共産党人生の徒然―4
日本共産党内の「派閥」?
立命館派の暗躍と腐敗「人間的いがみあい」の
ドラマが尽きない共産主義運動史
最近、兵本達吉さんが二〇〇五年にものした著書『日本共産党の戦後秘史』(産経新聞社)を読みました。二〇〇五年というと私が日本共産党を除籍された翌年なのですが、兵本さんは私にとって国会秘書の先輩でわずかな期間ですが党内での付き合いがありました。
国会議員秘書として北朝鮮による日本人拉致問題の追及に打ち込んでいた方なんですが、一九九八年に「警察に退職後の再就職を依頼した」なんてわかりにくい理由で除名処分にされています。「あいつなら、やりかねない」なんて口の悪い他の先輩秘書が言っていましたが、どうも不可解な印象を持っていました。というより、北朝鮮による拉致問題を取り上げたこと自体が「指導部」(党中央委員会で不破氏を指す隠語です)の覚えよろしくなく、「本当の理由は違うな」と腹の底では思っていましたね。
まあ、兵本さんの問題は本題ではないので、また触れる機会があれば取り上げることとしましょう。
この『日本共産党の戦後秘史』はなかなかの労作で、埋もれていた史料や証言をもとにいわゆる「公式党史」(日本共産党が編集・発行して市販する『日本共産党の八〇年』のような)では書かれていない「五〇年問題」【※1】の本質や、それに付随した日本共産党関係の暴力事件、その他の歴史的出来事の中での党幹部たちや党全体の動きが生き生きと再現されています。兵本さんは年齢的にも私より二〇歳以上年長ですし、日本共産党に入党し、末端の党支部で活動していた時期がかなり違うので実際の活動体験も、その中で形成されてきた党員としてのアイデンテティーも相当異なっています(まだお互いに現役の国会秘書として言葉を交わしたときにも、そう感じていました)。
北朝鮮による拉致問題で言うなら家族の突然の失踪、それが北朝鮮による乱暴な対日工作による拉致によるものとの疑いが濃厚になる中、純粋に家族の悲しみと拉致被害者奪還への強い想いから取り組んだ自分の仕事が、党から正義とみなされず不本意にも追放されたという悔しさ。また、数十年、自分の人生をかけて積み上げてきた党員としての生活。これを振り返り総括する作業として兵本さんは歴史に埋もれた日本共産党の真実を確認しようと、この労作に取り組んだのでしょう。
「歴史に埋もれた」と私などが言ってみても言葉足らずにしか聞こえないでしょうが、実際は日本共産党がその歴代の最高指導部(特に宮本顕治以降の最高指導者が君臨して以降)によって恣意的に押し隠そうとされてきた事実の断片を拾い集め、ひっそりと暮らしている関係者を訪ねて確認していくという作業は、並みの根気とエネルギーでできることではありません。執念といってもよいでしょう。私も数年前に自分の党員生活を中心に振り返る著書(『いますぐ読みたい 日本共産党の謎』徳間書店)を出しましたが、ごく軽い読み物風のものです。厳しい歴史に斬り込んだこの労作には及びません。本稿の読者の方々にも、ぜひ兵本さんの労作をご一読いただきたいと思います(文庫判も出ているようです)。
さて、前ふりが長くなってしまいましたが、兵本さんの労作を読んであらためて思ったのは、日本共産党の俗な意味での「人間くささ」です。民主集中制という「鉄の規律」を標榜する共産党も、結局中央委員会以上の指導的幹部たちは、本質的には人間的な相性で徒党を形成し、時にグループ同士、あるいはそのトップに立つ幹部同士の感情的対立から「路線論争」の形をとった抗争が引き起こされるんだな、と文章を読みながら認識しました。「五〇年問題」の際に国際派と呼ばれた宮本顕治、主流派の徳田球一との間の対立も、結局のところ出自の違い(山口県出身のインテリと沖縄県出身のたたき上げ闘士)とそれを背景とした気質の違いがベースとなった感情的いがみあいの域を出ていません。
それなのに、「勝利」した側に都合よく後付けの理論で粉飾され、「自主独立の立場を守り、極左冒険主義を排した」宮本側の正しさという形で「総括」されているのが「公式党史」です。何も日本に限らず、ロシアでも、また一九世紀のマルクスの時代でも共産主義運動の歴史にはこうした「人間的いがみあい」のドラマが尽きません。
※1 「五〇年問題」とは、朝鮮戦争が勃発した一九五〇年前後にレッドパージなどの弾圧事態を受けた日本共産党が宮本顕治らを中心とする国際派と徳田書記長らを中心とする主流派に分裂し、非合法な暴力的闘争を展開した時期の諸問題を指す日本共産党の規定です。現在、徳田ら主流派が「極左冒険主義の武装闘争を行った」と宮本の系譜を引き継ぐ現党中央は説明していますが、兵本さんは著書でこの時期を「武装蜂起の時代」と呼び、ソ連、中国両共産党の指令を受けて日本共産党が実行した朝鮮戦争に呼応しての後方撹乱戦だと説明されています。しっくり理解できますね。
「東大閥」はないが「立命館閥」はある?
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