逃げ切った方には最初からハノンのトレーニングは少し厳しいと思う。まずはもっと簡単な市販の会話本などでほぐしてから進めた方がいいだろう。NHKの語学講座などレベルに合ったものでまずは楽しく英語に親しむのもよいアイディアだ。

 しかしそういう些末な点は置いても、『英語のハノン』は素晴らしい英語学習本で、自習教材としてこれ以上のものはないだろう。英語のプロとして自信を持って推薦する。ちょうど先日、4月8日金曜日発売の雑誌『PRESIDENT』が「英語」レッスン革命というタイトルで様々な英語学習法の特集を組んでいるが、そこにも6ページを割いてハノンが紹介されている。興味のある方は是非ご一読いただきたい。きっとあなたも英語を勉強したくなってくるはずだ。

  

 

 

  

 

 

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