「木原誠二事件」だけじゃなかった⁉ 露木康浩警察庁長官の勘違い采配で現場混乱~埼玉県の「たてこもり事件」に警視庁SITを増派して県警が反発
◆埼玉県蕨市の郵便局たてこもり事件に警視庁専門部隊を派遣
10月31日に発生した埼玉県蕨市の郵便局たてこもり事件に、警察庁の指示で警視庁専門部隊SITが派遣されていたことが分かった。SITとは警視庁の刑事部捜査第一課に設置された誘拐・ハイジャックなど人質がいる事件、大規模な業務上過失事件やテロ事件などに対処する専門部署で、高度な科学知識や捜査技術を持つ捜査員を配置している。
SITという名称は警視庁で使われているもので、Special Investigation Team(特別捜査チーム)の略だ。実は、同様の部署は各都道府県警の警察本部にも設置されており、一般的には特殊事件捜査係と呼ばれている。大阪府警は警視庁への対抗意識からか、MAAT(Martial Arts Attack Team=武術対処チーム)とより”攻撃的”な名称を使っている。まるで別物のようだが、人質事件では突入救出作戦も実施を担うので、それを強調したものだろう。
既にきちんとここまで読まれた方はお気づきだろうが、SIT同様の特殊事件捜査係は埼玉県警本部にも設置されている。なのに、なぜ東京都を管轄する警視庁SITが出動なのか?
◆容疑者は既に拳銃を他所で発砲の上、郵便局で2人の女性職員を人質に
事件を起こしたのは、無職・鈴木常雄容疑者(86)。鈴木容疑者は、戸田中央総合病院の1階診察室で医師と患者に向けて拳銃を発砲し、逃走。その間、自宅のアパートに放火し、営業中の蕨郵便局に押し入り、拳銃をかざして女性職員ふたりを人質にとり、午後2時15分頃から8時間にわたりたてこもった。その間、人質のふたりは隙を見て脱出している。
鈴木容疑者は、現場へガソリン入りポリタンクや包丁2本などを持ち込んでおり、重大な被害を引き起こしそうな状況だった。埼玉県警は刑事部門だけでなく、狙撃チームを含めた機動隊を動員し、200名態勢で現場を包囲し、容疑者を説得しながら状況に対処していた。
ところが、ほどなくして警察庁から「警視庁SITを派遣するから、共同して対処せよ」との指示が来て、実際にSIT要員が到着したという。この措置に、埼玉県警の現場も上層部も強く反発したという。現場取材もした記者はこう語る。
「昨年1月、埼玉県ふじみ野市で起きたたてこもり事件では、人質になった医師が撃たれたにもかかわらず状況を見誤り、突入が遅れて死なせてしまった。この痛切な経験から、今度の事件で県警は汚名を晴らそうと気合が入っていた。にも関わらず、警察庁から警視庁SIT派遣と共同対処指示が来て、現場の幹部たちは『オレたちを信用していないのか!』と憤っていた」
◆「SITがそんなに凄いのか? 先輩ヅラしやがって!」~現場の怒り沸騰
張り切って態勢をとった埼玉県警に対して、冷や水を浴びせる対応となったわけだが、現場の怒りは大きく、こんな状況で対処がうまくいくわけもない。前出の記者は、さらにこう語った。
「組織規模も予算も大きな首都の警察が設置するSITは、もちろん要員も装備も充実している。経験豊かな捜査員が他府県以上に多数、配置されているもの確かだ。しかし、県警関係者からすれば『SITがそんなに凄いのか? これまで散々失敗して被害者を出してきたではないか? 先輩ヅラしやがって!』というようになる。実際、現場に駆けつけたSITに対して、県警側は助言も一切聞かず、お客様扱いして手出しさせなかった。突入にも関わらせていない。結局、事件は片付いたが、犠牲者が出ていたらどうなったことか…」
こうしたエピソードを聞くと、都道府県警察同士の「なわばり意識」の弊害を感じる人もあるだろうが、いずれにしろ警察庁の頭越し指示でのSIT派遣は、現場を混乱させ足を引っ張ったとしか言えないものであるのも経過からは確かなことだ。そして、このSIT派遣を強く指示したのが、「木原誠二事件」で「事件性がない」などと検察官の権限を飛び越えてコメントしてしまった露木康浩警察庁長官なのである。
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