エピソード1-1 邂逅
暇だった。コロナ禍で1度目の緊急事態宣言を終えた初夏のことである。かねてよりしつこく表示されてたマッチングアプリの広告に引き寄せられ、暇つぶしにでもとTinderを導入することにした。
何人かとマッチしメッセージのやりとりをする過程で、ある1人の女性と新宿で会う約束を付けた。
23区の北西部に住む彼女は、暑くなり始めた昼過ぎのアルタ前に現れた。予め決めていた無印良品のカフェで雑談をすることに。
「改めて初めまして」と互いに挨拶をし、今日に至るまでのことや趣味のこと、仕事や休日について話す。
その過程で彼女は話題を少しずつズラしていく。
将来の夢、仕事の不満、収入、そして現状に満足か?と質問をする。
マッチングアプリで人と会うのはcinemaly──
(映画好きが集うマッチングアプリ、今は名前が変わりエンタメ全般となっている)
──でしか経験が無かった私でも違和感を持ち始めた。何かが妙であると。
しかし大手マッチングアプリで人と会うのは初めての事だ。増してや当時は勧誘者との接触が無かった純粋無垢な頃である。その手の事はウワサ程度にしか知らなかったのだ。
故にこの違和感は些細な物として、ひとまず捨て置いた。そうして彼女の質問に答える。
将来の夢──特に決まってない
仕事の不満──概ね気に入ってる。概ね
収入──もっと上げてくれてもええんやで弊社
現状──さて、それなりに満足じゃない?
我ながら成り行きでのらりくらりと生きてきた青年らしい答えである。
質問にあらかた答え終えた所で彼女は会話を締めにかかった。楽しげな表情をしてはいるが、どうやらここまでのようだ。新宿駅で「また会いましょう」と社交辞令を交わして別れた。
ここまでだ。一応LINEでも「今日はありがとうございました」と挨拶をする。きっとこの先また会うことは無いだろうが。
しかし数日経ち、夜中にいきなりさ「今度友達の家で宅飲みするんだけど来ないか」ってLINE。
たった1度会っただけの関係にも拘わらず私をグループに招くという一種の奇行。別段同じ熱量かつ共通の趣味を持っている訳でもない。不審だ、実に不審だ。しかしそれ以上に好奇心をくすぐる。
彼女の目的は?何人規模か?どういった集まりなのか?何となく怪しいと感じていた人からの突然の誘い。断る理由など無いじゃあないか!
行くしかない。そして彼女らを知りたい。見たい。確かめたい。予感がした。何かが始まると。
続く。