【中国語講座】南方の影響
今ちょっと仕事でHSK(汉语水平考试)の過去問を見る機会が多いのですが、皆さんはHSKを受けたことがありますか?
HSKは中国が作った検定試験です。実践力を試すというような方針があるのか、低い級の場合結構口語的表現が出題されているような感想を持ちました。
HSKは一番低いのが1級で、レベルが上がるごとに級の数字も上がっていきます。6級が一番上です。その内の4級の試験問題(中国語検定だと3級くらいのレベル?)を見ているのですが、先日「あれ?」と思う表現が出てきました。皆さんはどう思われますか?
例文1 热得人受不了。
まぁね、意味は分かりますよね。「暑くて耐えられない」と言いたいのでしょう。
でも、僕の知っている中国語ではないのです。僕の知っている中国語なら、次の2つのどちらかですね。
例文2 热得受不了。
例文3 热得让人受不了。
これは程度補語の文ですね。形容詞の後に“得”がついて、その後ろにその形容詞の表す意味の程度がどのくらいであるかを言う表現です。
例文2が多分一番簡単な表現ですね。“得”の後ろに「耐えられない」という言葉だけがシンプルに入っています。
例文3は“得”の後ろに“让人”が入っています。使役の言い方ですから、“让人受不了”は「人を耐えられなくさせる」という意味になります。つまり例文3は直訳すると「暑くて人を耐えられなくさせる」という意味です。
例文1は、直訳すると「暑くて人が耐えられなくなるほどだ」ということになりましょうか。論理的にはアリなのですが、僕は見たことがなくて、これはきっと“让”の1文字を誤って削除してしまったのではないかなと思いました。つまり脱字ですね。
そう思って仕事の依頼元の会社にお伺いを立ててみました。
最初、ネイティブの人に確認してくださったようで、その人はやはり「脱字かもしれませんね」とおっしゃったようです。僕も、ネットで色々類似の表現を検索してみたのですが、ほとんどヒットしませんでしたから、脱字という結論で決定かなと思いました。でも検定試験の過去問ですから、これが以前の実際の試験で使われたとしたらちょっと問題が大きくなるかもと思っていたのですが、、、
依頼元の会社が、念には念をということで言語学者さんに尋ねてみてくれたそうです。すると、、、
この言い方もまぁOKとのことだったのです!
その方曰く、南方風の言い方だと。普通話は北方系の言葉を規範として作られているが、南北の経済交流の影響からか、最近南方の表現も優勢になってきており、口語では南方系の言い方も許容されるようになってきている、これもその一環であろう、とのお話でした。
え~、そうなんだ~(苦笑)。
不勉強を暴露するような感じで恥ずかしいのですが、僕は以前から南方にはあまり興味がなくて、旅行でも長江流域以南にはほとんど行ったことがないのですよね。まぁ台湾にはここ数年よく行ってましたけど、そこまでたくさんは南方風の表現に接していなかったので、知りませんでした。
言葉は生き物ですから、変化には対応しなければならないと常々思っておりますが、今回の表現には、ちょっとたじろいでしまいました(笑)。
某局のネット配信のニュースも、繁体字版があり、字幕付きの動画とニューステキストだけ出しておりましたが、最近は音声入りの動画も配信されております。僕も少し制作に携わっているので、今後は南方系の中国語とも仲良く付き合っていきたいと思います。
皆さんも良かったら、NHK World Chinese-Traditional(繁体字の方)も見たり聞いたりしてみてくださいね。
簡体字の方も、どうぞこれまでと変わらぬごひいきをお願いします。
2021年5月までの記事は弊社の「翻訳コラム」でお読みいただけます。