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南半球・ニュージーランドに27歳のマオリ新女王~「王位にふさわしい資質とは?」~その歴史的・社会的背景と影響


【画像① 亡くなったトゥヘイティア国王の葬儀の終盤で、次の王として指名されたのは国王の末娘であるナ・ワイ・ホノ・イ・テ・ポ・パキ女王(27)だ。マオリ族の伝統・文化を引き継いでいく使命を自覚して、文化研究と継承活動にいそしみながら19歳の時に伝統的な入れ墨を顎に施し、マオリ王族としてのアイデンティティと国王である父を支える強い意志を示したとされ「王位にふさわしい資質、叡智を備えらえている」とマオリ族社会でみなされるようになった。】





◆ニュージーランド・マオリ前国王の死去、新女王の誕生~マオリ族の権利後退の懸念が広まる中で…




ニュージーランドの先住民であるマオリ族のトゥヘイティア国王が8月30日、69歳で亡くなった。


「金曜日(8月30日)、マオリ国王トゥヘイティア・プータウ・テ・ウェロヘロ7世が69歳で安らかに亡くなり、ニュージーランド全土は喪に服した。…キインギ・トゥヘイティア(トゥヘイティア国王)がマオリ族に対し、現政権の政策に反対して(※)緊急に団結するようにという稀な宣言を出してわずか数カ月後の死は、マオリ族のみならずニュージーランドの多くの人に衝撃を与えた。先住民族であるマオリ族の権利をめぐる混乱の時代に、キインギ・トゥヘイティアは希望の灯ともいえる存在と信じられてきたからである」


※訳注:昨年10月にそれまでの労働党政権と代わって成立した保守政権が、マオリ族と英連邦(英王室をいただく政府)との間で1840年に結ばれたワイタンギ条約(国家的主権を英連邦が代表することを認める代わりにマオリ族側の土地所有と利用の権利を尊重することを内容とする)の運用について、先住民族であるマオリ族への譲歩を見直すとの方向性を打ち出したことに対して、反対する意向をトゥヘイティア国王は示した。


【画像② 8月30日に亡くなったニュージーランド・マオリのトゥヘイティア国王(享年69)。英国による入植開始よりさかのぼって、サモア、ポリネシア方面から海路でニュージーランドにたどり着き定着したマオリ族は酋長を頭とするいくつかの部族からなっていたが、1840年締結のワイタンギ条約以降、英連邦の影響下で自分たちの文化的自治の象徴としての国王を選出し(1858年から)、英連邦政府統治下に文化・習俗及び土地利用権を維持するための精神的かつ自治の中心としてのマオリ王国を形成するに至っている。マオリ族は現在、85万人程度とされ、ニュージーランド総人口の6分の1以上を占める。その舞踊などの文化は白人圏にも広まりニュージーランドを代表する文化ともなっている。】




「キインギ・トゥヘイティアは最後に公の場で姿を現した際、ニュージーランドの全国民に対してマオリ族の文化・習俗を尊重することを訴え、現状のニュージーランドにとって建国的文書というべきワイタンギ条約の運用変更に対する警告を発した。…2023年後半に右派政権が生まれ、これにともなってマオリ族の権利を後退させる政策提案がされてきたことに対してキインギ・トゥヘイティアは抗議し、全国的な集会を何度か呼び掛けた」


「マオリ族執行機関=ワイカト・タイヌイ・イウィの議長であるトゥコロイランギ・モーガン氏は、次のように語る。『現在、我々に対して敵対的になってきた政府に直面し、団結しようと努める我々にとって、キインギ・トゥヘイティアは希望の光だった。…彼は静かで、口数の少ない人だったが、彼の話す言葉のすみずみに深い意味が込められ、それを聞く我々は現実に対する幻滅から覚まされ、心を揺さぶられてきた。彼の喪失は、全くの絶望をもたらしている。大きな空白だ」


(参考)「ニュージーランド・マオリのトゥヘイティア国王が69歳で逝去」2024/8/29(英本国時間) 「ガーディアン」(英語報道)

https://www.theguardian.com/world/article/2024/aug/30/maori-king-tuheitia-paki-dies-aged-69-death-new-zealand


【画像③ 2015年、ニュージーランドを訪問したチャールズ皇太子(現国王)と歓談するトゥヘイティア国王。チャールズ国王はトゥヘイティア国王の訃報に接し、「何十年来の友人だ…深い悲しみにくれている」「彼は文化、伝統、癒しを基盤としてマオリとニュージーランドの力強い未来を築くことに深く尽力し、限りない叡智と慈悲心にあふれる行動を取り続けた」と述べた。】




しかし、ある意味での”危機”的状況は、マオリ国王の座を空位で過ごさせることがなかった。9月5日、前国王の葬儀期間(5日間の服喪期間)の最後にマオリ族に新たな女王が誕生したのだ。


「新女王の座についたのは、ナ・ワイ・ホノ・イ・テ・ポ・パキ氏(27)。ニュージーランドの北島で王位継承の儀式が盛大に行われた。…マオリ族は、13世紀から14世紀にかけて南太平洋の島々からカヌーでニュージーランドにやってきて定住したとされている」


「地元の人たちは、ナ・ワイ氏の新女王就任を『新たな夜明けだ』と称賛している。…ナ・ワイ女王にはテ・アリキ・タマロア・ワトゥモアナさん(30代)とテ・アリキ・トゥルキ・コロタンギさん(20代)の2人の兄がいるという。…一般的にマオリ族の王は長男から選ぶ傾向があり、今回、ナ・ワイ女王が選ばれたことは意外な選択であるとデイリー・メールは報じている」


【画像④ 9月5日、父であるトゥヘイティア国王の棺の前の王座に座るナ・ワイ・ホノ・イ・テ・ポ・パキ新女王。2人の兄をさしおいてマオリ族の評議会によって国王に選ばれた。マオリの女王は、彼女の祖母が最初で、2人目となる。】




「ニュージーランドは、マオリ族の権利や文化を尊重する政策を盛り込んだ「ワイタンギ条約」をマオリ族と締結している。…しかし、去年10月の総選挙の結果、政権交代し、ニュージーランド航空のCEOなどを務めたラクソン氏が首相に就任すると状況が一変する。新政権はワイタンギ条約の運用見直しやマオリ族への支援縮小を打ち出したというのだ」


「ナ・ワイ女王はマオリ文化研究に携わり、ワイタンギ条約締結地の保護活動にも力を入れていて、マオリ族の文化について信じられないほど豊富な知識を持っていると評価されているという。…ナ・ワイ女王の就任についてマオリ文化の専門家は、『AI、地球温暖化、その他多くの社会変化がマオリ族の存在を脅かす時代に、人々を導く若いリーダーシップが切望されていた』とAFP通信の取材に答えているという。…つまり彼女が選ばれた『意外な選択』の背景には、マオリ族の文化を深く理解していることがあった」


(参考)「NZ・マオリ族の新女王(27)が誕生
意外な選択の背景に『文化の豊富な知識』(「大下容子ワイド!スクランブル」2024年9月10日放送分より)」2024/9/10
テレ朝news
https://news.yahoo.co.jp/articles/4384acb0ed9c3a0ef3362cf3bc2aa2608def0ef1



◆ニュージーランド右派政権にも大きな影響を与えたマオリ国王交代劇




ナ・ワイ女王の誕生は、前国王の葬儀にマオリ族を中心とした多くのニュージーランド国民が参加したこととあわせて、マオリ族文化の尊重政策の後退を指向しようとした右派政権にも大きな影響を与えつつある。

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