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【中国語講座】変化の“了”
我々を時々悩ます“了 le”という助詞、皆さんは得意ですか? 僕は何年たってもちょっと苦手です(笑)。
でも今日は、苦手な「完了の“了”」ではなく、ちょっと得意な「変化の“了”」の話をしたいと思います。
こちらは必ず文末につけますね。例えば:
我有弟弟。
Wŏ yŏu dìdi.
これだと「私は弟がいる。」という意味で、状態を表していますが、この文の文末に“了”をつけると・・・
我有弟弟了。
Wŏ yŏu dìdi le.
こうなると「私は弟がいる、という状態になった」、つまり「私は弟ができた。」という意味になります。
そう、この「変化の“了”」を文末につけると、「そういう状態になった、~することになった、~することにする」という、状態や状況の変化を表す言い方になるのです。すごく便利ですね!
でも、「完了の“了”」と「変化の“了”」は同じ姿をしていますし、「完了の“了”」は場合によって文末に置かれることもありますので、我々には区別が難しい時もありますね。
例えば、この文。
吃饭了。
Chī fàn le.
これは、文脈によって両方の意味になりえます。
「ご飯食べた?」と尋ねられて答える時に言えば、「ご飯食べたよ。」という意味、つまり「完了の“了”」の意味になります。
一方、お父さんやお母さんがご飯を作り終わって子供を呼ぶ時に言えば、「ご飯だよ~。」という意味になります。これは、「ご飯を食べる状態になった。」という解釈になりますので、「変化の“了”」の意味です。
この例文の場合、「完了の“了”」だと考えると過去の話になりますが、「変化の“了”」と考えると未来の話になるのです。なんだかこういうの、痺れますね(笑)。
ところで、僕が某大学で使っているテキスト、色々いいところもあるのですが、ちょっと不用意なところもありまして(笑)、「完了の“了”」が初めて出て来る課の課文の冒頭がこの文なのです。
好久没见了。
Hăo jiŭ méi jiàn4 le.
お久しぶりです。
この課の「完了の“了”」の説明で、否定文では“没(有)”を使い、“了”は削除する、と教えているのですが、課文冒頭で“没”と“了”が同居してしまっている文が出てくるのですよ。学習者は混乱しますよねぇ(笑)。
この場合の“了”は、実は「変化の“了”」なのですね。“好久没见(久しく会っていない)”という状態になったな~、という感じでしょうか。
このように、「完了の“了”」が出て来ないはずの文で“了”が出てきたら、それは「変化の“了”」だと言えます。例えば:
他不高兴了。
Tā bù gāoxìng le.
「完了の“了”」は動作の完了を表すので、形容詞述語文には絶対につきません。この文の述語は“高兴(うれしい)”という意味の形容詞なので、この文の“了”は「完了の“了”」ではなく「変化の“了”」なのです。つまり意味は「彼はうれしくなくなった。→彼は不機嫌になった。」という意味なのですね。
学生さんに中国語で日記的なものを書いてもらうと、「形容詞述語文+了」がよく出てきます。それは、多分日本語では形容詞述語文も過去形にするからだと思います。例えば「楽しかった」とか「暑かった」を訳そうとすると
我很高兴了。
天气很热了。
と書いてしまうからではないかと思うのですね。でもこれは「形容詞述語文」ですから、過去形にできません。なのでもしこう書いてしまうと「私は楽しくなった」「暑くなった」というふうな意味になってしまいますね。
ではどうすればいいか、というと、そのままでOKです。
我很高兴。
Wŏ hěn gāoxìng.
天气很热。
Tiānqì hěn rè.
え?過去なのか現在なのか分からなくて困る?いいえ、困りません。会話や文章の中で出てきたら、文脈で分かりますし、“昨天”など過去の時点を表す言葉が入っていることも多いので、過去なのかどうかすぐ分かりますよね!
通訳・翻訳家 伊藤 祥雄
大阪外国語大学外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院文学研究科 博士前期課程修了。通訳・翻訳業に加え、明治大学、東洋大学等の中国語講師を務める。NHK国際放送の中国語ネットニュース番組元キャスター。
著書に『すぐに役立つ中国語の基本単語集』(ナツメ社)をはじめ、『中国語検定対策2級問題集』(白水社)などの中検対策書多数。NHKテレビ「中国語!ナビ」のテキストで「中国語お悩み相談室」好評連載中。