感覚で法則をつかむ方法〜『英文法をこわす』〜【10月英語本チャレンジ18】
「英語で何が嫌かといえば、文法だよっ!」と思っている人も多いかもしれません。三単現のsに不可算名詞、それに時制とか訳分からんと思ったことは誰しもあるでしょう。
でもおかしいと思いませんか?
日本語だって言い回しや表現が古くなったり、文法的にも「ら」抜き言葉がふつうになったり、と変遷しているというのに英語の文法だけが杓子定規に規則に則ったもの、なのでしょうか?
そんなこと、ありません。言葉は「生きて」います。私たちの思考や感情など言葉にならないことを表すもの、それが言葉つまり言語だと私は思っています。だから計算のように「1+1は2」方式でガチガチに覚えてしまうより、本書にあるように感覚で「感じた」方が分かりやすいと思うのです。
本書を書いたのは、NHKラジオ英会話で長年講師をつとめられている大西泰斗氏です。本書は2020年に出版された新書版ですが、もともとそこからさかのぼること17年前にNHKブックスとして世に出されていた本のようです。
中にこういう部分があります。
ちょっと引用には長めですが、興味深いところなので全文書きますね。
「「感覚」とは、ある表現に対してネイティブが抱いている感触であり、手触りだ。表現がネイティブの中に惹起する、未分化な心理的実在である。一方「イメージ」は、感覚に対して与えられた人工的な特徴づけだ。学習者に供するために形を与えられ定義された「感覚」であり、この文法体系を紡ぎ出す単位となる。「感覚」と「イメージ」は、生のフィールとそれに付された名前と考えてよい」
となると、すべては感覚がカギを握っていることになります。
私がなんとなくですがこういうことかな、と思ったのが、通訳をするときの話です。訳すために話者の話を聞いているのですが、言葉そのものを見ているのではなく、あくまで私自身が持つ感覚に基づいて内容を濾したものがきっとイメージだという感じではないか、と思うのです。
同じように文法と呼ばれる規則があるようだけど、規則があるのではなくて、それぞれの英単語、とくにonやinなどの前置詞、have、make、getなどの基本動詞が持つ役割をイメージとして持っていると、特定のケースでだけ分かるのではなく、いくらでも他の場面で応用が効くはずです。
前置詞のイメージに図が載せてあるのですが、これを見て、「あれ?」と思いました。以前、英語コーチを始めた時に評判がよいので買い求めた文法の本に同じ事が書いてあったよな、と。
それも当然、作者は同じ大西泰斗氏だし、巻末のあとがきによると、本書が最初にNHKブックスとして出たあと、「感覚の英文法」が一応の完成を見たのが、この『一億人の英文法』だったらしいのです。
そりゃ内容が同じように見えるはずですね。
ただ、『一億人の英文法』は厚みのある、いかにも参考書といった風情の本です。もう少し感覚の文法が説明している本書を眺めてみると、『一億人の英文法』がより理解できるかもしれません。
「語学に王道なし」とよく言われますが、この英語の「感覚」を身に付けることが一朝一夕でいかないから、ではないでしょうか。この「感覚」には、『言語の本質』を書いた今井むつみ氏のいう「スキーマ」にも似たものかもしれません。とある言葉の「感覚」に文化的背景が入らない訳がないですし、母国語の国語力が外国語を習得する際にも大きく影響する、という話もあります。鳥飼玖美子氏の『子どもの英語にどう向き合うか』(NHK新書)にも触れられていましたが、やはり言葉で人の思考のベースは作られる、ということになるのでしょう。
私自身はとくに英文法が好きでもキライでもありませんでしたが、文法を暗記しようと思ったことはありません。なんとなく身についたと思います。いや、翻訳者の方が書いた解説本を見ると、まだまだ甘いかもしれませんが。それでも感覚やイメージで把握した、という方がしっくり来ます。
文法は規則だけど、法律ではない、という感じでしょうか。全体をふわっと把握すると例外が多いとかなんとかは気にならなくなるような気がします。
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