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【中国語講座】把

今日はかなり小さい話ですが、“把 bă”という字の話でもしましょうかね。

この字を見てすぐ思い出すのは、何と言っても“把字句”、いわゆる“”フレーズですね。

把字句”は目的語を動詞の前に持っていく働きがあります。中国語はよく「SVO型」と言われ、目的語は動詞の後に置く言語です。英語と同じですね。でもこの“把字句”を使えば、「SOV型」の日本語と同じような語順になります。例えば:

我学完了第十课。
Wŏ xuéwánle dì shí kè.
私は第10課を学び終えた。
(“第十课”という目的語が“(完了)”という動詞の後ろに入っている)

これを“把字句”で書き換えてみると
我把第十课学完了。
Wŏ bă dì shé kè xuéwánle.
私は第10課を学び終えた。
(“第十课”という目的語が“”という前置詞を伴って動詞の前に移動している)

この[+目的語+動詞+α]というフレーズが、連動文の後側の動詞句として使われることもあります。例えばこんな感じ。

你去把椅子拿来。
Nĭ qù bă yĭzi nálai.
椅子を取りに行ってきて。

この文は連動文になっていますね。1つ目の動詞句が“”で、2つ目の動詞句が“把椅子拿来”です。

さて、ちょっと翻訳チェックの仕事をしていた時、こんな文が出てきました。

小李,搬把椅子来。
Xiăo Lĭ, bān bă yĭzi lái.

最初見た時、この文間違っていると思いました。翻訳前の日本語は「椅子持ってきて」なのですね。だとしたら:

小李,把椅子搬来。
 
とするべきなのかなぁと思ったのですね。

いや、もしかしたら、連動文?でもそれだと“把”が浮いちゃう。“把字句”の動詞は補語がついているなど、何か「プラスアルファ」の成分が必要です。“”だけではダメなのですね。

う~む、と悩むこと5分(笑)。伊藤、気づきました。

この“”は、量詞じゃん!!!

そう、“椅子”を数える量詞は“”ですね。つまり:

小李,搬一把椅子来。(李さん、椅子を一脚持ってきて。)

の“”が省略されていたのですね。

いや~、すっかり足をすくわれました(苦笑)。

これを機に、しっかり気を引き締めていきたいと思います。

通訳・翻訳家 伊藤 祥雄
大阪外国語大学外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院文学研究科 博士前期課程修了。通訳・翻訳業に加え、明治大学、東洋大学等の中国語講師を務める。NHK国際放送の中国語ネットニュース番組元キャスター。
著書に『すぐに役立つ中国語の基本単語集』(ナツメ社)をはじめ、『中国語検定対策2級問題集』(白水社)などの中検対策書多数。NHKテレビ「中国語!ナビ」のテキストで「中国語お悩み相談室」好評連載中。